大脱走
リーダーが防衛AIとの戦場へと戻っていった。
レイはその場に立ち尽くしたまま、ようやく息を吐く。
(……助かったのか?)
鼓動が異常なほど速くなっているのがわかる。
膝に力が入らず、思わず片手をつく。
「……は、ぁ……」
全身から緊張が抜け、膝が震えた。
短時間のうちに、あまりにも多くの異常事態に直面しすぎた。
(何なんだよ……)
胸の奥に重くのしかかるのは、先ほどの男の言葉。
──「お前、今、疑問を持ったな?」
考えたくない。
けれど、考えずにはいられなかった。
(なぜ、あんなことを言った? 俺は何かおかしなことをしたか?)
いや、それよりも──
(まだ、ここは危険だ。)
数秒の安堵が終わると、再び現実がレイを包み込んだ。
今は、「考える時間」ではない。
「動く時間」だ。
──現状、逃げ場はない。
レジスタンスが侵入してきた壁の大穴は、激しい銃撃戦の最前線になっていた。
閃光と爆発が飛び交い、近づけば即死に繋がる。
ホールの出入口はすべて封鎖され、AIによる自動ロックがかかっている。
非常時には学園のAIが「生徒を保護するために外部との接触を遮断する」 プロトコルが発動する仕組みだ。
(大穴からは行けない。扉もロックされたまま。なら、どうする?)
目の前にあるのは、
「制限された空間」と「迫りくる戦火」と「ロックされた扉」。
──だが、制限があるからこそ、抜け道はある。
レイの思考が、再び加速する。
(非常用ルート……いや、ここにそんなものはない。だが、あるはずだ。)
(施設のロックがかかっているなら、必ず「解除ルート」もある。)
「……そうか。」
レイは、視線を2階の壁に向けた。
そこには──空調ダクトがある。
(ただの空調じゃない。火災時の緊急排煙ダクトだ。)
学園には防火システムが完備されている。
この手の施設は煙を素早く排出するための専用ダクトを持っているはずだ。
そして──そのダクトは、防衛AIにとって「管理対象ではない領域」 である。
(ロックされた扉も、大穴も使えない。でも、あれなら通れる。)
レイは即座に行動に移る。
銃撃の合間を縫って、2階へ向かうため階段へと滑り込む。
乳酸が溜まった足を無理やり動かしてダクトまでたどり着いた。
近くに転がっていた破損したイスを足場に、壁を蹴り上がる。
空調ダクトのグリルを落ちていた瓦礫で破壊し、中へ滑り込む。
(あとは、どこへ抜けるか……)
ダクト内のルートは分からない。
だが、行き止まりの可能性は低い。
排煙ルートなら、外部の通路や非常階段に繋がっているはずだ。
レイはダクト内を進み、通気口の出口を蹴り破った。
細い通路の先に、光が差し込んでいる。
──外へと続く扉が、開いていた。
(よし、ここを抜ければ──)
「──制圧開始。」
鋭い電子音とともに、重厚な装甲ブーツが金属床を踏み鳴らす音が響く。
視界の端、黒い装甲に身を包んだ兵士たちの姿が映った。
レジスタンスとは違う、より重装備の部隊。
「助かっ──」
そう思いかけた瞬間、脳裏に嫌な予感が走る。
(いや、違う……!)
普通の生徒たちはまだ式場にいる。
自分がここにいるのは不自然すぎる。
このまま助けを求めれば──
──テロリストと間違われる。
息を呑み、すぐに考えを切り替える。
(まだ気づかれていない。)
一瞬の安堵。
だが、状況は依然として危険なままだった。
レイは次の選択を迫られている。
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