実行
ハウンドとレインが施設の正面ゲートに向かおうとした、その瞬間——
ピピッ
バングルの通信ラインが点滅し、シードの軽快な声が響いた。
「お前ら考えもなしに突っ込むとか、正気かいな?」
レインは立ち止まり、溜息をつく。
「……シードか。」
「せや。ワイにちょっと時間くれんか?」
ハウンドは腕を組み、苛立たしげに小さく舌を打つ。
「通信を入れるってことは、何か分かったんだろうな?」
「まあな。とりあえず、"ニシル"についてわかったことをまとめるで。」
「まずやな、このニシルっちゅう企業、表向きは"新素材開発"やけど、実際には軍事技術の研究施設として動いとる。」
「その軍事技術ってのは具体的に?」
レインが尋ねる。
「そこが問題や。"適合者"の強化実験をやっとるっぽいんや。」
レインとハウンドは無言で顔を見合わせた。
「"適合者"を強化する……?」
「せや。ワイの解析したデータによると、"才能の拡張技術"を研究しとる可能性が高い。」
「才能の拡張?」
「つまりやな……既存の才能を"強制的に進化させる"技術や。」
「……」
ハウンドの表情が険しくなる。
「才能は"生まれながらの資質"だ。それを人為的にいじるのは……倫理的にアウトだな。」
「でも、それが目的なら、"実験材料"が必要になる。」
レインはゆっくりと言葉を絞り出した。
「つまり、"実験場"ってのは……才能を操作された適合者のテスト場ってことか。」
「そゆことや。」
「"選別"をさらに加速させる気か。」
「で、問題はこっからや。」
シードの声がやや沈んだ。
「この実験、成功しとる可能性が高い。」
「……は?」
「いくつかの軍事データを抜いてみたんやけどな、"適合者の能力値が基準を超えた"っちゅう報告が何件も上がっとる。」
「つまり、"成功した適合者"がすでにいる?」
「せや。で、そいつらの名前はな、"█████"って全部黒塗りや。」
「機密扱いってことか……。」
「で、ワイが言いたいのはここや。お前ら、今から潜入するんやろ?」
「もちろんだ。」
ハウンドは即答する。
「ほな、目的をちゃんと決めて動こうや。」
シードの提案は、以下の3つだった。
• "適合者の実験データ"の確保(何が行われているのか、証拠を掴む)
• "実験の対象者"の救出(すでに人間扱いされていない可能性がある)
• "実験場そのものの破壊"の検討(情報次第では、施設の機能停止を狙う)
「どれを優先するか、決めといた方がええで。」
レインとハウンドは少しの間、思案する。
「情報がなければ、救出も破壊もできない。」
レインが言う。
「まずは"実験データの確保"が優先か。」
ハウンドも頷く。
「決まりやな。」
シードが軽く指を鳴らした。
「じゃあ、撤退条件も決めとこか。」
「撤退条件を3つ設定する。」
• "敵に正体がバレた場合"
• "予想以上の戦力が配備されていた場合"
• "想定外の異常事態が発生した場合"
「基本的には隠密行動を維持する。もしバレても、撤退ルートは確保してあるから落ち着いて動け。」
「撤退ルートは?」
「北側の地下搬入口や。通常の出入り口は塞がれる可能性があるけど、搬入口は緊急時用の別ルートが存在する。追手が出たらそっちに回れ。」
「了解。」
「ほな、最後にもう一回確認や。」
潜入目的: "実験データの確保"
撤退条件: バレたら即撤退、戦力過多なら撤退、異常発生したら撤退
脱出ルート: 北側地下搬入口
「オーケー、お前らの腕にかかっとるで。」
ハウンドは通信を切り、レインに目を向けた。
「お前、準備はいいか?」
レインはバングルをタップし、戦術ナイフのホルダーを調整する。
「上等だ。行こうぜ。」
二人は施設の入り口に向かい、静かに歩みを進めた。
(ニシルの実験……その真相を暴く。)
レインは冷静に息を整え、足を止めることなく前へと進んでいった——。




