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怪我

レイはギプスの女子を追いかけ、思わず声を上げた。


「ちょっと待ってくれ!!」


勢いのまま、後ろから肩に手をかける。


「わあああぁっ!!?!?」


女子は飛び上がるように驚き、体を縮こまらせた。


「い、い、い、一体なんなんですかぁっ……」


涙目で怯えた表情を浮かべ、震える声で言う。

(……やばい、完全に怖がらせた。)


レイは両手を上げて距離を取る。

「ご、ごめん! 驚かせるつもりはなかったんだけど、君を見てびっくりして……」

女子は唇を尖らせ、視線を伏せながら呟く。

「……そんな、おどろくほどひどい顔ですか、そうですか……」

(……めんどくさいやつだな。)


内心、そう思ってしまう。

だが、そんなことを気にしている場合ではない。

レイは一歩踏み込み、真剣な眼差しで問いかけた。

「昨日もあんなことがあったのに……「覚えているのか!!!?」


「大きい声出さないでください!!???!?」

女子はビクッと肩をすくめ、さらに縮こまる。

レイは慌てて口を閉じた。

「ご、ごめん……」


(でも、これは僥倖だ。)

彼女は 怪我をしていて、昨日のことを覚えている。

間違いなく、手がかりになる存在だ。

だが――

(このままじゃ話してくれないだろう。)

この怯えっぷりでは、無理に問い詰めても逆効果だ。

まずは仲良くなることが先だ。


レイは一度息を整えると、

少しぎこちない動きで手を差し出した。


「えっと……俺はレイ。レイ・ユウゴウ。」


(……なんか、ぎこちないな。)

女子はレイの差し出した手を見つめ、少し戸惑った様子を見せたが、

恐る恐る手を差し出した。


「あ……あの……私は……」


彼女の声は小さく、

どこか自信がなさそうだった。

とりあえず自己紹介は終えた。

だが――


沈黙。


お互い、何を話せばいいのか分からず、

微妙な空気が流れる。


レイは、シオリの小さな声に思わず聞き返した。


「ごめん、聞こえなかった。もう1回いいか?」


シオリはビクッと肩をすくめ、さらに声を絞り出すように答えた。


「シ、シオリ……イズミ……ですぅ……」


(……また泣かせてしまった。)

レイは内心ため息をつきながら、少しだけトーンを落とす。


(このままじゃ会話にならないな。)

とりあえず、親睦を深めるために話を広げることにする。

「俺はBクラスなんだけど、シオリは?」

シオリは少し驚いたように目を見開いた。

「あ……えっと……Cクラス、です……」


(クラスが違うから、もともと接点がないのも当然か。)

話が続かなそうだったので、さらに別の話題を振ることにする。

「何か趣味とかあるのか?」

シオリは少し戸惑った様子で、視線を泳がせる。

「え、えっと……その……趣味……ですか?」

(なんでそんなに困るんだ……?)


シオリは怪訝そうにレイを見た。

「……なんでそんなことを聞くんですか?」

レイは一瞬、口をつぐんだ。

(やばい、警戒されてる。)

適当にごまかさないと、まともに話をしてくれなさそうだ。


「……一目惚れした。」


シオリの表情がピタッと止まる。

まばたきを2、3回してから、少し身を引いた。


「……それはさすがに、ないですね。」


即答だった。

(まあ、そうなるよな。)

とはいえ、警戒は少し解けたのか、シオリは小さく息をつくと、ぽつりぽつりと話し始めた。

「……趣味、ですか……? うーん……。」

シオリは少し考えたあと、申し訳なさそうに口を開いた。



「……人間観察、です。」



レイは反応に困る。

「そ、そうか……?」

「あの、別に悪い意味じゃなくて! なんというか、こう……人間って、それぞれ違うじゃないですか。表情とか、仕草とか、クセとか……そういうのを見てるの、なんか落ち着くっていうか……。」

「……なるほど?」

レイは適当に相槌を打ちながら、若干後悔し始める。

(趣味を聞いたのが間違いだったか……?)


沈黙を埋めるように、レイも口を開く。


「俺は……昔の戦隊モノの特撮が好きだな。」


その瞬間――

シオリのテンションが一気に跳ね上がった。

「えっ!? まじですか!? レイさん、戦隊モノ好きなんですか!?」


急に食いついてくるシオリに、レイは思わずのけぞる。

「お、おう……?」

「え、え、え、どのシリーズが好きですか!? 昭和? 平成? それとももっと昔のやつとかも!?」


シオリは、目をキラキラさせながら、戦隊モノについて熱心に語り出した。

「いや〜! いいですよね! 特撮の魅力って! スーツアクターさんの動きの美しさとか、アクションのキレとか、あとやっぱり名乗りポーズ!!!」

「あと、敵幹部がだいたい途中で裏切るの、熱くないですか!? とくに○○戦隊の○○編とか、マジで神展開で!!」

「あとあと!! 最初の必殺技がラスボスを倒す展開とか!! もう王道だけど、そこがいいんですよ!!」


(……やべぇ。)

レイは、ここまで食いつかれるとは思っていなかった。

戦隊モノの話題を出したことを軽く後悔する。

そんなレイの心中など気にせず、シオリはさらに熱く語り続け――

「……あっ!!」

急に顔を赤くして、両手で頬を覆った。

「ご、ごめんなさい! なんか語っちゃいました……! 忘れてください!!」


レイは、シオリの必死な姿に少し気を抜くと、

ふっと笑って肩をすくめた。


「いや、別にいいけど。「ほ、ほんとに!? じゃあ忘れなくていいです!!」


(いや、どっちだよ……。)

それでも、好きなものを楽しそうに話しているシオリの姿を見て、レイは少し安心した。


「まあ、俺も好きだしな。」


そう言うと、シオリは嬉しそうに笑った。


「……兄の影響なんです。」

少し落ち着いたシオリが、ぽつりと呟いた。

「兄が戦隊モノ好きで、小さい頃からずっと一緒に観てて……気づいたら、私もハマっちゃってました。」

シオリは、どこか懐かしそうに笑う。


「兄のこと、大好きなんです。」


その言葉には、まったく迷いがなかった。

だが、その後の言葉には、少し影が差す。

「……でも、最近は仕事が忙しくて、ほとんど家にいなくて。」

「朝早く出て、夜遅く帰ってきて……ちゃんと寝てるのかなって、心配で……。」

レイは黙って聞いていた。

シオリがCクラスの生徒であることは知っている。

つまり、彼女の家庭は裕福ではない。


(……俺とは、まるで違う世界の話だな。)

レイは"中流階級"の家に生まれ、不自由なく育ってきた。

彼にとって、家族が生活のために"朝から晩まで働く"という状況は、まるで想像がつかなかった。


レイは、どう返すべきか少し迷った。

だが、考えすぎても仕方ない。

レイは、できるだけ自然な声で言った。


「……大変なんだな。お前も、心配だろ。」


シオリは、ちょっと驚いたように目を見開いた。


「あ……うん。そう、ですね……。」


彼女は照れくさそうに、少し笑った。


(……そろそろ、頃合いか。)


レイは、少し表情を引き締めると、慎重に口を開いた。


「シオリ……昨日のこと、覚えてるか?」


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