相棒
「仲間同士、まずは自己紹介といこうぜ?」
リーダーの言葉に、レイは軽くため息をついた。
(仲間……ね。)
こめかみ女――いや、目の前の女は依然として警戒を解かない。
だが、リーダーの言葉を無視するわけにもいかないのか、ほんの少しだけ銃口の圧力が弱まった。
「……まずは話を聞かせてもらおうか。」
レイがそう言うと、リーダーはニヤリと笑い、椅子の背もたれに体重を預けた。
「俺からか? まあいいだろう。」
煙草の煙をくゆらせながら、彼は名乗る。
「俺はザイオン。 R9のリーダーをやってる。」
「ザイオン」
「そう、箱舟が辿り着くべき地――ってな。」
ザイオンは片目を細めて笑う。
「次はそっちだな。」
銃を突きつけていた女――こめかみ女は、しばらく沈黙してから低く名乗った。
「……ハウンド。 R9の特殊部隊を指揮している。」
「追跡と狩りが得意でな。」
「まさに猟犬ってわけか。」
レイがそう返すと、ハウンドはわずかに口角を上げた。
「次はお前だ。」
ザイオンが顎をしゃくる。
レイは一瞬だけ考えた。
(この2日間……ずっと雨に打たれていたようだった。)
泣きたくもないのに流れた涙。降りしきる雨のように。
止まることなく、ただ降り続けた感情。
そして、それを振り払うように口を開いた。
「……レインだ。」
「……ほう、洒落てるじゃねえか。」
ザイオンは煙草の灰を落としながら、口角を上げる。
ハウンドはそれを聞いて、一瞬だけ目を細めた。
「ふん、雨は降れば降るほど足跡が消える。だが、お前は何を流した?」
「さあな。」
レインは軽く肩をすくめた。
(流したものが涙だったのか、それとも別の何かだったのか……
そんなこと、自分でもわからない。)
だが、一つだけわかっていることがある。
(ここで、俺はもう"レイ"じゃない。)
「で? 次は本題に入ってもいいか?」
レインの言葉に、ザイオンは煙草を灰皿に押し付け、無造作に消した。
「おう、話を進めるとしよう。」
ザイオンが椅子の背に肘をつきながら口を開く。
「お前は"公共データバンク"を知っているな。」
レインは頷いた。
「超合理主義派が掲げる"管理社会"の要……だったか?」
「その通り。そしてR9は、そのデータバンクの"裏"に位置する。」
「裏……?」
「表では超合理主義の社会が構築され、才能に基づいて管理される世界が成り立っている。しかし、それを維持するためには"汚れ仕事"も必要になる。R9は、その役割を担う組織だ。」
「つまり、お前たちは"管理のための破壊者"ってことか?」
レインがそう言うと、ザイオンはニヤリと笑う。
「言い得て妙だな。"最適化"のために、余計なノイズを取り除く。それが俺たちの仕事の一つだ。」
「……それが、あの"入学式の事件"に繋がるのか?」
レインの問いに、ハウンドが鋭い視線を向けた。
「そう思うのか?」
「そうじゃないのか?」
レインは視線を逸らさずに答える。
ザイオンが口を開く。
「お前がいた仮想世界の中の、"あの事件"はただの模擬戦データだ。もし、あんなことが現実であったら、この超合理的社会の根底から崩れる大事件だろ。あれは最悪を想定して作られている。極限状態でのデータじゃないと本質は見抜けないからな。俺たちの仕事は大事件が起きる前に未然に防ぐ。火種になるようなものを探し回り、削除することだ。」
「……」
「だから、あんな事件は今まで起きたことはない。もし実際に起きていたら、この世界はとっくに破綻しているはずだからな。」
確かに、その理屈は筋が通っている。
ザイオンは椅子の背にもたれ、指を鳴らした。
「で、だ。お前はこれからこのハウンドとバディを組んで活動してもらう。……まあ、教育係だな。そいつから色々学んで、この世界と秩序を守れ。」
「……俺が?」
「そういうことだ。お前、現場で役に立つ可能性がある。才能もまだ不確定だが、何かしらの適性はある。ま、試してみる価値はあるってことだ。」
「……なるほど。」
ザイオンはふっと笑い、言葉を続けた。
「一応聞いとくが、心変わりしたか? 引き返すなら今だぞ。」
レインは一瞬だけ考えたが、すぐに口角を上げ、皮肉げに笑った。
「引き返す? まさか。面白くなってきたところだろ。」
ハウンドが鼻で笑い、ザイオンは満足げに頷く。
「いいぜ、レイン。歓迎するよ。」
新たな幕が開く――レインは、R9の一員として歩み出すことを決めた。
強気なレイって素敵!惚れ直しちゃうよぉ〜
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