少し前
「よし休憩終了。じゃあ続きだね」
気絶から復帰するや即座にシゴキ再開。気絶も休憩時間に含まれているらしい。
ルイは表面上は当然だと受け入れてはいるが腹の中では呪いの言葉を吐きまくっていた。
(お前偉そうにしてるけどなァ!? 僕は知ってんだからな世界が滅びるってよォ!!
原因が九十九の馬鹿ってことは付喪神関連だろ!? お前らの無能が原因じゃないか!!
泥棒泥棒税金泥棒! 職務を全うせず税金チューチューしてるゴミカスが舐めんなや!!)
※一部抜粋。
全体の一パーセントにも満たないが怒りは十分に伝わっただろう。
目にもの見せてやるという怒りがモチベーションとなりルイのギアは更に上がる。
モモからすれば意図したわけではないがある意味、この上なく最適な指導だった。
「さっきの休憩時間潰れたし座学もこのまま始めようか」
電磁投網で自分を動かしてのけたことを評価したのだろう。
今度はモモもバチバチに攻めていてルイは防戦一方。
少しでも気を抜けばやられるという中でこれである。
「付喪神は人為的に作ることが可能か否か」
「……ッ! そこ、は、正直、僕も気になっていた!!」
ハジメの能力は稀有であり脅威。極まった付喪神は同種を増やせる。
今ある情報だけを並べると付喪神を増やすことは容易ではないように思える。
だが冷静に考えるとどうだろう?
「一つ、聞きたい……チィッ!?」
「何かな?」
投げで地面に叩き付けられる。
受け身は取れたが完全ではない。それでも直ぐに動かねば追撃が来る。
痛みに苛まれながらも体勢を立て直し必死で距離を取る。
「呪い、呪術というものは存在しているのか?」
「ある。フッフ、つくづく出来た教え子だな君は」
モモは動きを止めた。息を整える時間をということだろう。
それでも目は続きをと促しているのだからスパルタの極みだ。
「ハッ……ハッ! 付喪神は、器物に染みついた思念が一定量を超えた結果だというのであれば……ッ」
量産は可能なのではないか。
例を挙げるなら呪いだ。呪いは怨念を用いて相手を害するもの。怨念もまた思念の一つだ。
思念を扱う技術があるならそれを応用して付喪神を作れるのでは?
「それを用いた時点で付喪神に至るための余白が消失するのだとしても」
「抜け道はありそうな気がする?」
「ああ」
「良い読みだ」
ここまでの推察は正しいとモモは小さく拍手をした。
直接思念を注ぎ込む技術を用いれば付喪神に至るための余白は消失するが抜け道も確かに存在している。
だがそうして生まれたそれはあくまで“モドキ”。
「百年に一年たらぬがつくもがみなら三も四も足りていない」
劣化でも意思と力を持つ器物でなければいけない場合を除けば使い魔などで代用は可能。
そしてそれは逆も然り。低級の使い魔の一種としてモドキを扱うものも居るという。
「だぁが、それはあくまで常識的な範疇で運用した場合に限る」
「……つまりコストや時間を度外視すれば話はまた変わって来ると?」
「正解。何か分かるかな?」
数秒考え、ルイは自身の推測を口にする。
「宗教――いや信仰?」
「これまた正解。いやはや本当に出来の良い教え子だよ君は」
信仰とは何も宗教に限ったものではない。
熱狂的なファンを信者、などと言ったりするように対象は神仏だけに限らない。
この信仰心が抜け道の一つなのだとモモは言う。
「強烈なカリスマを持つ人間の物品を土台にしたりすると本物より厄介なモドキが出来上がることがある。
細かな仕組みは後回しにして具体的な事例を一つ語ろうか。第二次大戦期、日本の同盟国は?」
枢軸国に属していた国家は幾つもある。
だがこの話の流れでとなれば一つだろう。
「……ドイツ?」
より正確に言うなら、
「そう。髭の総統閣下様だ。当時、あれに目をつけたよろしくない日本人が居てねえ」
金とコネをフル活用して内部に入り込んだのだという。
そしてヒトラー死後に遺品を掻っ攫い以後、長きに渡り闇に潜った。
「そして少し前――西暦二千年に奴は表舞台に舞い戻った」
「……二千年は少し前ではなくかなり昔――!?」
何なら僕は生まれてすらいないという言葉は続かなかった。
それより早く拳が飛んで来たからだ。
そうして指導という名の地獄の耐久レースが再開した。
やっぱあかんかったんや。
「どうなったと思う?」
「話の、流れからしてヒトラー由来の、付喪神が誕生したんだろうが……!!」
「そう。扇動能力など奴の恐ろしい部分のみを拡大解釈したような付喪神が誕生した」
単純な暴力もさることながらそれ以外の部分。
モモが言うところの拡大解釈された恐ろしい部分が猛威を振るった。
「世紀末に相応しい地獄だったさ。正直、思い出すだけでも向こう一週間うんざりするぐらいのねえ」
モドキとはいえコストや時間を度外視すれば酷く恐ろしいものが出来上がる。
つまりは、だ。
「お嬢さんの力が信仰を集めた人間の物品に使われたらどうなる? という話だ」
モドキですらヤバいものを純正の付喪神に変えてしまえる。
脅威はモドキのそれとは比べ物にならないだろう。
仮にヒトラー由来のモドキを作ろうとした男の手にハジメが囚われていたのなら……。
「……未曽有の大惨事になっていた、か」
「そう。だから君は今以上に頑張らないといけないわけだ」
指導はルイの霊力が底を尽き立つこともままならぬほどになるまで続いた。
「明日以降も霊力が尽きるまでやるよ」
そうすることで肉体の頑健さ、霊力の質、出力の向上に繋がるのだという。
ふざけた話だがルイには受け入れる以外の道はなかった。
「……りょう、かい」
「はは、息も絶え絶えだね。それでは電車に乗るのも辛いだろう」
今日は送ってあげるから住所を教えてくれと言う。
提出した書類見てねえのかよ税金泥棒と内心悪態を吐きつつルイが答えると、
「――――」
何故か驚いたように固まった。
「……どうした?」
「私とどこかで会ったことがないかと聞いたのを覚えてるかね?」
「それが?」
「いや多分、分かった。近所にヘラクレスというスーパーがあるだろう?」
「あるけど……」
ルイも週に何度か利用しているスーパーだ。
それがどうしたのかと聞き返すとモモは言った。
「私も時々、そこを利用してるのさ。あそこの惣菜、特にトンカツが好きでねえ」
「……ひょっとしたらどこかですれ違ってたかもしれない、と」
「多分ね」
というかスーパーの惣菜とか買うんだ。その見た目で。
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