第二十二話 砂塵舞う古代遺跡と、遺された黒い痕跡を発見しました
港町【海鳴り港】の賑わいを遠くに離れ、南へ南へと足を進めるにつれて、緑豊かな景色は失われ、乾燥した砂塵が舞う荒涼とした風景へと移り変わっていた。
辿り着いたのは、地平線の彼方にまで及ぶ広大な荒野。
その中央に、数千年の時を超えて佇む巨大な石造りの建造物――【常盤の古代遺跡】がドッシリと鎮座していた。
「うわ・・・何か凄く大きいね。それに風が吹き抜けるたびに砂埃がすごくて目に入りそう」
汐恩は手のひらを額にかざし、眩しそうに目の前の巨大な神殿を見上げた。
幾重にも重なる巨大な石柱と、古代文字が刻まれた重厚な石壁。太陽の熱を吸い込んだ石造りの空間からは、遠い昔に途絶えたはずの古代の強い霊術の気配がじんわりと漂っている。
『むむっ・・・この遺跡の中全体に、古の封印と防衛術式が張り巡らされておるぞ。油断すると足元から槍が飛んできたり、壁に押し潰されたりしかねんからのう!』
汐恩の肩の上で、コノハが警戒するように耳をピンと立てる。
「大丈夫だよ、コノハ様。どんな仕掛けがあろうと、罠ごと斬り伏せて進むだけだから」
「汐恩、一応古代の貴重な遺跡なんだから、あまり破壊し尽くすのは勘弁してくれよ・・・?」
灯真が苦笑いを浮かべながら、慎重に先頭に立って遺跡の回廊へと足を踏み入れた。
♢
遺跡内部は外の光が届かず、ひんやりとした静寂が支配していた。
壁に設置された燭台の怪しい炎がゆらゆらと揺れ、三人の影を不気味に長く伸ばしている。
足を進めてわずか数分。足元の石畳が微かに沈んだかと思うと、壁の隙間からシャキンと鋭い金属音が響いた。
「しまった、トラップか!」
灯真が叫ぶと同時に、壁の千切れ目から無数の毒矢と巨大な石の槍が雨あられと放たれる!
「面倒くさいなぁ・・・」
汐恩は短く息を吐くと、刀の柄に手を掛けた。
ザザザァァンッ!!
一瞬で放たれた三連の斬撃が空気を切り裂く。
迫り来る無数の毒矢と巨大な石槍は、汐恩の身にかすりもしないまま、空中ですべて微塵切りとなって石屑へと姿を変えた。
『おおお・・・! まさに一刀両断! 罠のほうが哀れに思えてくる破壊力じゃのう!』
コノハが目を丸くしてパチパチと前脚を叩く。
しかし、罠を破ったことで遺跡の防衛機構が本格的に作動してしまったらしい。
回廊の奥に並んでいた数体の巨大な石像が、ゴゴゴゴ・・・と不気味な地鳴りを立てて蠢き始めた。
『侵入者・・・排除・・・神聖なる領域を脅かす者を・・・破砕せよ・・・』
立ち上がったのは、重厚な石の鎧を身に纏い、身の丈ほどもある大剣を構えた古代の番人【石像機巧】たちであった。胸元には怪しい紫の霊核が輝いており、その巨体からは恐ろしいほどの重量感が漂っている。
「へぇ・・・動く石像ね。硬そうだけど、切れるかな?」
汐恩は不敵な笑みを浮かべ、刀身に静かに紫の雷光をまとわせた。
『グオオオオオッ!!』
ゴーレムたちが大地を揺らしながら突進してくる。巨大な大剣が爆風を伴って振り下ろされるが、汐恩は軽やかな足取りでそれをヒラリと回避した。
「燈真! 霊核を狙えば一撃だ!」
「了解! ――『急々如律令! 破霊の破石符!』」
燈真が放った符がゴーレムの足元で爆発し、その巨大な体勢が大きく崩れる。
「隙ありっ!――【迅雷・一文字】っ!!」
汐恩は弾かれたように跳躍すると、空中を滑るように舞い、紫の雷撃を纏った一閃をゴーレムの胸元へと叩き込んだ。
ズバァァァンッ!!
硬度を誇る石の装甲ごと霊核が綺麗に一刀両断され、巨体は激しい音を立てて砕け散った。
「ふぅ・・・サッパリした。案外脆かったね」
残りのゴーレムも灯真とコノハのサポートを受けつつ、汐恩の神速の居合によって次々と粉砕されていくのだった。
♢
ゴーレムたちを倒し、静けさを取り戻した広い大広間。
汐恩がサッと刀を鞘に納めて防寒具の胸元を寛がせていると、ゴーレムの破片を調べていた灯真が「ん・・・?」と声を漏らした。
「どうしたの、燈真?」
「・・・これを見てくれ。壊れたゴーレムの体内に、何か落ちている」
灯真が拾い上げたのは、焼き尽くされたような【漆黒の布の切れ端】と、禍々しい紫色の妖気を残した【不気味な符の残骸】であった。
『ぬ・・・!? これは古代の防衛術式のものではないぞ! 近年になって意図的に仕掛けられた・・・陰術の痕跡じゃ!』
コノハが鋭い声をあげる。
「陰術・・・? ということは」
燈真が神妙な面持ちで顎に手を当て、黒い布切れを見つめた。
「あぁ。極月山や樹海で噂になっていた『黒衣を纏った人物』だ。・・・奴は僕たちよりも先回りしてこの古代遺跡に立ち入り、ゴーレムの術式を書き換えて僕たちを抹殺しようとしていたんだよ」
「へぇ・・・裏でコソコソ嫌がらせしてくるわけね」
汐恩は冷徹な眼差しで黒い布切れを見下ろすと、トントンと刀の柄を叩いた。
直接顔を合わせないまま陰でコソコソと邪魔を立ててくる相手に対して、彼女の心の中に確かな苛立ちと、それを上回る強者ゆえの闘志がフツフツと湧き上がってくる。
「姿を隠して逃げ回るなら、引きずり出して一刀両断するまでだし。・・・行くよ、燈真、コノハ様。奥に破片と、その黒幕がいるかもしれない」
『うむ! 覚悟しておれよ、黒衣の奴め!』
黒幕の存在がより一層濃密に浮き彫りとなった古代遺跡の深部。
五つ目の『界渡りの鏡の破片』と、姿なき宿敵の手がかりを求めて、汐恩たちの無双の進撃はさらに加速していくのだった。




