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《過去》。

 “彼女”は通称“56”エリアで働いて在た。“其の”頃。理由なら、金が欲しいからだ。当時の56エリアとは“無法地帯”と呼ばれて在たが、そんな酷い場所等では、無かった。“倉庫”中心エリアにつき、子供、ーーーー“未成年”入場不可エリアだったのだ。その為もあってそう呼ばれて在た。“店”が成人を対象とした店ばかり並んで在たからだった。所謂“夜のお店”中心だったのだ。云うならば“飲み屋街”で在る。



 酔うと人間ーーーーそれ故に治安も段々と悪く為ったのだ。そんなエリアだった。



 “彼女”は高校を出たばかりだった。身寄りは在たが、不仲だった。家出や勘当にも近い状況で、状態だった。



 ひとり、働くしか無かった。彼女は頭脳の方は余り有能では無く、そういった仕事にはあり付けなかった。



 少しでも金に為る道を選んで、辿り着いた場所が、此の当時の56エリアだったのだ。当然仕事は夜の店のホステスだった。毎日毎日、酌をした。延々と。



 “晃嗣”とは、そんな頃、出会ったのだ。18の時だった。初めは胡散臭い男だと感じたのだが、嫌な客に待ち伏せられ、若い彼女は未だあしらい方を、知らなかった。その時ーーたすけて“くれた”のが、晃嗣だったのだ。



 安易な出会いだった。だが18の小娘には、十分な出会いだったのだ。“惚れる”には。“絆され”た彼女は、恋に落ちた。年上の此の“男”に。十歳近く年の離れた此の男には、勿論相手にされなかった。



 けれど晃嗣は、彼女の勤める“店”には、来たのだ。彼女はだから、“望み”を捨てなかった。それで“暴挙”へ出た。“晃嗣”に“しこたま”『呑ませ』たのだ。泥酔する迄。店で先ず、ある程度飲ませた。それから、



 “閉店”迄いつも居ると知っていた彼女は、うたた寝の晃嗣を、“タクシー”へと乗せたのだ。行き先は晃嗣の自宅では無く、“彼女”の借りて在る“部屋”だった。晃嗣の方も、悪かった。“小娘”だと思って、油断していたのだから。それと、“勘違い”ーーーーしたのだ。“彼女”を“妻”だと“思った”のだ。




 “彼女”の勤める“店”に、在たのだ。晃嗣の“別居中”の、妻がーーーーだ。だから彼は店に通ったのだ。何度も。




 香月 晃嗣とは、所謂“イケメン”の、類いではーーーー無い。だがモテた。所謂“大人の男”の魅力と云う奴なので在ろう。派手にはモテ無いが、“地味”にモテ(丶丶)た。妻は“それ”が、気に入らなかったのだ。ーーーー




 息苦しくて、家を出た。遥継の“幼少期”に。所謂“育児ノイローゼ”も有ったのだ。反省した晃嗣には、迎えに行く図々しさは無かったのだ。“申し訳”無くて。意外に繊細な男なのだ。図太い様で。



 嫌、男とは皆“そう”なのかも知れない。人知れず“繊細”な生き物なのかも、知れない。“誰も”が。



 女からみればそれは只の“プライドの塊”に、写る(視える)ーーーーのかも、知れないがだ。




 それでも。





 それでも彼の“妻”は、“迎えに来て欲しかった”ーーのだとは、晃嗣は知らない。けれど彼女も“頑固”だった。



 嫌、“折れる”タイミングを、見失って在たのだ。偶に“彼等”は“デート”した。そして、



 偶に“妻”は、“息子”を見に行った。眺めるだけだったが。置いて出て来た後ろめたさは有ったのだ。今更“ごめん”と、言えなく為って在た。だから遠くからだった。




 妻は。ーーーー憎い様な旦那の“息子”を、殺し掛けたのだ。首に手を掛けそうに為り、はっとして、止めた。そして家を出た。“恐く”なって。“自分が”ーーーーだ。



 “愛情と憎悪”は、似ているーーーーと、誰かが言った事を、思い出した気もしたが、当時の彼女はただ“恐かった”のだ。




 其れこそ今にして『思え』ば、自分勝手だったとそう言うで在ろう。けれど未だに『帰れない』で『在た』のは、妻があの日『聴かされた』“事実”の方が、理由だった。




 同じ“店”に勤める“女の子”に、「子供がいたんだ。ーーーー」そう言われた事だった。“俺の子供が”と。






 そして帰れなく為った。子供は既に二歳。生まれてしまって在た。だからーーーと。




 「結婚しようと思ってる。“はるか”、悪いーーーー“離婚”しよう。」



 晃嗣は辛さは隠してそう言ったのだった。そんな話、“遥継”も“晃和”も、知らない。








 別れる事の出来なかった“妻”、遥は、店を辞めた。そして晃嗣は、“取り敢えず”と“彼女”と“息子”と、暮らし始めた。けれど“困った”のは、妻との息子、“遥継”だったのだ。当然家に帰らなく成る。思春期の健康体の、男の子。彼は“間違い”なんて犯したくなかったのだ。“距離”を取るしか無かった。けれど、



 “彼女”はそうは、捉えなかった。“自分の事が気に入らない”のだと、捉えたのだ。卑怯な手段で家に入り込んだ女を、遥継が“受け入れる”訳は無いだろうーーーーと。




 “シングル(真逆)マザー(自分)”が彼に好意を持たれて在るのだとは、勿論考え至る訳は無かった。余り家に帰らない遥継とは、常に喧嘩だった。“好かれたい(丶丶丶丶丶)のに”と。




 高校を卒業した遥継は、進学しなかった。そして“家”を正式に“出た”のだ。“彼女”には内緒だった。だから“弟”へも、言わなかった、言えなかったのだ。




 晃和が父と兄が言い争ったと思ったのは、住む部屋を決めた遥継に、晃嗣が言ったからだ。“和禰かずね”を「好きなんだろう?ーーーー御前。連れてくか? ん?“見てたら”解るよ。」と。





 珍しく、かっ!と為った遥継は、声を荒げた。「何言ってんだよっ!!」と。






 “不可能”だった。“その当時の、香月 遥継には。未だ彼は、“若かった”のだ。責任(結婚)を負う(する)には。






 “香月 遥継”は、別にゲーム好きでは無い。弟が、と或る日出来た彼には、弟は可愛かった。年は離れ、母は違くとも。それでも。




 少し成長した弟が、大人しい、自分とは違う“弟”が、彼の前で初めて“興味”を示した“もの”が、ゲームだった。“それだけ”だ。







 “好きな女”の“息子”が、可愛い“弟”なのだ。一緒に暮らせる訳等、無かったのだ。“彼等”は。







 “和禰”だって、分かり始めて在た。嫌、分かったのだ。“大切な相手”が。ただそれは自分の過去の選択肢の掛け違いに、気付く事案(・・)でも在ったのだ。とてもツラかった。自分が“したこと”だから。





 けれど“物語”は、止まってはくれないのだ。“自分の都合”等では。優しくも甘くも無い物語りは、未だに動いて“在る”のだ。“彼女の中”に。新しい“芽吹き”として。生きているのだ。

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