表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/61

欺瞞

「才能こそが、人間の価値を決める。」


広大なホールに、新入生たちが整然と並んでいた。

ホログラムによる学園長の演説が、静かに流れ始める。

「公共データバンクが、すべての才能を適切に管理し、最適な未来を保証する。」

「努力は不要だ。なぜなら、君たちはすでに生まれながらにして、最適な才能を持っているのだから。」


壇上のホログラムが映し出すのは、

優秀なSクラスの生徒が、AIチューターと共に高度な学習を進める映像。

Dクラスの生徒が、産業機械の指導のもとで働く映像。


──才能によって、人間の行く末は決められる。

それが、当然のこととして受け入れられる世界。


突然、ホールの照明が一瞬だけ揺らいだ。

一部の生徒がざわつくが、すぐにAIのシステムが復旧し、学園長の演説は続く。

「……才能を適切に発揮し、社会に貢献することで、より良い未来が築かれるのです。」

レイはふと、視線を上げた。

ホールの天井に、不自然な影が一瞬映る。

「……?」

違和感を覚える間もなく、次の瞬間──

轟音が鳴り響いた。


ホールの側面の壁が突如として爆発し、破片が飛び散る。

数百人の新入生たちは悲鳴を上げ、混乱の中で逃げ惑う。

壇上のホログラムがノイズを発し、学園長の映像が乱れる。


──そして、煙の中から姿を現したのは、武装した数名の人間だった。

「この世界は偽りだ!」

男の叫びが、ホール全体に響き渡る。

「公共データバンクは欺瞞だ!

お前たちは、生まれる前に決められた“才能”という鎖に縛られた家畜にすぎない!」

彼らは全身を黒い防護服に包み、武装した兵士のような装備を身に着けていた。

その胸には、簡素なシンボルが刻まれている──

「R9」

レイの脳裏に、一瞬だけ疑問が浮かぶ。

(R9……? どこかで見たような……)

だが、その思考はすぐに打ち消された。


次の瞬間、ホールの中央で2発目の爆発が起こる。

AIの防衛システムが即座に作動し、

警告音と共に複数の自律戦闘ドローンが飛び立つ。

「警戒警報発令──反政府組織の襲撃を確認。

対象は学園の秩序を脅かす者として認識、排除を開始する。」

AIの冷たい声が響き渡る。


レジスタンスのメンバーは迷うことなく、学園側の防衛AIと戦闘を開始した。

ドローンがレーザーを放ち、レジスタンスはそれをかいくぐりながら応戦する。

銃撃音がホールに響き渡り、

新入生たちは、なす術もなくパニック状態に陥っていた。

「逃げろ!」「死にたくない!」

無秩序に出口へと殺到する生徒たち。

しかし、ホールの出入り口はすでにロックされ、逃げ場はない。


「落ち着け! 学園の防衛システムがすぐに収める!」


上級クラスの生徒が叫ぶが、

その言葉がどれほどの意味を持つのか、誰にも分からなかった。

レイは、ホールの隅で身を低くしながら周囲を観察する。

(……秩序が、崩れた。)

生まれてからずっと、

完璧な社会の中で生きてきた。

すべてが計算され、管理され、最適化された世界。

それが、今──目の前で、無意味に砕け散っている。


「……。」

レイはただ、その光景を見つめていた。

銃撃戦、爆発、混乱。

恐怖に震える生徒たち。

「才能による管理が、この世界の正義だったんじゃないのか?」

「なぜ、こんなことが起こる?」

「レジスタンスは、何のためにここを襲撃した?」

「公共データバンクが欺瞞だ? それは、本当なのか?」

考える余裕はない。

だが、「この世界が正しい」という前提に、初めて小さな亀裂が入った。


──次の瞬間、

レジスタンスのリーダー格の男と、レイの視線が交差する。

男は、まるで確信したかのように、ゆっくりと口を開いた。



「……お前、今、疑問を持ったな?」



レイは息を呑んだ。

まるで、自分の頭の中を見透かされたような感覚。

男の目は鋭く、しかしどこか嬉しそうに光っていた。

「違うか?」

レイは、何も答えられなかった。

面白かったらいいねコメントお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