装備
レインとハウンドは、任務のための装備を整えるため、R9の武器庫へと向かった。
無機質な廊下を進み、分厚い金属扉の前で立ち止まる。
ハウンドが端末をかざすと、低い電子音と共にロックが解除された。
ガシャン——
扉が左右にスライドし、二人は武器庫の中へと足を踏み入れる。
武器ラックが整然と並び、銃火器からナイフ、防護具まで、あらゆる戦闘装備が揃っていた。
「装備は私と同じものを選べ。」
ハウンドが当然のように言い放つ。
「……なんでだ?」
「私の動きを学んでいるのだろう?」
レインは黙って頷く。
「なら、武器も同じにしろ。そのほうが再現度が高まる。」
合理的な理由だ。
ハウンドの動きを観察し、それを模倣するなら、同じ装備のほうが効率的だろう。
「……まぁ、異論はない。」
「おやおや、面白い話をしているな。」
軽やかな声が響いた。
レインが声の方を見ると、カウンターの奥からひょこっと顔を出す男がいた。
白いスーツに、襟元には小さな羽のブローチ。
髪は柔らかそうなウェーブがかかり、眼鏡の奥には細めた瞳。
どこか飄々としており、静かに微笑んでいるが、妙な貫禄がある。
「お前は?」
レインが問いかけると、男はニコリと微笑んだ。
「"ハト"と呼んでくれ。R9の武器管理人さ。」
「……ハト?」
「"ノアの箱舟"において、ハトは最初に新天地の存在を知らせた鳥だ。」
「つまり?」
「お前たちに、戦場の"新天地"を授けるのが俺の仕事ってことさ。」
「なるほど、武器商人ってわけか。」
「まぁ、そんなところだな。」
ハトはカウンターに肘をつき、穏やかに笑う。
「さて、どんな装備が必要なんだ?」
「私と同じものを。」
ハウンドが即答する。
ハトは意外そうに眉を上げた。
「へぇ、珍しいな。お前が誰かと同じ装備を使わせるなんて。」
「理由は不要だ。準備をしろ。」
「はいはい、了解。」
ハトはラックの中から、いくつかの装備を取り出した。
「まず、これはお前たちが使うメインウェポンだ。」
カスタム仕様のハンドガン"Viper-9D"(デュアル仕様)
「これは拡張性の高いモデルで、カービンキットを装着すれば中距離戦にも対応できる。
デュアルで使う前提でバランス調整されているが、リコイル制御はお前次第だな。」
レインは二丁の銃を手に取り、グリップの感触を確かめた。
確かに、軽くて扱いやすい。
「デュアルガンか。」
「いい選択だ。両手に持って戦うなら、視野の広さと身体の使い方が重要になる。」
ハウンドはすでに同じモデルを手にしており、スライドを引いてチェックしている。
「一応、バックアップ用の武器も持っていけ。」
ハトが差し出したのは、C-17コンパクトモデル。サブマシンガンだ。
「隠し持つには最適なモデルだ。ストックなしでも安定して撃てるし、接近戦でも使える。」
「ふむ。」
ハウンドが無言で受け取る。
「次にナイフ。」
ハトは、カーバイドコーティングのダガーを取り出した。
「刃こぼれしにくいし、鋭さも申し分ない。お前たちの戦闘スタイルなら、ナイフ一本は必須だろうな。」
「……使えるものは使う。」
レインはナイフを確認し、ホルスターに収めた。
「さて、最後に防具だ。」
ハトがロッカーから取り出したのは、**スニーキングスーツ"Nightfall"**だった。
「これは特殊部隊仕様の軽量戦闘服だ。強化繊維とナノカーボンが組み込まれていて、一定の弾道衝撃を吸収する。
それだけじゃない。温度調整機能、暗視補助システム、音の反響を抑える特殊素材も使用されてる。
要するに"気配を殺す"ためのスーツだ。」
レインは手に取り、スーツの質感を確認する。
薄いが、確かに防御力はありそうだ。
「……動きやすいか?」
「最高だぞ。」
ハウンドはすでにスーツを装着し、グローブを嵌めていた。
「お前の動きを再現するなら、俺も同じものを着る。」
「いい判断だ。」
「よし、これで最後にコートを着て、お前たちの装備は完了だ。」
ハトは満足げに腕を組んだ。
「お前たちはこの装備をどう使う?」
「どう、とは?」
「戦い方だよ。」
ハトはニヤリと笑った。
「ハウンド、お前はカンフーを使うだろう? 銃なんていらないんじゃないのか?」
「……状況による。」
「だろうな。」
ハトはレインを見た。
「お前はどうする?」
「……俺は、"観察"する。」
「……ほう?」
「ハウンドの動きを観察し、それを模倣し、最適解を見つける。そのためには、同じ装備が必要だ。」
「なるほど……お前、面白いこと言うな。」
ハトは笑いながら頷いた。
「なら、しっかり使いこなしてくれよ。」
「……ああ。」
レインはViper-9Dのグリップを握りしめた。
「さて、準備は整ったな。」
ハウンドが腕を組み、レインを見た。
「行くぞ。」
「……ああ。」
二人は武器庫を後にし、調査へ向かう。
(この装備で、俺はどこまで"再現"できるのか……)
レインは無意識に拳を握りしめた。
任務は、すでに始まっていた。




