指導
ハウンドの構えが鋭く締まる。
「今度は、"お前にとって最適な動き"を意識しろ。」
「最適って言われてもな……。」
レインは肩を回しながら、大雑把に同じ構えを取ってみる。
だが、それだけで違和感があった。
(なんか変だな……。)
ハウンドの動きはスムーズで、無駄がない。
だが、自分が同じ構えをしても、何かが違う気がする。
「……シオリ。」
「ん?」
「俺のフォーム、ハウンドのと比べてどこが違う?」
シオリはしばらくレインの動きを見てから、軽く首を傾げる。
「うーん……まず、重心の位置が高いかな。それと、腕の角度が甘い。ハウンドさんはもっと"内側"に締めてるよ。」
「……なるほど。」
レインは再び姿勢を調整する。
「——違う。」
ハウンドが即座に言った。
「頭で理解するな。"体"で覚えろ。」
「いやいや、そんなアバウトな……。」
「考えるな。動け。」
ハウンドが一歩踏み出すと、その動きに釣られるようにレインの体が反応した。
(——しまっ……)
次の瞬間、ハウンドの掌底が腹に当たり、軽く押し戻される。
「っ……!」
「お前は考えすぎだ。」
ハウンドは腕を組んだまま、じろりとレインを見下ろす。
「動きを観察できるのはいいが、"真似"をするだけでは意味がない。"何のための動きか"を理解しなければ、ただの形だけの模倣だ。」
「……それを言葉で説明しないから困ってるんだろ。」
「説明しても分からないだろう?」
レインは思わず言葉に詰まる。
(……こいつ、何気に核心ついてくるな。)
「お前は"考える"ことに慣れすぎている。まずは"感じる"ことを覚えろ。」
ハウンドは軽く腰を落とし、再び構えを取った。
「何も考えずに、"私の動きに乗れ"。」
「……意味がわからん。」
「それでいい。」
ハウンドが一気に踏み込んでくる。
今度は攻撃ではなく、レインの腕を軽く取るような動きだった。
「——そのまま、ついてこい。」
その瞬間、レインの体が自然とハウンドの流れに乗せられる。
(——あっ……!)
違和感が消えた。
まるで水の流れに身を任せるような感覚。
自分が意識しなくても、ハウンドの動きに引き込まれている。
「……こういうことか。」
「そうだ。」
ハウンドは一度手を離し、少し距離を取る。
「お前は今、考えずに動いた。だが、その感覚はすぐに忘れる。」
「……なんでだ?」
「お前は"思考"に囚われすぎているからだ。」
ハウンドは淡々と続ける。
「本当に強い動きというのは、考えてやるものではない。"体が覚える"からこそ、瞬間的に反応できる。」
「でも、俺にはその経験が——」
「あるだろう。」
ハウンドがレインを睨みつける。
「お前の才能は"人間観察"だ。"見る"ことに関しては、私よりも優れているはずだ。」
「……!」
「ならば、"観察"しろ。そして、そのまま"体に叩き込め"。」
ハウンドはスッと構えを解き、レインを指さした。
「お前はもう、"学習"を始めている。ならば、それを"体"に刻み込むだけだ。」
レインはしばらくハウンドの言葉を噛みしめた後、静かに頷いた。
「……もう一回、やらせてくれ。」
ハウンドが満足そうに微笑む。
「よし。じゃあ、行くぞ。」
こうして、"実戦型"の訓練が本格的に始まった。




