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お前がスパダリになれなかったせいで世界が滅びました。あーあ  作者: カブキマン


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別の女の話しないで!

 九月半ば。

 まだまだ残暑も厳しい時期だがルイたちには夏バテをしている暇もなかった。

 懸念していた広島・長崎決戦の余波が最近になり顕在化して来たせいだ。

 両組織の総力戦。それはどう足掻いても隠蔽し切れるものではない。

 あの戦いで異常戦力五人を欠いたという情報は裏の界隈にも知れ渡っていた。


『……今がチャンスなんじゃないか?』


 悪党たちがそう考えるのは当然だろう。

 即座に動かなかったのは大がかりな動きに入る前の準備と様子見の期間があったからだ。

 幾ら戦力が大幅に低下したとは言え新たに課長となったルイも含め八人の異常戦力が居るのだ。

 その動向を確認しないまま動くのは下策。ゆえに少しの間があったわけだ。


『弱ってはいるが、連中に手を出すのは上手くないな』


 考えなしに暴れる組織への対処はある意味、楽だ。

 急いで駆け付けて潰せば良いだけなのだから。

 問題は特対や一般人には手を出さず悪党同士の勢力争いに執心している者たちである。

 戦力が充実していた頃なら牽制や直接的な介入で勢力拡大を阻止出来た。

 だが今はそれどころではない。


『優先順位をつけるべきだね』

『一番は要人含む一般への被害を及ぼす者、二番がこちらに直接仕掛けて来る連中ってところか』

『そうね。それ以外まで手を出せばこちらは更なる痛手を負うことになるわ』


 これがルイたち課長陣の共通見解だった。

 後々面倒なことになると分かっていても見過ごさざるを得ない。

 忸怩たる思いだが解放戦線との二度目の決戦を控えている以上、仕方のないことだ。

 ともあれそういう事情もあり特対全体がかつてないほど慌ただしくなっていた。

 それこそ課長が直接、出向くなんてこともしょっちゅうだ。


(やれやれ……課長のこの僕がブルーカラーの真似事をしなきゃいけないなんてね)


 ルイもまた今日、特対にちょっかいをかけて来た組織へ殴り込みをかけていた。

 規模としては中の下程度。普段ならば放置しているようなところだが今回はそうもいかない。


「クソ! 何で異常戦力が……!?」

「待って! 降伏するわ! お願い話を聞いて!!」


 あちらからすれば殴り返されないという前提ありきのものだったのだろう。

 仮に反撃があるとしても課長クラスが来るなどとは夢にも思っていなかったのだ。

 実際、特対の縄張りにちょっかいを出しても見過ごされている組織は幾つもある。

 今回襲撃を受けた組織のやり口も無視出来る程度のものでしかない


「残念ながらそれは認められない」


 では何故、目をつけられたのか。


「ッ……見せしめか!?」

「正解。けど無差別に選んだわけではないよ」


 運が悪かった。

 そんな言い訳をさせるつもりは毛頭ない。


「襲撃をかけられるまでその可能性に思い至らない“頭の悪い組織”だから選んだのさ」


 見せしめで吊るされる。

 その可能性を視野に入れている組織とはつまるところある程度、抑止力が働いているということだ。

 だが思い至っていない組織には抑止力も何もない。だから徹底的に消す。

 瞬殺出来るのに閉じ込めて一人一人ゆっくりと始末しているのもそのため。

 凄惨な現場をメッセージにするのだ。


「く、クソったれぇえええええええええ!!」

「ただでやられるかよ!」

「舐めるなガキィ!!」


 どれだけ気炎を吐こうが厳然たる実力差の前では意味を成さない。

 一人一人、丁寧に丁寧に殺されていく。

 作業のように人の命を奪いながらルイは思う。


(……何だかなあ。嫌な感じだ)


 人の命を奪うことでは当然、ない。

 こうせざるを得ない状況が不愉快なのだ。


(九十九の馬鹿のために心を殺して非情に徹しているみたいなのが鬱陶しい)


 これまでの積み重ねだろう。周囲はそのようにルイを見ていた。

 依然としてハジメの身には危険が纏わりついている。

 頼りになる上司モモは死に、後事を託されてしまった。

 大切な人を護りたいという気持ちと責任感に突き動かされ手を汚している。

 スパダリムーブとしてはそう見られるのは悪いことではないが、


(何か大きな流れに囚われている気がしてならない)


 自由意思が介在しないわけではない。

 だが行動の結果が大勢に影響しなくなっている。そんな気がしてならないのだ。


(例えるなら古いロールプレイングゲームだ)


 昔のRPGはラスダン付近になると行動が制限されることが多かった。

 さっさと終わらせろと言わんばかりにレールが敷かれていたのだ。

 今、ルイはその感覚を味わっていた。

 何で昔のロープレ知ってんだよと思うかもしれないがそこはモモが原因である。

 付き合ってる時に懐ゲーを一緒にプレイしていたのだ。


(……ひょっとして僕、核心に至る道筋をつけちゃったか?)


