昨日
「聞かせてくれ。」
レイがそう告げると、リーダーはニヤリと笑い、タバコの煙を吐き出した。
「おっし、いいだろう。」
彼は机の上に肘をつき、椅子をギシリと軋ませながら続けた。
「まずな、仮想空間で得た知識と現実の情報には齟齬がある。あまりアレを鵜呑みにするなよ。俺もそれで痛い目にあった。」
レイは眉をひそめる。確かに、仮想空間では超合理主義派と完全自由主義派の思想対立、三企業の存在、公共データバンクの管理社会……それらが"世界の構造"として提示されていた。だが、それがそのまま現実に適用されるとは限らないということか。
「じゃあ……R9っていうのは、結局何なんだ?」
リーダーは唇を歪め、皮肉めいた笑いを浮かべた。
「レジスタンス? 反政府組織? バカ言え。俺たちは秘密警察だ。」
「……は?」
「影から治安を維持するために作られた組織。表向きは存在しないことになってるが、国家機関の一部だ。」
「でも……仮想空間では、R9は"反乱分子"扱いだった。」
「それが情報の齟齬ってやつだよ。あの世界では、R9は"体制に異を唱える側"に配置されていた。だから、お前には"レジスタンス"のように見えたんだろうさ。」
レイは混乱しながらも、リーダーの話に耳を傾ける。
「R9にはいろんな出自のやつがいる。だが、全員に共通するのは"役割を見込まれてスカウトされる"ってことだ。お前みたいに"タール"の施設から来るやつもいるし、"ゴフェル"や"アララト"から流れてくるやつもいる。」
「……企業間の垣根を越えて?」
「そうだ。どんな企業に属していようが関係ねえ。R9は"現実"の秩序を維持する組織だからな。思想なんざ飾りに過ぎねえんだよ。」
「……お前は?」
リーダーは笑った。
「俺はタール出身だ。お前の先輩ってことになるな。」
タール出身――つまり、完全自由主義派の企業から来たということだ。
「自由主義の企業にいたのに、秘密警察に?」
「おかしいか?」
「……いや、でも、なんで?」
「俺が"適性"を持ってたからさ。」
適性――その言葉にレイの胸がざわつく。
「才能……ってことか?」
「ま、そういうことだな。」
リーダーは肩をすくめ、ニヤリと笑った。
「お前もそろそろ"選択"する時が来るぜ?」
レイは拳を握り締める。
ドアが蹴破られた。
次の瞬間、鋭い視線とともに冷たい金属の感触がこめかみに押し付けられる。
「動くな。」
低く、鋭い声。聞き覚えがある。だが、今の状況ではそんな感傷に浸る暇はない。
レイはゆっくりと視線を向ける。そこにいたのは、現実世界のこめかみ女。仮想空間の記憶と違わぬ、鋭い眼光が突き刺さる。
「どういうことか説明しろ。」
感情を押し殺した声。だが、確実に怒っている。
「何がだ?」
レイは落ち着いたまま、こめかみに突きつけられた銃を横目でちらりと見る。
「俺がここにいることが気に入らないのか?「違う。」
銃口をさらに押し付けながら、こめかみ女が食い気味に言った。
「貴様、"昨日"どこにいた?」
その問いに、レイの思考が一瞬止まる。
(昨日……?)
こいつは知っているのか? 仮想空間の"昨日"が、本当は存在しないはずの"昨日"だったことを。
「答えろ。」
引き金にかかる指の感触が伝わってくる。こめかみ女の瞳は、ほんのわずかも揺るがない。
レイはゆっくりと口を開いた。
「……どの"昨日"の話をしてる?」
こめかみ女の表情がわずかに動いた。だが、それはわずか一瞬のこと。すぐに冷徹な仮面が戻る。
「貴様は一体、何者だ?」
レイは、薄く笑った。
「それを決めるのはお前じゃないさ。」
銃口は相変わらずこめかみに押し付けられたまま。しかし、レイは微動だにせず、ゆっくりと目を細めた。
(さあ、どう出る? こめかみ女。)
この緊張が解けるのは、果たしてどちらの手によるものなのか――
「おい、そこまでにしろ。」
リーダーの低い声が響いた。
「お前の悪い癖だぞ、その誰にでも銃を突きつけて脅迫するの。」
こめかみ女は動かない。銃口は依然としてレイのこめかみに押し付けられたままだ。
「……確証がない限り、信用しない。」
「相変わらずだな、お前は。」
リーダーはタバコをくゆらせながら、面倒くさそうに肩をすくめる。
「お前もなんでそんな喧嘩腰なんだよ。ピースフルに行こうぜ。もう仲間みたいなもんなんだからよ。」
レイはこめかみに押し付けられた冷たい銃口を横目で見ながら、ゆっくりと息を吐く。
「"仲間"ねえ……」
リーダーは笑う。
「お前が望むと望まざるとに関わらず、そうなるさ。」
「そういう話じゃない。」
こめかみ女はピクリとも表情を崩さない。
レイはふっと目を細めた。
(……こいつは何を知ってる? 俺が仮想空間で見た"昨日"について、何を把握してる?)
「お前は"昨日"、どこにいた?」
まただ。その質問。
レイは考えながら、ゆっくりと口を開いた。
「質問の意図によるな。」
「……ふざけるな。」
銃口がさらに押し付けられる。
「まあまあ、落ち着けって。ほら、レイ、お前も。」
リーダーが手を振り、どこか楽しげな様子で言った。
「仲間同士、まずは自己紹介といこうぜ?」
レイは軽くため息をついた。
(仲間……ね。)
こめかみ女は依然として警戒を解かない。だが、リーダーの言葉を無視するわけにもいかないのか、ほんの少しだけ銃口の圧力が弱まった。
「……まずは話を聞かせてもらおうか。」
レイは、ゆっくりと目を細めた。
(さて、ここからが本番だ。)
なんなのこの女むきーーー!!!レイから離れろ脅迫女!!!
私?私はいいのよフィアンセだから♡
面白かったらいいねコメントお願いします!




