軽薄
訓練場の出口を抜けると、そこには一台のフロートモービルと、その脇に寄りかかるように立つ細身の男がいた。
彼は軽薄そうな笑みを浮かべ、気だるげな様子でこちらを見ている。
「いつまで待たせはるんですか、もう1時間くらい待ちましたよ。」
関西弁のような柔らかい口調に、レインは一瞬戸惑う。
「ハウンドが悪い。」
ザイオンが答えると、男は肩をすくめた。
「まあ、ええですわ。とりあえず向かいましょ。」
ザイオンが男を指さしながら、軽く紹介する。
「レイン、こいつはシードだ。」
「よろしくね〜。」
「……よろしく。」
軽く会釈を交わし、2人はフロートモービルへと乗り込んだ。
運転席に座るシードが、ディスプレイを操作する。目的地を設定し終わり、ニヤリと笑う。
「ほな、出発〜♪ ほいで、せっかくやし色々聞かせてもらいましょか?」
フロートモービルが滑るように動き出す。
レインは窓の外に流れる景色を見ながら、シードの言葉を待った。
「まずな、レインくん。あんた、どっから来はったん?」
「……どういう意味だ?」
「そのまんまの意味や。R9にいきなり放り込まれる人間は、そうおらんからなぁ。」
「俺は……」
言葉に詰まる。どこから来たのか、レイン自身がまだ整理しきれていない。
「ふむふむ、なるほどなるほど。」
「……何がなるほどだ?」
「いや、ようわからんけど、悩んではるっちゅうことは、やっぱり何かあるんやなぁって思ってな?」
「……」
レインは無言でシードを睨む。
「まあ、そういうとこは後々聞きますわ。ほな、次の質問。」
シードはミラー越しにレインをちらりと見て、楽しそうに笑う。
「さっきから後ろで浮かんではるその可愛い子、どないな関係なん?」
ホログラムのシオリが、ぴくりと動く。
レインは小さく息をついた。
「……妹、らしい。」
「ほほう?」
シードの口元が、より深く歪む。
「補助AIにお兄ちゃん言わせてるやばいやつやん。」
シードは笑いながらそう言ったが、レインの顔は微動だにしない。
むしろ、じろりとシードを睨みつけるような視線を向けた。
「……そういうつもりじゃない。」
「そらそうやろなぁ。いや、ええんやで? 俺はそういうの否定せぇへんけど。」
「だから違うと言ってるだろ。」
レインが低く呟くと、シードは軽く肩をすくめた。
だが、その目はどこか探るように鋭さを増している。
「でもまぁ、変やなぁ。補助AIがそんなに感情豊かなんは、ちょっと聞いたことあらへん。そっちの"シオリ"ちゃんは、なんか特別なもんなん?」
レインはシオリを横目で見た。
シオリは小さく俯いたまま、まるで何か言いたげに唇を噛んでいる。
「……俺にも、まだ分からない。」
「ほう?」
シードの表情がほんのわずかに引き締まる。
「さっきは妹って言うてたけど、そもそもAIのくせに"お兄ちゃん"認識しとるんやろ? そんなん、あり得るん?」
レインは黙ったまま、フロートモービルの窓の外に視線をやった。
景色が流れるたびに、脳裏には"仮想世界"での出来事がフラッシュバックする。
エリスと過ごした時間。
そして、最後に殴り飛ばされた記憶。
「……まあ、ええわ。」
シードは軽く舌を打ち、ノンビリとした口調に戻った。
「深く突っ込んだら、ハウンド辺りに怒られそうやしな。俺、そういう面倒ごとは勘弁やねん。」
「お前、R9の一員なんだろ?」
「せやけど、根っからの事務屋やで? 俺、戦闘向いてへんねん。」
「戦闘向いてないやつが、なんでR9にいる?」
「そんなん決まっとる。"向いてること"があるからや。」
レインがシードを見つめると、彼はミラー越しにいたずらっぽく笑ってみせた。
「俺の才能は"交渉"と"言いくるめ"や。"上手いこと言う"のが仕事ってわけ。」
「……なるほど。」
「ほな、もうちょっと話そうか。レインくんの"才能"、そっちも気になるんやけど?」
シードが興味深げにレインを見つめる。
「才能……?」
レインは一瞬、自分のバングルに視線を落とす。
「……"人間観察"。」
「へぇ?」
シードの目が少しだけ鋭く光った。
「それだけ?」
レインは、もう一つの才能――文字化けしていた謎の才能を思い出す。
だが、まだそのことを口に出すべきかは分からなかった。
「……今のところはな。」
「ほほう、"今のところ"ねぇ。」
シードは何かを探るように、じっとレインを見つめていた。
この軽薄イケメン好みじゃないなー、口だけのやつってダサいじゃん?ねーレイ〜♡
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