 手探りでの探索は終了。

 必要な欠片は全て拾い集めた。

 後は真実に続く道を誘導に従って進むだけ。

 そんな段階に来ているのではないか。


(だとすれば次の展開は……雰囲気を作っておくか)


 見せしめのためのメッセージという性質上、凄惨であればあるほど良い。

 ルイは少しやり方を変えあちこちに血が飛び散るよう殺しまわった。


「……ぁぁ」


 全てを終え返り血で真っ赤に染まったルイは暗い室内で息を吐き出す。

 苦しい喘ぐような、それを必死で噛み殺しているような。

 傍から見ればそんな風に見えるように装った。

 すると、


【――――随分と無理をしているようだね】


 予想通りに機人佰號は現れた。


(出たな暫定ラスボス。僕の読み通りだ)


 全ての謎が白日の下に晒される道を進んでいるのであれば、だ。

 暫定ラスボス候補である機人佰號からまた接触があってもおかしくない。

 そう予想し見事、的中させた。

 そんなことなど露知らず機人佰號は続ける。


【そんなにあのお嬢さんが大事かい?】


 どうやら敵方からもそのように見られているらしい。

 内心舌打ちしつつルイは無表情で機人佰號に対応する。


「モモさんは死んだ。敵の首魁に不可逆の傷を刻んでな」

【知っている。見事な散り様だった。敵ながら天晴と言わざるを得ないよ】

「白々しいな。これも、お前の脚本通りなんじゃないか?」


 そも決戦の原因になった核の付喪神。

 そこに辿り着く切っ掛けが機人佰號の助言なのだ。


「次の演目は何だ? 弱った桃乃井千世に僕らをぶつけて両者共倒れでも狙っているのか?」

【やれやれ……当然と言えば当然だが随分警戒されているようだ】


 カタカタと体を揺らし機人佰號は笑う。


【話をしよう。安心してくれ、お互いにとって益のある話だとも】


 あなたにも利益のある話ですよ。

 こんなこと言う人間ほど信用のならない者は居ない。

 機人佰號もその例に漏れることはないだろう。姦計を巡らせているであろうことは想像に難くない。


(良い流れだ)


 だがルイにとっては好都合だった。

 正常な時間軸を生きる機人佰號には見えない利益があったから。

 これでまた一つ未知が明らかとなり物語が進むであろうことは想像に難くない。

 内心小躍りしつつ、表面上は苦虫を噛み潰したような顔をしてルイは答える。


「……聞くだけ、聞こう」

【賢明な判断だ。そうせざるを得ないことを君はちゃんと理解している】


 機人佰號はハジメの存在を知っている。

 これだけでルイ(表面上)や特対にとっては致命的なまでの弱味となる。

 そんな相手からの話を跳ね除けるには現状、何もかもが足りていない。


【まず明言しておこう。桃井千世は私にとっても目障りな存在でね。

君たちをぶつけて共倒れを狙っているというのもまあその通りだ。

ただ誤解しないで欲しいのは君たちに関しては消えてくれればラッキー程度のもの】


 本命は桃井千世だという。

 オマケ扱いされたルイは反射的に禁術(自爆)を発動しそうになるが寸前で踏み止まる。

 馬鹿に鋏を持たせてはいけない。ルイを見ていると説得力が累乗で増していくようだ。


【最優先は奴だ。君らには何としても奴を殺してもらわねばならない】


 そこで機人佰號は深々と溜息を吐く。


【だからこそ現状はよろしくない。何故だか分かるかね?】

「……リソースを無駄に擦り減らしているから、かな」

【そうだ】


 先にも述べたように特対は今、繁忙期も繁忙期。

 調子に乗った馬鹿どもの対処でてんてこまいだ。

 それは機人佰號にとっては望ましいものではない。

 解放戦線――もっと言うなら千世に割くリソースが減ってしまうからだ。


「お前の都合など知ったこっちゃないよ。それとも何かい?」


 こちらの負担を軽くしてくれるとでも?

 小馬鹿にするようにそう言えば機人佰號は話が早いじゃないかと笑った。


「……何?」

【全てをというのは不可能だ。流石に手が足りない】


 だが幾らかは“はしゃいでいる奴ら”の動きを牽制出来る。

 機人佰號はハッキリと協力を申し出た。


「……」


 考え込む“振り”をする。

 意図を探りつつ、呑めばどれだけこちらの負担を軽減出来るか。

 そんなことを考えているように装っているがルイの中ではもう結論は出ていた。


(断るという選択肢はないな)


 機人佰號の目論見が進むということはその目的が明らかになるということなのだから。

 全容は見えずとも断片が見えれば推測も出来る。

 仮に失敗しても禁術リセットでまた最初からやり直せば良い。


(なら僕が今すべきことは何だ? どれだけ譲歩を引き出せるかだ)


