表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
55/63

初仕事


ザイオンの部屋に入ると、いつものように薄暗い空間の中で紫煙が漂っていた。

彼は椅子に座り、煙草をくゆらせながらこちらを見ている。


「よぉ、もう来たか。仕事熱心だな。」


「その不釣りな机と椅子は変えたらどうなんだ...まあ別にいいが。」


レインは椅子を引き、ザイオンの向かいに腰を下ろした。

ハウンドも無言で立ったまま、腕を組みながら視線を向けている。


「で、何の話だ? 俺が何か悪さしたか?」


「違う。総理が変わった。」


ザイオンは煙を吐き出しながら、薄く笑った。


「知ってる。ニュースくらい見てる。」


「超合理主義の色が強い人だろう?」


「まぁな。元々才能社会の徹底を訴えていたし、公共データバンクの強化にも積極的だった。何より"効率"を最優先するタイプだ。」


ザイオンは腕を組み、慎重に言葉を選びながら続けた。


「……アララトとの癒着が懸念されている。すでに噂が出回ってる。」


ハウンドはその言葉に反応するように眉を上げた。


「馬鹿げている。」


「つまり、それは事実なのか?」


ザイオンはため息をつき、煙草を灰皿に押し付けた。


「正確には"事実になりつつある"ってとこだな。今のところ決定的な証拠はないが、アララトの影響力が急激に増しているのは間違いない。」


「具体的にどういうことだ?」


「簡単に言うと、"才能ランクの管理"をさらに厳格化しようとしている。」


「……才能ランクの管理?」


「公共データバンクの監視システムが強化され、才能ランクの低い者への支援が削減される方針が進んでいる。逆に、ランクの高い者はさらに優遇され、社会のリソースがそっちに集中する仕組みになりつつある。」


「……才能階級の固定化、か。」


レインが低く呟いた。その声にはわずかに棘が混じっている。


「それだけじゃない。アララトは"国家防衛の強化"を名目に、戦闘AIや治安維持部隊を増強しようとしている。だが、実際には"才能の適正を満たさない者を監視・排除するための装置"になりかねない。」


レインは静かに息を吐いた。


「才能のランクが低い者は、努力しても這い上がれない……そんな世界になるってことか。」


「そういうことだ。」


ザイオンは苦い笑みを浮かべる。


「今までは、一応"努力で才能を活かす"っていう幻想があったが、それすらなくなろうとしてる。」


「このままいけば……」


レインは言葉を切り、ハウンドに視線を向けた。


「"適正のない人間は生きる資格すらない"、そういう社会になる可能性がある。」


「何が悪い?」


ハウンドが腕を組んだまま、淡々と言い放つ。その目は冷たい。


「才能のない者が淘汰されるのは、当然の流れだ。そもそも、努力でどうにかなる世界ではない。」


「……お前、マジで言ってんのか?」


レインはハウンドを睨んだ。

だが、ハウンドはその視線に怯むことなく、むしろ苛立たしげに言葉を続ける。


「私はアララト出身だ。才能がある者は、より良い環境で育ち、その能力を活かして社会に貢献する。それの何が悪い?」


「"より良い環境"ってのは、"才能ランクが高いから"って理由で与えられるもんじゃねぇか。」


「当然だろう。社会を支えるのは、優秀な者たちだ。下らない感傷に流されるな。」


レインは拳を握りしめた。


「……その理屈で、"才能がない"って理由だけで、生きる道すら奪われる連中が出る。それでもお前は正しいと思うのか?」


「"才能がない者に与えるものはない"、それが現実だ。生きたければ、自分の価値を示すしかない。」


ハウンドの言葉には迷いがなかった。

それが、彼女が生きてきた世界の"常識"なのだろう。

ザイオンは二人のやり取りを見て、クスリと笑った。


「お前ら、いいコンビじゃねぇか。」


「……冗談言ってる場合か。」


「まぁまぁ、喧嘩するなよ。」


ザイオンは机の上のデバイスを叩き、端末のホログラムをこちらに向ける。


「アララトの動きが活発になったのは、ここ数週間の話だ。特に、"才能適正の再評価"に関するデータの改竄疑惑が浮上してる。」


レインは画面を覗き込んだ。


「データの改竄?」


「公共データバンクの解析記録に不自然な変更があった形跡がある。才能ランクの"基準値"がこっそりと調整されてるんだ。」


「……何のために?」


「低ランクの者をより低く、上位ランクの者をより優遇するためだろうな。」


レインは拳を握りしめた。


「つまり、アララトが"才能社会の格差を加速させる"仕組みを作っているってことか。」


「まぁ、そういうこった。」


ザイオンは煙草の箱を指先で弄びながら、わずかに目を細めた。


「お前らの任務は"調査"だ。アララトがどこまで手を伸ばしているのか、何を企んでいるのか、それを突き止めることになる。」


「……どこから探ればいい?」


ザイオンは端末を操作し、あるデータを転送した。


「この人物をマークしろ。アララトの"新戦略室"の責任者、"シグマ"って男だ。」


レインは送られたデータを開いた。

そこには一人の男の顔が映し出されていた——


「この男が、才能ランクの操作やデータ改竄のキーマンってことか?」


「そうだ。シグマはアララトの"選民思想"を最も強く推進している人物の一人だ。」


「つまり、今回の問題の核心に最も近いってわけか。」


「その通り。」


ザイオンは椅子の背に身を預け、指を鳴らした。


「お前たちの仕事は、シグマの動きを探ること。そして、その先に何があるのかを突き止めることだ。」


レインとハウンドは、互いに視線を交わした。


「調査はおこなってやる。"徹底的"にな、私が正しいと証明する。」


ハウンドは踵を返し、先に退出した。


「……行くか。」


レインが立ち上がる。


「動くなら早いほうがいいぞ。」


「だな。」


二人はザイオンの部屋を後にした。


(アララトの不審な動き……才能社会の歪み……そしてシグマ。)


レインは歩きながら、バングルをタップし、転送されたデータを確認する。


(ここからが本番だな……)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