暴露
レイは、頭の中がぐちゃぐちゃになりそうな感覚に襲われていた。
仮想空間?
この世界が作り物?
あまりに突拍子もない話。
それなのに――なぜか、否定できない。
今まで感じていた違和感、すべてのピースがはまっていく感覚があった。
エリスは、そんなレイの混乱など意に介さず、続けた。
「才能は使ったよ。その方が手っ取り早く仲良くなれるしねー。」
(やっぱりか……。)
レイは拳を握りしめた。
エリスと出会ってからの自分は、どう考えてもおかしかった。
気づいた時には、もう"受け入れていた"。
エリスの存在を、疑問を持たずに"当たり前"のものとして認識していた。
これは……操作されていたんだ。
だが――
エリスは次の言葉で、
レイの思考をさらに乱した。
「でも、レイのことが好きなのは本気。そこは嘘じゃないよ。」
(……は?)
レイは目を見開いた。
今までのエリスとは違う。
いつもの軽口ではなく、
いつものおちゃらけた笑顔でもなく――
いつになく真面目な顔で、エリスは言い放った。
(どういうことだ……?)
レイは言葉を失う。
エリスが"才能"を使っていたことは予想していた。
でも、"好き"という言葉がそこに並ぶのは想定外だった。
それは……どこまでが本当なのか。
エリスは、そんなレイの動揺をよそに、軽く肩をすくめた。
「本当はもっとゆっくり攻略するつもりだったんだけど……」
攻略――
その言い方が、ますます"作られた関係"に思えて、レイの胸の奥がザワつく。
「テロ事件あったじゃん?」
(あの襲撃のことか……?)
レイが思い返す間にも、エリスは淡々と話を続ける。
「あれのせいで、世界のデータ容量を使い込んじゃったみたいでさ~。」
(……データ容量を、使い込んだ?)
「あの太陽が完全に沈んだら、この世界も消えるの。」
その言葉に、レイの背筋が凍った。
(……世界が、消える……?)
夕陽が、沈みかけている。
あと、どれくらい持つのか――
レイは、思わず西の空を見上げた。
あの太陽が消えた時、世界が終わる――?
エリスは軽く溜息をついて、
あっけらかんと続ける。
「まぢR9氏ねよ~。」
その言葉には、今までになかった"敵意"が含まれていた。
「こうなりそうな予感はあったんだけどねー。でも時間なかったし、しゃーない、割り切ろう!! よし!!」
(……待て待て、情報が多すぎる。)
レイは頭を抱えたくなった。
テロ事件のせいで、世界のデータ容量が消費された?
それが原因で、この世界も消える?
(そんな馬鹿な話があるか……)
だが、レイが否定する間もなく、
エリスはさらに衝撃的な事実を告げた。
「10%しか生き残ってないのに、やけに多いなーって思ったっしょ?」
「あれねー、本当に生き残ったの10%なんだよ?」
レイの喉が、ゴクリと鳴る。
「今いるのは、新しくできた赤ちゃんAI。」
(……新しく、できた……?)
「だから私の才能で動かしてあげないと、ご飯も食べられないんだよ! 笑えるでしょ?」
レイの脳裏に、教室の風景がフラッシュバックする。
"友人たち"――
"昨日の記憶"を持つクラスメイトたち――
(あれは……全員……"新しく作られた存在"?)
ぞわり、と全身に寒気が走る。
では、"昨日"生き残った生徒たちは――
"本当にいた彼ら"は――
(全員、もういないのか?)
レイの心拍数が上がる。
世界の終焉を淡々と語るエリス。
だが――
今の彼女の表情には、明らかに苛立ちがあった。
「それもこれも、全部あの二人が原因なんだよ。」
レイの眉がピクリと動く。
「忌々しい。出歯亀しやがって、趣味悪いんだよなぁ。」
"あの二人"?
エリスの言葉は、レイの頭の中で反響する。
R9のリーダー?
それと――
(……まさか、こめかみ女か?)
だが、エリスはそれ以上詳しくは言わなかった。
代わりに、軽く手を叩いて――
「まあ、そうゆうことで世界は終わります!!」
「お疲れ様でしたーーー!!」
エリスは、にこやかに宣言した。
レイは呆然としたまま、沈む夕陽を見つめる。
この世界が、あと数時間で消滅する?
この"普通の日常"が、終わる?
しかし――
エリスは、満面の笑みを浮かべながら、
意味ありげに言った。
「でも助かる方法があるって言ったら、どうする?」




