第二十五話 生まれ変わる社と、覚醒の連携技を習得しました
荒野を抜けた一行は、懐かしい山裾の街へと足を運んでいた。
目的はただ一つ――再建が進むコノハの神社、【稲荷の社】を訪れること、そして黒衣の人物との再戦に向けた猛特訓を行うためである。
山道を登り切ると、そこにはかつての荒れ果てた姿が嘘のような、美しい朱色の鳥居と清々しい木の香りを漂わせる新築の本殿が姿を現していた。
「うわぁ・・・すごい! 本当に綺麗に直ってる!」
汐恩が思わず感嘆の声をあげる。
まだ真新しい木肌が太陽の光を弾き、境内には清らかな神気が優しく満ち渡っていた。
『おおぉ・・・! 妾の社が・・・妾の家が蘇っておるぞーっ!』
汐恩の肩から飛び降りたコノハは、ふさふさの尾を大きく揺らしながら拝殿の階段を駆け上がっていく。
その瞬間、本殿からまばゆい桜色の光が溢れ出し、コノハの小さな身体を包み込んだ。
ふわりと宙に浮くコノハ。
神社の再建によって人々の信仰と土地の気が集まり、失われていた彼女の神力が急速に充填されていく。
『うおおおっ! 体の底から力が湧き上がってくるのじゃ・・・! 汐恩、燈真! 見るがよい!』
光が収まると、コノハの背後に幻影のような巨大な九尾のシルエットが一瞬だけ浮かび上がり、その毛並みは以前にも増して艶やかに輝いていた。
「すごいな・・・神格が一段と高まったようだ。これならコノハ様の妖術の威力も格段に上がるよ」
燈真が感慨深そうに頷く。コノハは誇らしげに胸を張り、ニシシと八重歯を覗かせた。
『ふふん! これで妾も本来の力の一端を取り戻したぞ! 汐恩、約束通り特訓じゃ! 妾の増した力、思う存分使って強くなるがよい!』
「よし・・・! お願い、コノハ様、燈真!」
汐恩は表情を引き締め、サッと刀を抜いて拝殿前の広い境内に立った。
♢
特訓はすぐさま始まった。
今回の課題は、ただ力任せに刀を振るうのではなく、「黒衣の衝撃波を相殺し、相手の術式を打ち破る精度と連携」を身につけることだ。
『いくぞ汐恩! 新たな神力による妖術・・・【桜花・千重波】ッ!』
コノハが前脚を掲げると、激しい竜巻のような桜色の妖気が汐恩に向かって押し寄せる。
さらに燈真が間髪入れずに符を走らせた。
「『急々如律令! 封陣の縛符!』」
風圧と緊縛の術式が重なり合い、汐恩のあらゆる退路と動きを制限する。
かつての汐恩なら、この圧迫感に焦り、力任せの斬撃で強引に押し通そうとしていただろう。だが、敗北を知った今の彼女は違った。
(焦るな・・・引きつけて、流れを読む・・・!)
呼吸を整え、深く腰を落とす。
黒衣の小刀に雷を吸い取られた悪夢を思い出し、それを乗り越えるイメージを頭の中に描く。
ただ雷を纏わせるのではない。雷の密度を極限まで凝縮し、刃の表面に薄く、鋭利な「針」のように固定するのだ。
「ふぅ・・・っ!」
汐恩の瞳が冷徹な輝きを放ち、刀身の紫雷が「バチッ」と音を立てて収束した。
「――燈真の符を足場にして・・・コノハ様の風に乗る!」
汐恩は突進してくる縛符の表面を刃先で弾き、その反動を利用して空中へ跳躍。
コノハの放った桜色の竜巻の「隙間」を見極め、そこへ一直線に舞い降りた。
「コノハ様、燈真! 力を貸して!」
『任せるのじゃ!』
「合わせていくぞ!」
コノハの放つ桜色の神気が汐恩の刃に巻き付き、燈真の符が放つ破邪の光がその雷撃を補強する。
三人の霊力、神気、そして剣技が完全に一つに融合した瞬間であった。
「――合体連携技・【迅雷・桜華一閃】ッ!!」
ドガァァァンッ!!
放たれた一閃は、紫の雷と桜色の神気が渦を巻く巨大な光の龍となり、境内の模擬標的として置かれていた巨大な岩塊を一瞬で蒸発させた。
凄まじい風圧が吹き抜け、静寂が訪れる。
「やった・・・! 成功した・・・!」
汐恩は刀を鞘に納め、自分の手を見つめた。
もう手は震えていない。仲間と呼吸を合わせ、互いの力を限界以上に引き出す感覚。一人で戦っていた時とは比べものにならないほどの、強固な手応えがそこにあった。
『見事じゃ汐恩! 妾の神力と燈真の符術、そしてお前の神速が見事に噛み合ったぞ!』
「ああ、これなら・・・あの黒衣の人物の闇の術式とも対等以上に渡り合えるはずだ!」
コノハが嬉しそうに汐恩の肩へ飛び乗り、燈真も興奮気味に駆け寄ってくる。
「二人とも、ありがとう。私・・・もっと強くなれる気がする」
汐恩は清々しい笑顔を浮かべ、生まれ変わった社を背にして刀の柄を力強く握り締めた。
失った自信を取り戻し、新たな連携技という最強の武器を手に入れた三人。
黒衣の人物を倒し、五つ目の破片を取り戻すための反撃の準備は、ここに整ったのだった。




