異物
「よーし、ハウンド、ハウスだ。帰っていいぞ。」
「...こいつは本当に信用できるのか?」
レインはため息をつく。
「……またか。」
「おいおい、こっちは重要な話があるんだぞ?」
ザイオンが煙草を灰皿に押し付けながら、うんざりした声を出す。
「......」
「お前がいると話しがややこしくなるんだよ。早く出ていけ。」
「チッ……!」
ハウンドは舌打ちすると、レインを一瞥してから銃を下ろした。
「怪しい動きをしたら、その首を噛み千切るからな。」
「おう、怖いねぇ。じゃあな、ハウンド。外でワンワン吠えてな。」
「……ザイオン、後で話がある。」
そう吐き捨てると、ハウンドはドアを乱暴に閉めて去っていった。
ザイオンは深いため息をつく。
「はぁ……忠誠心が高いのはいいんだけど、扱いづらいんだよな、あいつ。お前も大変だな。」
レインは冷静に言い返す。
「...いや、お前が組ませたんだろ。」
ザイオンはニヤリと笑い、肩をすくめる。
「お、そうだったな。頑張れよ、レイン。」
レインは無言でザイオンを睨んだが、言い返す気力もなかった。
「さて――やっと話を進められるな。」
ザイオンが机の端を軽く叩くと、壁際にあったスクリーンが起動し、映像が映し出された。そこにはレインが仮想空間で過ごした2日間の出来事が、ダイジェストのように流れている。
レインは眉をひそめた。
「……盗撮趣味か?」
「違ぇよ。お前がいたのは才能付与装置のシミュレーション空間だ。データを解析して、お前がどう動いたか、その選択の傾向を分析するのは当然だろ?」
「……で、何が分かった?」
ザイオンはスクリーンに映る映像を指差した。
レインはスクリーンに目を向ける。そこには、自分がシオリやエリスと関わっていた映像が映し出されていた。
「まず、最初に"疑問を持った"時点で、お前はすでに俺たちの管轄だった。」
「……どういう意味だ?」
「この社会で疑問を持つこと自体が異常なんだよ。公共データバンクのアルゴリズムは、思考の枠組みを最適化し、無駄な思考を削ぎ落とす。それなのに、お前は考えた。"何かがおかしい"ってな。」
レインは黙ったまま映像を見つめる。
「次に、エリス。お前は彼女に影響を受けたが、最終的には拒絶した。なぜだ?」
「……それが"正しい"と思ったからだ。」
ザイオンは薄く笑う。
「面白いな。"正しい"ってのは、どういう基準で?合理的な判断なら、エリスについて行くのが最善だったはずだ。」
レインは無言だった。
「まあいい。お前はエリスを拒絶し、シオリを選んだ。その選択が"感情"によるものだと、自分で認識していたな?」
レインはゆっくりと頷く。
「感情は"非合理"だが、時に最適解を上回る。お前がそれを知ったってだけでも、今回のシミュレーションは収穫だったな。」
ザイオンは映像を止め、椅子の背にもたれかかる。
「さて、最後のフィードバックだ。」
「お前はこの社会で"例外"だ。」
レインは眉をひそめる。
「才能を付与されたのに、"管理された才能"ではなく"自分の意思で"選んだ。"才能が人の価値を決める"社会において、それは異常値だ。」
「……つまり?」
ザイオンはふっと笑い、煙草をくわえた。
「お前はこの社会の"バグ"だよ、レイン。」
レインは無言でその言葉を噛みしめる。
「だがな――バグが生まれた時、システムはどうするか知ってるか?」
「……排除する、か?」
「いや、"利用する"んだよ。」
ザイオンの笑みが深まった。
「お前をどう扱うか、それを決めるのは"これから"だ。」
レインは拳を握りしめながら、ザイオンの言葉を受け止めた。
("バグ"か……。)
彼は、これから自分がどう生きるのかを、今まさに突きつけられているのを感じていた。
バグってなんかいい響きだよねぇ、かっこいい!!やったね!!
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