事案か?
特異災害対策局九課。通称“付喪殺し”に入ることになったルイとハジメ。
バディを組むと言ってもいきなりというわけではない。何なら最初は別行動だ。
ハジメはまず一般家庭出身向けのカリキュラムから始めることになった。
『あの、神央くんはどうするんですか?』
『うん? 手続きを済ませたらお嬢さんのカリキュラムが終わるまで毎日私とマンツーマンで実戦形式の訓練に入るよ』
座学はその休憩時間にやらせるつもりとのこと。
ルイからすればふざけんな! という感想だが大口を叩いておいてそれはあまりにダサい。
なのでハジメに言わせるつもりで実際彼女は控えめに苦言を呈したのだが、
『君という特級の厄ネタと付き合うんだ。どれだけ詰め込んでも足りないぐらいさあ』
正論パンチ。
『で、でもあんまり無理をさせたら逆に効率良くないんじゃないですか?
疲れているのに無理をしても知識は身に着かないって神央くんも言ってましたし』
せめて座学の方はなしにするべきではないのか。
知識の面は後々、学んだ自分が伝えるなんてことも出来るのでは?
そうルイが反論すると、
『咄嗟の状況判断に専門的な知識が求められることは多い』
とバッサリ。
『あと無理をしても知識は身に着かないとは言うけどそれは並みの人間の場合は、だ』
知識だけの効率を求めるなら確かにこのやり方はよろしくない。
しかし戦闘力との両立を求める場合は別だ。
『だって彼、かなり頭切れるでしょ?』
へとへとで頭が回らない状態で尚且つ時間は十分、十五分を断続的に。
かなりキツイ条件ではあるがルイの知性ならば無茶を通せる。
モモがそう評価すると、
『確かに神央くんはすっごく頭良いです! 東大満点合格を狙ってるぐらいですから!!』
『おやおやそれはまた』
『今の段階でも合格確実で、前見せてもらった全国模試の結果もすごくて』
ハジメもベラベラ自慢を始める。
豚ですらおだてれば木に登るのだ。
中身ドブでもスペックが高く自己顕示欲の権化のような男をおだてりゃ天をもぶち抜く。
不満はあるがしょうがないと飲み込みあっさりハードスケジュールを受け入れた。
やっすい男やでえ。
「フッフ、意気は買うが未熟も未熟」
そんなこんなで翌々日から早速、指導が始まった。
ハジメの方は家族も居るのでもう少し時間はかかるがルイは一人だ。
後見人も遠方なので手続きが済めば直ぐに動ける。
「凡俗の上澄み程度ではお嬢さんを護れやしない、よ」
「くっ……!」
一瞬たりとも足を止めず全方位から果敢な攻めを行うルイだが触れることさえ出来ない。
今も扇子一本で攻撃を弾かれ投げられてしまった。
最初からずっとそうだ。モモはその場から一歩も動かず扇子一本でルイの攻めを捌き続けている。
(おのれおのれおのれおのれェエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!)
そしてそれがこの上なくルイの自尊心を傷付けていた。
内心の絶叫が完全にかませ悪役のそれである。
とはいえどれだけ怒っていても感情と行動を完全に切り離せるのがルイだ。
ある意味で戦士としては理想の姿なのかもしれない。
「……ほぉ? これはこれは。まだ教えてもいないことを」
ここに来てモモの薄笑いに感心の色が混ざりだす。
その視線の先では二刀を腰に収めたルイがバチバチと紫雷を迸らせている。
「術式を介さない霊力の変換。一応は高等技術なんだが、ね」
霊力を火や風などに変換する際、術式という工程を挟むのが常だ。
術式という変換器を通さず霊力のみでというのは紛うことなき高等技術である。
高等技術という枠の中では初歩に分類されるが並みの戦士ではそもそも出来ないぐらいには難度が高い。
それをいきなりやって見せるというのはモモとしても驚きだった。
「霊力操作の基礎である身体強化は死線の中で磨き上げられているから土台は出来ているが」
「……白々しい。僕がここに来てから何度投げられたと思ってるんだ」
扇子でひょいっと投げられる度にキレ散らかしながらもルイは違和感を探っていた。
その結果、二種類の投げられ方があることに気付いた。
一つは純粋な肉体操作の技術。
そしてもう一つが今話題に挙がっている霊力変換技術。
「あれは多分、風だ。風で加速や誘導の後押しをしていたんじゃないか?」
モモ固有の能力などという可能性もなくはない。
だがそれを圧倒的な格下にこの場面で使う意味はない。
というかそもそもの話、投げを二種類も使う意味がない。
だって徒手の技術のみでも問題なく投げ続けられるのだから。
「無意味な行動に他人を付き合わせて笑う趣味がないなら答えは一つ」
指導のため。
霊力をこんな使い方もあるのだと示唆していたとしか考えられない。
ゆえにルイは風を使った投げを注意深く観察することにした。
「……当たってはいるが、正直な話をするとこちらの意図とは少し違うねえ」
モモとしてはインターバルの時か今日の指導終わりに伝えるつもりだったのだ。
散々投げていたが実は二つの投げ方をしていたと。
「その上で次回以降の課題にするつもりだったのさ」
言葉にしない行動の裏にも強くなるためのヒントは隠されている。
なのでより注意深く見て考えましょうね、と。
予定では風を用いた投げを見抜いた後に霊力の変換について教えていくつもりだった。
「だってのに、だ。君は二段も三段も飛ばしてしまった」
見抜くのみならず自分で学びを得て身に着けてしまった。
無論、完全に習得したわけではない。モモからすればまだまだ拙いものだ。
それでもこの短時間で入口に立ったのは驚愕の一言。
「これでも君を高く買っていたつもりだが足りなかったようだ」
「僕なんてまだまださ」
言いつつも内心、ルイは得意満面だった。
さっきまでの燃え滾るような怒りを忘れてドヤ連発。
感情の振れ幅が大き過ぎる……疲れないのかな。
「謙遜も過ぎれば嫌味だよ。さて、それでどうするのかな?」
電気に変換したのはアジリティの向上ともう一つ理由がある。
「“こう使う”」
あやとりのように雷を手繰り編み込み拡げ投網を形成し投擲。
これで仕留められるとも有効打を与えられるとも思っていない。
それでも、
「今のままじゃ無理だろ」
動いて避けるか。霊力の出力を上げるか。
何にせよこれまでのレベルでは完全に捌けない。
「今は敵わずともただでは終わらない。せめて一矢、か。良いね、男の子だ。嫌いじゃないよ」
「!」
モモは出力を上げた霊力で投網を切り裂くと一息で懐に飛び込んだ。
そして情け容赦のない腹パンでルイの意識を刈り取った。
崩れ落ちたルイを抱き留めそっと床に横たえるとその顔を覗き込み、
「出来の悪い子ほど可愛いと言うがありゃ嘘だね」
そしてその額に唇を落とした。
「だってこの子はこんなにも可愛い」
事案か?
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