陰謀
武器庫での準備を終えたレインとハウンドは、車両エリアへと向かった。
そこに待っていたのは、一台のフロートモービル——通常の自動航行システムが施されたモデルとは異なり、マニュアル操作仕様に改造された特別車両だった。
「お前、わざわざこんな仕様に?」
レインは車体を見上げながら問いかける。
「当然だ。私は機械に命を預けるつもりはない。」
ハウンドは淡々と答えると、ドアを開け運転席へと乗り込んだ。
「お前が運転するのか?」
「お前に任せて事故るのはごめんだからな。」
ハウンドはダッシュボードを叩き、エンジンを始動させる。
低い駆動音と共に、フロートモービルが浮上する。
「ハトに頼んで自動操縦を解除してもらった。AI制御は便利だが、"もしもの時"に対応できない。」
「……まあ、お前らしいな。」
レインは助手席に乗り込み、シートベルトを締めた。
「他にもカスタムしてるのか?」
「排気ノイズ軽減、衝撃吸収フレーム、防弾仕様の強化ガラス——それと、万が一のための隠し武器を仕込んである。」
「お前、どんな戦場に行くつもりなんだ?」
「油断しないだけだ。」
ハウンドはギアを操作し、スロットルを軽く押し込む。
フロートモービルが静かに加速し、滑るように通路を抜けていく。
レインは助手席に座りながらホログラムディスプレイを操作していた。
「ニシル……アララトの傘下企業で、正式な業務は新素材開発か。」
レインはデータをスクロールしながら呟いた。
「だが、最近の動きが妙だな。」
ハウンドがハンドルを握りながら、片手で車内のモニターを操作する。
「具体的には?」
「元々、ニシルは軍需産業とは無縁のはずだった。それが、半年ほど前から防衛省との契約が急増している。」
「どんな契約内容だ?」
「それが分からない。"機密事項"で非公開になっている。」
「……隠す理由がある、ってことだな。」
ハウンドは短く息を吐き、視線を前方の景色に戻した。
「となると、まずは外堀から埋める。ニシルの下請けや関係者を探って、内部情報を引き出すしかない。」
「手頃な相手はいるのか?」
「いる。」
レインはディスプレイに一人の名前を映し出した。
「ライナー・ヴァイス、42歳。以前ニシルの技術部門にいたが、数か月前に解雇された。公式には"業績不振によるリストラ"だが、タイミングが不自然すぎる。」
「つまり、何かを知っていたか、余計なことをしたか……。」
「どちらにしても、話を聞く価値はある。」
ハウンドは軽く顎を撫でながら言った。
「ライナーの居場所は?」
「現在はフリーの技術コンサルとして働いている。最近は旧市街のバーに頻繁に出入りしているらしい。」
「よし、行くぞ。」
ハウンドはアクセルを踏み込み、フロートモービルを急発進させた。
(さて、ニシルの秘密……どこまで深いものか。)
レインはぼんやりと流れる街の景色を見つめながら、次の展開を考えていた。




