航?普通の高校生の遊びってなに?つべこべ言わずに連れてってよ。
いつもの靴音と自動改札の警告の音だけがする朝の駅。
瑠璃をのせた電車が滑り込んできた。
プシュー。ドアが開く。瑠璃が降りてくる。航をチラッと見ると、人差し指と小指だけを立てる
【デビルサイン】を小さく見せてきた。
あの清楚な制服とは真逆のサイン。
鈴の鳴るような声で話し、茶道や生け花を嗜む。きっと弓道もやっているだろう。
航の思うステレオタイプなお嬢様はどこにもいなかった。
夕方、授業が終わる。いつものメンバー陸と佳奈がやってきた。
陸は「航、今日こそどっか行こうぜ!」肩を強引に組んできた。
佳奈も「航さー最近、付き合い悪いじゃん?」と詰め寄る。
「俺さ・・・バイト始めててさ、今日はバイトなんだ」航はとってつけたような嘘を言った。
佳奈は「大学志望で予備校まで通ってるのにバイト?なんか嘘くさい」女の子は鋭い。
「ほら、単発のバイト。最近流行ってるじゃん、ホイミーってやつ」そう言うと航はスクールバックを肩に引っ掛け教室を後にした。航が走る度に【シルバーメイデンのキーホルダー】が揺れる。
いつもの駅前に可憐な少女が立っている。
「おそい!航!」瑠璃は航をビシッと指差した。
「ごめん、ごめん。ちょっといろいろあってさ」
「そ。まぁどうでもいいけど。知っての通りわたしの学校の子たちは遊んだりしないのよ。みんな、予備校や習い事で忙しいから」
「わたし?わたしもやってるよ。毎日じゃないけどね。だから、わたしの貴重なOFFの日を航に託したってわけ。だから、つまんなかったら髪の毛引っ張るからね」
「そんなにプレッシャーかけないでよ。普通の遊びだよ。たいしたことしてない」
「じゃ、渋谷へ行こうか」航は歩き出す。
瑠璃は立ち止まって「渋谷!?あの世紀末都市の?」驚いた顔をしている。
航は振り返って「世紀末都市って何?」
「渋谷って治安が悪いと聞いてるんだけど。目があったら即バトルなんでしょ?」
「どこの世界だよ?」航は呆れて瑠璃を見た。
電車に乗る。朝のラッシュとは違う穏やかな空間が広がている。
ガゴオオー、電車がすれ違うたびに車内が揺れる。
ふたりのキーホルダーも同じリズムで揺れる。
渋谷に着いた。
「なに?このお祭り騒ぎは?」瑠璃は驚く。
「これが普通だよ。ってか、瑠璃も東京の人だよね?なんで驚くの?」
「だって、家と学校の往復。あと、習い事の教室は佐藤に送って行ってもらってるから、それ以外の場所は行ったことなくて。あ、軽井沢の別荘は毎年行ってるけどね」
航はそんなもんかと聞き流そうとしたら、ハッとした。
軽井沢の別荘はわかる。だって金持ちだから。【佐藤】って?
