青春
「エリスさん、今は授業中ですよ。」
教壇から、教師の静かな注意が飛んできた。
エリスはピクリと肩をすくめる。
「もう! レイのせいで先生に怒られたじゃん!!」
レイは、またかという顔でため息をつく。
とはいえ、話を振ったのは自分だ。
クラスのあちこちからクスクスと笑い声が上がる。
ちらりと横目で見ると、何人かの生徒がこちらを見てニヤニヤしている。
(たぶん、さっきエリスの話に出てきたやつらの誰かだろう。)
まるで"昔からのクラスメイト"かのような態度。
何の違和感もなく、この関係が"当たり前"であるかのように振る舞っている。
レイは内心の違和感を押し込めながら、仕方なくエリスを慰めることにした。
「まあ、授業中に大声出したのはエリスだろ。」
「ほら、あとで何かおごるから機嫌直せよ。」
エリスは口を尖らせながらも、すぐに機嫌を戻す。
「え、本当? やったー! じゃあ食堂のスイーツセットね!」
(……調子いいな。)
レイは肩をすくめながら、適当に頷いた。
チャイムが鳴り、授業が終わると、すぐにエリスが嬉しそうにレイの肩を叩いた。
「レイ! さっきの約束! みんなで飯行こー!」
周りからも何人かが「おー!」「食堂行くぞー!」と声を上げ、ぞろぞろと集団で教室を出ていく。
レイは少し戸惑いつつも、エリスとともに食堂へ向かった。
食堂に着くと、適当に席を見つけ、全員でテーブルを囲む。
エリスはさっそく箸を持ちながら笑顔で話し始める。
「もー、さっきの授業中、レイのせいで先生に怒られちゃったんだから!」
周囲からクスクスと笑い声が漏れる。
どうやら、まだ授業中の出来事を引っ張るつもりらしい。
「え? 俺のせい?」
「そう! だって、レイが急に"エリスは昨日何してた?"とか聞くから、つい話しちゃったんだもん!」
「いや、それを大声で話し出したのはお前だろ。」
「えー、でも、先生に注意されるくらい楽しく話せるってことは、それだけレイの質問が良かったってことだよね!」
「お前、どんなポジティブ変換だよ……。」
またもや周囲から笑いが起こる。
レイは軽くため息をつきながらも、どこか心地よい雰囲気に包まれていた。
皆で食事をしながら、他愛のない話をする。
「お前ら、もう部活とか決めた?」
「うーん、まだ迷ってるんだよねー。運動系にするか文化系にするか……。」
「俺は軽音部考えてるけど、ギターとか弾けるやついる?」
「お、いいね! でもオレ、楽器さっぱりだからなぁ。」
話題は部活の話から、好きなゲーム、最近話題のホログラムアイドル、さらには昨夜のネット配信の話へと流れていく。
食後、エリスは期待満々の表情でレイを見上げた。
「じゃ、約束通りスイーツセット奢ってもらおっかな〜!」
(……ま、いいか。)
レイは苦笑しながら、エリスの分のスイーツセットを購入。
エリスは嬉しそうにフォークを手に取ると、一口食べて目を輝かせた。
「ん〜っ! やっぱ甘いものって最高!」
「人に奢りで食べるスイーツは格別だね〜♪」
「おい……お前な……。」
レイは肩をすくめる。
「こいつはいつもこうだよな……。」
独り言のように呟くと、エリスはおどけたように笑ってみせた。
「えへへ、バレちゃった?」
その時、レイの視界の端にギプスをはめ、首から腕を吊っている女子が映った。
彼女は静かにトレーを持ち、食器を片付けると、そのまま食堂を出ていこうとしていた。
(……昨日の"10%しか生き残っていない"はずの、"負傷者"……?)
食堂にいる誰もが"普通のクラスメイト"のように見える。
笑い合い、食事をし、昨日の惨劇などなかったかのように過ごしている。
けれど――
この"普通"の中に、彼女だけが異質だった。
レイの中で、違和感が再び浮き上がる。
「ごめん、ちょっと。」
レイは急に席を立つと、そのまま駆け出した。
エリスが驚いたように声を上げる。
「ちょっとレイ!! どこ行くの!!? 次の授業まで時間ないよ!!!」
だが、返事は返ってこなかった。
食堂の出口に向かって走るレイの背中を、エリスはじっと見つめる。
そのままゆっくりとフォークを持ち上げ、最後のひと口を口に運ぶと、ぽつりと呟いた。
「……もうちょっとだったんだけどな。」
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