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第十二話 二つの破片と、次なる目的地は極寒の霊峰です

黒鵺の館での激闘を終え、夜風が吹き抜ける大通りへと戻ってきた汐恩たち。


街を覆っていたどこか重苦しい気配はすっかりと霧散し、軒先に吊るされた提灯の光が、どこか清々しく夜闇を照らしていた。


「あ、汐恩様! 燈真様、コノハ様・・・! ご無事でしたのね!」


『花菱楼』の前でそわそわと待っていた舞妓の千代菊が、三人の姿を認めるなり、着物の裾を揺らして駆け寄ってきた。その瞳には、心からの安堵と心配の色が滲んでいる。


「うん、ただいま。黒鵺ってやつは倒しておいたから、もう大丈夫だよ」


汐恩は刀の柄に手を置いたまま、どこか他人事のように飄々とした調子で言いのけた。千代菊は驚きに目を丸くしたものの、すぐに感謝を込めて深く深く頭を下げた。


「ありがとうございます・・・! これで街のみんなも、安心して暮らせますわ。・・・あの、よろしければ、最後にお祝いの宴でも――」


「気持ちはありがたいんだが、僕たちは先を急がねばならないんだ。街の重者たちの治療、よろしく頼むよ」


燈真が静かに辞退すると、汐恩も短く「じゃぁね」と手を振り、颯爽と歩き出した。引き留める間もなく去っていく汐恩の背中を、千代菊はどこか眩しそうな眼差しで見送っていた。


♢


皇家の屋敷へと戻った一行は、すぐに当主・頼真の書斎へと向かった。


畳の上に、前回、回収した最初の破片と、黒鵺から奪い返した二つ目の破片が並べられる。


「ほぅ・・・これが二つ目の破片か。見事な手際だったな」


頼真が眼鏡の奥の目を細め、静かに感嘆の息を漏らす。


汐恩は壁に背を預け、肘を張った姿勢でふんと鼻を鳴らした。


「手際が良いっていうか、邪魔だったからさくっと片付けただけだし。・・・で、それ二つ合わせたらどうなるの?」


「うむ、試してみよう」


頼真が静かに指先で二つの結晶を近づけると、カチンと金属質の音が響いた。


次の瞬間、二つの破片はお互いを引き寄せるように激しい光を放ち、眩い桜色と紫の混ざり合った神気を部屋中に撒き散らした。


「なっ・・・共鳴している・・・!?」


燈真が息をのむ。二つの破片は宙に浮き上がり、まるで互いの欠けている部分を補い合うように重なり合うと、より強い霊気を発し始めた。


『ふむ・・・間違いなさそうじゃな。破片同士が集まることで、その内に秘められた『界渡り』の神力が少しずつ戻りつつある』


汐恩の肩の上で毛並みを整えながら、コノハが神妙な顔つきで頷く。


汐恩はその光をどこか冷めた、しかし確かな意志を宿した瞳で見つめていた。


「へぇ・・・ちょっとは元の世界に近づいたってことか。なら、もたもたしてられないね」


「そうだな。コノハ様、お願いできますか」


燈真の促しに、コノハはポンと胸を叩いて前に躍り出た。


『良かろう! 二つの破片が共鳴した今なら、次の破片の居場所もより鮮明に探知できるはずじゃ!』


コノハの体がほのかな光に包まれ、部屋の空気が張り詰める。


『・・・巡り合いの導きよ、次なる道すじを示せ・・・【稲荷のちいさな導き】っ!』


コノハの神徳が発動すると、先ほどよりも一回り大きな、眩い桜色の狐火がポッと宙に浮かび上がった。


その光の筋は、部屋の天井を抜け、遠く北の空へとまっすぐに伸びていく。


『・・・ぬおっ!? これは・・・かなり厳しい場所じゃぞ・・・!』


コノハが短い悲鳴を上げて目を開けた。


「どこを指してるの、コノハ様?」


汐恩が尋ねると、コノハは少し身震いしながら北の窓の外を指さした。


『ここから遥か北・・・雲を突くほどに高く切り立った、極寒の霊峰『極月山(ごくげつさん)』じゃ。一年中猛吹雪が吹き荒れ、生半可な人間や妖では生きて登ることすら叶わぬと言われる修験の山・・・そこに、三つ目の破片がある!』


「極月山・・・あそこにか。あそこは強い霊脈が流れる地だが、同時に古くから凶悪な妖が封印されている危険な場所でもある」


燈真が神妙な面持ちで眉をひそめる。だが、どんなに厳しい環境だと聞かされても、汐恩の表情が一新すること合いはなかった。


汐恩は軽く肩をすくめ、腰の刀の柄をポンと叩く。


「極寒の霊峰ねぇ・・・。寒そうなのはちょっと嫌だけど、そこにあるなら行くしかないでしょ」


「相変わらず度胸が据わっているな、汐恩。だが相手は自然の脅威と凶悪な獣だ。防寒の準備も入念に整えねばならん」


「分かってるよ。温かい食べ物もいっぱい持って行こうね、コノハ様」


『おぉ! 油揚げの缶詰(?)なるものを大量に買い込むのじゃ!』


「いや、そんなものこの世界にはないが・・・」


燈真のツッコミを聞き流しながら、汐恩は不敵な笑みを浮かべた。どんな過酷な場所であろうと、立ちはだかる困難を力ずくでねじ伏せて進むだけだ。


「黒幕だか何だか知らないけど、私の邪魔をするなら山ごと吹き飛ばしてやるから」


冷徹さすら感じさせる頼もしい一言に、燈真は苦笑しつつも、しっかりと頷いてみせた。


二つの破片を手に入れ、次なる目的地は雪と氷に閉ざされた試練の山。


汐恩たちの異世界脱出の旅は、いよいよ過酷な「霊峰」へと足を踏み入れるのだった。

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