種
ハウンドとレインがニシルの現地調査に向かった後、シードはR9のメインオフィスに足を運んでいた。
ザイオンは相変わらずのスタイルで、デスクに足を投げ出し、煙草をくゆらせている。
「おっ、シードか。何の用だ?」
「ちょっと調べてたことがあってなぁ。」
シードは軽く手を挙げながら、持ってきたポータブル端末をテーブルに置く。
「ニシルの件も気になるけど、ワイが追いたいのは本丸の"アララト"や。」
ザイオンは微かに目を細める。
「ザイオン兄さんも気になっとるんちゃう? 」
シードは端末を開き、仮想ディスプレイにいくつかのデータを投影した。
「まずは"表の情報"や。アララトは最近、政府機関との契約を異様に増やしとる。データ管理、才能解析、公共インフラ……まるで"社会全体を牛耳る準備"でもしとるみたいや。」
ザイオンは煙草の灰を落としながら、画面を覗き込む。
「それが"裏"とどう繋がる?」
「問題はここからや。」
シードは指をスライドさせ、別のデータを映し出した。
「"適性者管理プロジェクト"、これに見覚えあるか?」
ザイオンは微かに眉を動かした。
「聞いたことはあるが、詳細は知らねぇな。」
「それもそのはず、表向きには"存在しない"プロジェクトやからな。」
シードはニヤリと笑いながら、データの一覧をスクロールする。
「このプロジェクトの概要は簡単に言えば、"才能の最適配分"や。"どの才能をどこに割り振れば、社会の生産性が最も高まるか"っていう理論の構築を目的としてるらしい。」
「……超合理主義らしい発想だな。」
「せやろ?」
シードは肩をすくめる。
「でも、問題はその"最適配分"の基準や。"役に立つ才能"と"役に立たない才能"、その線引きを誰が決めるか?」
ザイオンは腕を組み、煙を吐いた。
「……アララトか。」
「せや。」
シードは端末を操作し、次のデータを投影する。
「ワイが調べた限り、この"適性者管理プロジェクト"は、既に"実験段階"に入っとる。つまり、"才能の選別"が始まってるっちゅうことや。」
「……おい、それはつまり——」
「お察しの通り。"不要な才能"は"切り捨てられる"っちゅうことや。」
ザイオンは煙草を指で弾き、灰皿に落とした。
「……クソが。」
「ほんで、これがさらにヤバい話なんやけどな。」
シードは画面をスクロールし、別のデータを映し出す。
「このプロジェクトの"資金提供者"、どこやと思う?」
ザイオンは無言で画面を睨んだ。
シードはニヤリと笑いながら、その名前を指で示す。
「"政府"や。」
ザイオンの表情が一瞬、険しくなる。
「……つまり、アララトは政府と手を組んで"才能の淘汰"を始めるつもりってわけか。」
「おそらくな。」
シードは腕を組み、ため息をついた。
「それもただの選別やない。"軍事転用可能な才能"が優先的に生き残り、社会維持のための才能が次に選別され、"役に立たない才能"は切り捨てられる。」
「……まるで家畜の選別だな。」
「せや。"価値のある個体"と"価値のない個体"を分けて、効率のいい世界を作ろうっちゅう魂胆や。」
ザイオンは沈黙したまま、データをじっと見つめる。
「この話……ハウンドが聞いたらどう思う?」
シードがふと呟くと、ザイオンは苦笑しながら煙を吹き出した。
「反発するだろうな。だが、奴は"アララト出身"だ。」
「せやな。」
シードは少し考え込むように、指先をトントンとデスクに叩いた。
「……この情報、どうする?」
「まずはレインたちの調査結果を待つ。その後、アララトに本格的に手を突っ込む。」
「ほな、ワイは引き続き掘り進めるわ。」
シードはデータを保存し、端末を閉じる。
「そっちの準備が整ったら、また連絡くれや。」
ザイオンは頷きながら、再び煙草に火をつけた。
「……アララトの動きが本格的になれば、この世界は根本から変わるかもしれねぇな。」
「変わるっちゅうか……"変えられる"って話やな。」
シードはニヤリと笑いながら、部屋を後にした。
(さて、次はどこまで潜るか……。)
彼はポケットから端末を取り出し、軽く指を滑らせる。
——電脳の世界は、まだまだ奥が深い。




