選択
(……もう時間がない。)
日は陰り、昼と夜の狭間。
幻想的な空が広がり、世界の終わりを告げるかのように揺らいでいる。
崩壊の足音が近づいていた。
エリスが微笑みながら、優しく手を差し出す。
「レイ、私の手を取って?」
レイは思考を巡らせる。
(……俺だけ?)
「そうすれば、レイだけは助かるよ。」
(……シオリは?)
レイは視線を横に向けた。
シオリは、怯えながらも必死にこちらを見ていた。
「シオリは……連れて行けないのか?」
エリスの笑顔が僅かに崩れる。
「……うん、無理。」
その言葉が、決定的だった。
「どちらか1人だけ。」
沈黙が落ちる。
風が吹く。
大地がひび割れ、空が歪む。
時間は、残されていない。
エリスは少し悲しげな笑みを浮かべた。
「いいじゃん、レイ。」
「私と一緒に行こうよ。」
その言葉が甘美な響きを持つのは、"確実に助かる"という保証があるからだろうか。
(違う、それだけじゃない。)
エリスは本気だった。
どこまでがプログラムで、どこからが本心なのかは分からない。
でも、確かに"俺"に向けられた感情がそこにあった。
(……選べ。)
シオリの指が、レイの服を掴む。
震えている。
「レイ……」
その声が、かすかに届く。
世界の終焉が、迫っていた。
俺は――
この二日間を思い返す。
■ エリス
出会いから、俺は翻弄され続けた。
最初は違和感だった。
気づけば親しみになり、そして心地よさに変わっていた。
彼女は"偽り"の世界を作った。
俺を騙し、世界の仕組みを塗り替えた。
でも……それだけじゃない。
確かに、そこには"感情"があった。
俺に向けられた好意が、嘘だとは思えない。
たとえ、それがデータ上の"プログラム"であったとしても。
彼女は俺を求めてくれた。
何よりも、強く。
あの時、屋上で見せた表情――あれが"本物"だったのか、今も分からない。
でも、少なくとも"俺"を選ぼうとしてくれた。
■ シオリ
一方で、シオリは"普通の"人間だ。
この混乱した世界の中で、怯えながらも必死に生きようとする存在。
何かに抗うでもなく、かといって流されるだけでもない。
ただ……"人間"として、生きている。
出会ったばかりのはずなのに、どこか守りたくなるような、不安定な輝きを持っていた。
あの戦場の10%の生存者――
彼女だけが、この"世界の違和感"に気づいていた。
それが、彼女の"才能"なのかもしれない。
俺は、そんな彼女を"救いたい"と思った。
理由なんてない。
ただ、そう思ったんだ。
どっちを選ぶべきか。
合理的に考えれば――エリスだ。
エリスの手を取れば、確実に"生き延びる"ことができる。
この世界が消えたとしても、"俺"は残る。
だけど――
(……そんな選択、できるかよ。)
レイは息を吸い込む。
選択肢 1: 自分がエリスの手を取る
生き残るために。
世界がどうなろうと、俺は存在し続ける。
選択肢 2: シオリにエリスの手を取らせる
俺じゃなく、シオリを生かす。
俺の代わりに、彼女を"世界の外"へ送る。
残り10秒。