 それによって機人佰號の本気具合を確かめる。

 どこまで相手が許容するかで懐具合も見えて来る。

 仮に失敗しても以下略なので吹っ掛けるだけ吹っ掛けても損はない。


(まあでも、あんまり無茶な要求だと僕が馬鹿に見えるからな)


 賢明な人間であるというラインを崩さない程度にだ。

 リセットがあるとは言え一時でも小馬鹿にされるのは受け入れられない。


(ああそうだ。ついでにスパダリポイントも稼いでおくか)


 自分の中で方針を固めたルイは探るように口を開く。


「……足りないな」

【ほう】


 当然、機人佰號も探られていることには気付いている。

 というか気付いてくれないとルイとしても困る。

 敵の提案を受けざるを得ない状況下でも安易には乗らず最善を尽くす。

 そういうセルフプロデュースが台無しになってしまうからだ。


「手も足りなければ物も足りない。僕らを矢面に立たせようというなら出せるものは出すべきじゃないか?」

【だが解放戦線を放置することは君らにとっても望ましいことではなかろう】


 何なら別のやり方で千世の排除を試してみても良い。

 絶対に特対を利用しなければいけないというわけではないのだ。


「だろうね。……モモさんたちが不可逆の傷を刻んだ時点である程度、目的は達成されてるからね」


 倒すのは無理でも解放戦線側の計画を遅延させる手は幾らでもある。

 特対を動かすのは一番楽でスムーズというだけなのだから。


「だが勘違いするなよ。こっちだって手段を選ばないやり方は出来るんだよ」

【ふむ?】

「お前の目論見にハジメさんの異能が大きく関わっているのは明白だ」

【……彼女を殺す、と?】

「違う。一緒に死ぬんだよ」

【――――】


 機人佰號が息を呑む。


「……僕は一人の女性として彼女を愛している」


 反吐が出る。嘘でも言いたくない。

 けど、この後の論法を成立させるためにはこれが必須なのだ。

 心身を八つ裂きにされるような苦痛がルイを襲っていた――最低だなホント。


【そんな相手に無理心中を強いると?】

「無理心中じゃないよ。納得づくでさ」


 僕が彼女を愛しているように彼女もまた僕を愛してくれている。

 自惚れでも何でもなく自分たちは両想いなのだ。

 それでも尚、想いを告げられないのは葛藤があるから。


「汚れた僕の手でハジメさんを抱き締める資格があるのか。

けど全てを明かせば彼女は僕を受け入れてくれるだろう。……そういう、(ヒト)なんだよ」


 嬉しそうに、切なさそうにルイは言う。


「だから僕が意図を説明し心底から望めば」

【……命を捧げる、か】

「ああ。最低のやり方だとは分かっている。だけどね、これはこれでと思う自分も居るんだ」


 不吉な色気を作り出す。


「お前がの目論見を阻めるとかそういうことじゃない。極々私的なことさ。

愛する資格がない、僕よりも他の誰かの方がハジメさんを幸せにしてくれる。

そう思いながらも僕の中の醜い自分が言ってるんだ。一緒に死ねば、もう誰にも渡さないで済むってね」


 歪んだ激しい愛情。独占欲。

 それもまた女性向け作品でのお約束である。

 当人に見せないのみ意味ある? あるのだ。

 第三者にそう認識されているということを活かせることもある。

 布石なんて幾ら打っておいても損はないというのがルイの考えなのだ。


「具体的な手段を教えてやろうか?」

【……あのお嬢さんほどの規格外だ。禁術の贄に己を使えば桃井千世の排除も容易だろう】

「そうだ。僕の命も加えれば桃井千世と未だ底を見せていないお前にも痛手を与えられる」


 排除が最善。それが無理でもモモがやったように不可逆の傷を刻むぐらいは出来るかもしれない

 公の敵を一人消してもう一人にも痛打を与えられてその上、私的な欲求も満たせる。


「僕に損はないと思うが?」

【……やるじゃないか】


 言葉とは裏腹に機人佰號の声には不機嫌さと焦りが滲んでいるように思えた。

 つまりこの行動は嫌がらせになるわけだとルイは内心でほくそ笑む。


【正直、ここまでとは思っていなかった】


 少々早口でそう答え機人佰號は良いだろうと譲歩を受け入れた。

 その上でどれだけ譲れるかを洗いざらいぶちまけ問う。


【こちらの話を受けるかね? 一度持ち帰るのはなしだ。この場で……】

「受ける。だが」

【分かっているとも。しっかり契約を結ぼうじゃないか】


 こうして一人と一体の交渉はまとまった。

 機人佰號は去り一人残されたルイは考える。


(……想定よりも遥かにデカい譲歩案だったな)


 だが直ぐに頭を振ると考えを打ち切った。


(ま、僕に損はないし別に良っか)

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オマケ扱いされたルイは反射的に禁術(自爆)を発動しそうになるが寸前で踏み止まる。 禁術が軽すぎる(笑)スーファミのリセットボタンかな? そして世界滅亡の力が手に入らない無かったらハジメちゃん贄にしてさ…
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