「瑠璃、ちょっと聞きたいんだけど、【佐藤】て誰?」
「え?ただの執事だけど」
「瑠璃の家ってそんなに限界突破した金持ちなのか?」
「限界突破とか意味わかんないけど、生まれたときからいるよ」
航は、はぇ~と感心したような、もはや驚きもなくなっていた。
「そんなことより、どこ連れてってくれるの?」
まずはベタだけど、ゲーセンか。
「なにこのうるさいところは!」瑠璃は耳を塞いだ。
「瑠璃、メタルサウンドのほうがよっぽどうるさいじゃん?」
瑠璃はムッとして「メタルサウンドがうるさい?これは【同志】として聞き捨てならないよ?あれは情熱的な崇高なサウンドでしょ?航ならわかるでしょうに。ここの雑音とは違うでしょ!」まったく・・・。
航は女の子が喜びそうなクレーンゲームに連れて行った。
「このアームでぬいぐるみをとるって遊び」
「なんだかまどろっこしいね。お金払えば買えるでしょ」
「それじゃ、ゲームじゃない・・・」
瑠璃はいつものヴィトンの長財布を出し、そしてお決まりのピン札1万円を出した。
「で、どこで払えばいいの?」
航は両替機を指差し「あそこで小銭に崩す。ただし、万札は入らない。千円札持ってないの?」
瑠璃は航に財布の中身を見せた。
ピン札1万円が6枚並んでいる。
航は「わかった。今日は俺が出すよ」と財布を出した。
瑠璃はアームを鬼の形相で睨む。アームの力が弱くてすぐに落ちる。
だんだんイライラしてきた。
「こんなの取れるわかないじゃない!」台パンしそうな瑠璃を航は必至でなだめた。
「これ、ぜんっぜんっ!面白くない!」
瑠璃はゲーセンの片隅にあるボクサーが立っている台を見つけた。
「あれ、なに?」
「ああ、あれはパンチングマシーン。あの的を殴って、殴った力が表示されるやつ。あんなのヤンキーしかやんないよ」
「おもしろそう!」瑠璃は一直線に向かって行った。
パンチングマシーンーの周りには、柄の悪い男たちが3人集まって騒いでいる。
瑠璃は一切、気にせずグローブをはめて的を見つめた。
バコーン!!激しい音がした。
誰もが憧れる私立聖ルクス学院の白セーラー服。
可憐な少女が殴り倒した。
台の表示に今日のベスト3のKgが表示されている。
今日の最高記録は135kg。
瑠璃のパンチの威力が計算される。
表示【150kg】
150kgといえばもう少しで格闘技経験者の威力だ。
周りの柄の悪い男たちは口をあんぐりさせている。
「あースッキリした!これがいちばんおもしろいね!」
航は絶対に瑠璃に逆らわないことを誓った。
「もういい時間だし、帰ろうよ」航は瑠璃に言った。
「なんかお腹すいたな。せっかくだから、なんか紹介してよ」
「俺は一般の高校生だからあんまり金ないぞ」
「いいの。それが今日の目的なんだから」
航はマクドナルドに来た。「安くて旨い。ただ、健康には悪い」
「へぇーなににしよっかな」瑠璃はメニューを見る。
これと、これと、「よし、決まった」
瑠璃は意気揚々とカウンターへ向かう。
「ビックマックとチーズバーガー、てりやきチキンバーガー。ポテトはL。あとコーラ」
航は慌てて瑠璃を止めた。
「こんなの絶対に食べられないから!せめてビックマックだけとか」
「わたしの食欲を舐めないでよ。佐藤にもいつも『お嬢様もうそれくらいにしてください』って言われるくらいだからね。大丈夫」
航と瑠璃は窓際の席に座った。
机には瑠璃が注文したものが占領していた。
「いただきまーす!」瑠璃はバクバクとすごい勢いで次々とハンバーガーを胃に流し込んでいく。
「んんーおいしい!!」
航は「気に入ってもらえたよかった」と瑠璃を見た。
「瑠璃、口の周りにめっちゃソースついてるぞ」
瑠璃は窓に映った自分を見た。
「航、そこの紙ナプキンでわたしの口拭いてくれる?」
「ええ~自分でやりなよ」
「両手がハンバーガーで埋まってるから紙ナプキンとれないのよ」
「いいから拭いて」
瑠璃は目を瞑って航の前に顔をさしだした。
「ん。ほら、はやく」
瑠璃の口元が近づく。呼吸を感じる。
こ、これって完全にキスの顔じゃん...。航は動揺した。
「じゃ、拭くぞ」
震える手でやさしく瑠璃の口元を拭ってあげた。
瑠璃は目を開くと「ありがと」そう言って再びハンバーガーをバクバク食べ始めた。
今回も瑠璃に激しく振り回される航だった。
・・・その様子を佳奈は見ていた。
「バイトなんてうそじゃん」
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