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最前線は救助員が奪う ~世界最難関ダンジョン、救助に入った俺がそのまま攻略します~  作者: 空乃 カナタ


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第6話 先に行った二人

 四十階の森を、五十人の攻略者が進んでいた。


「右、三体!」


「前衛そのまま! 弓班、右!」


 号令に合わせ、矢が飛ぶ。


 木の上から降りてきた灰色の猿が、一体、二体と落ちた。


 残った一体を、大盾が受け止める。


 横から剣が入った。


「処理完了!」


「負傷者は?」


「なし!」


「そのまま進むぞ!」


 攻略団《白盾》。


 国内でも上位に入る大手攻略団だ。


 隊長の城戸将馬は、先頭から少し下がった位置を歩いていた。


 周囲には索敵役。


 後ろには医療班。


 さらに物資を運ぶ者たちが続く。


 五十人。


 誰か一人が倒れても止まらないように組まれた隊列だった。


「順調ですね」


 副隊長の松永が言った。


「ああ」


「入口から二時間。負傷者ゼロ」


「悪くない」


「かなり良いですよ」


 松永は胸を張った。


「さっきの群れも三分で終わりましたし」


「鳴海は?」


「聞かないでください」


 城戸は横を見る。


「何分だった」


「聞くんですか」


「聞いた」


 松永は嫌そうな顔をしながら端末を出した。


「同じ猿かは分かりませんよ」


「いいから」


「三十体前後を五分」


 城戸は少し考えた。


「俺たちのほうが速いじゃないか」


「五十人ですけどね」


「勝ちは勝ちだ」


「そういうことにします?」


「しておけ」


 二人とも笑った。


 比較すること自体がおかしい。


 白盾は五十人で攻略している。


 鳴海迅は、榊ひよりと二人だ。


 しかも榊は配信をしながら戦っている。


「それにしても」


 松永が森の奥を見る。


「本当にこっちで合ってます?」


「共有地図ではな」


「鳴海たちが見つけた街、もっと南ですよ」


「俺たちは道を作りながら行く」


「分かってますけど」


 松永がため息をつく。


「配信見てると、普通に追いかけたくなるんですよね」


「やめろ」


「やりませんよ」


「お前だけならやってもいい」


「隊長」


「五十人を連れて行くなよ」


「分かってます!」


 そのときだった。


 全員の端末が同時に鳴った。


 城戸が足を止める。


「なんだ?」


 画面を見る。


『四十階中央都市 初到達』


『到達者 鳴海迅/榊ひより』


 松永が黙った。


 城戸も黙った。


 周囲にいた攻略者たちも、何人か端末を見ている。


「……もう?」


 誰かが言った。


 松永が配信を開いた。


 中央塔の上。


 鳴海と榊が、街を見下ろしていた。


「今、塔の上ですね」


「見れば分かる」


「俺たち、まだ森ですね」


「それも分かってる」


「隊長」


「なんだ」


「負けましたね」


「うるさい」


 城戸は歩きだした。


 すると、また端末が鳴った。


『四十階中央都市への転移路が開放されました』


 城戸が止まる。


 松永も止まる。


「……転移?」


 端末の説明を開く。


 三十九階の四十階門前に設置されている転移陣から、四十階中央都市へ直接移動できる。


 利用制限なし。


 初到達者による開放。


 松永が顔を上げた。


「隊長」


「言うな」


「でも」


「言うな」


「戻ったほうが早くないですか?」


 城戸は森の奥を見る。


 ここまで二時間。


 入口まで戻るなら、帰りは一時間半ほど。


 そこから転移すれば中央都市だ。


 このまま進めば、街まであと何時間かかるか分からない。


「……撤退する」


 松永が吹き出した。


「笑うな!」


「すみません!」


「全隊、反転! 三十九階まで戻る!」


 後方から声が飛ぶ。


「攻略中止ですか!?」


「違う!」


 城戸は自分でも少し腹が立っていた。


「鳴海が近道を作った! 使うぞ!」


     ◇


 同じことを考えたのは、白盾だけではなかった。


 三十九階。


 四十階への門の前は、昨日までとは比較にならないほど混雑していた。


「順番に並んでください!」


「押さないで!」


「転移陣は一度に二十人までです!」


 各攻略団が森から戻ってくる。


 白盾。


 東亜迷宮開発。


 小規模な攻略団。


 個人探索者。


 四十階へ入ったばかりだった者まで、一度引き返していた。


 理由は一つ。


 歩く必要がなくなったからだ。


「これですか」


 迅は転移陣を見下ろしていた。


「私たちが開けたやつ」


 ひよりが隣で答える。


 二人は中央塔から直接三十九階へ戻ってきたところだった。


「便利ですね」


「便利どころじゃないよ」


「そうですか?」


「今まで何時間も森を歩いてた人たちが、一瞬で街まで行けるんだよ」


 迅が行列を見る。


「じゃあ、よかったです」


「それだけ?」


「楽になったなら」


 ひよりは迅の横顔を見た。


 本当にそれ以上は考えていないらしい。


「鳴海!」


 声が飛んできた。


 城戸だった。


 後ろには白盾のメンバーが並んでいる。


「城戸さん」


「お前な」


「はい」


「先に行くのはいい」


「はい」


「街を見つけるのもいい」


「はい」


「転移まで開けるな」


 迅は少し困った顔をした。


「俺が開けたんですか?」


「お前と榊だ!」


 ひよりが横から手を上げた。


「私は嬉しいです」


「榊はいい」


「扱い違いません?」


 城戸は大きく息を吐いた。


「俺たちは二時間、森を進んだ」


「大変でしたね」


「戻ってきた」


「なんでですか?」


 松永が後ろで笑い始めた。


 城戸が迅を指さす。


「お前が転移を開けたからだ!」


「ああ」


 迅はやっと理解した。


「それなら、戻ったほうが早いですね」


「そうだよ!」


 白盾の何人かが顔をそらした。


 笑っている。


 城戸も途中からどうでもよくなったらしい。


「もういい。街の中は?」


「魔物がいます」


「数は」


「かなり」


「種類は?」


「猿と狼と鳥と、鎧着たやつです」


 城戸の眉間にしわが寄った。


「もう少し詳しく言え」


 ひよりが端末を出した。


「私がまとめてあります」


「助かる」


「広場には武装した人型が二百体くらい。黒い鎧の大きい個体を迅が倒したら、ほかは攻撃してこなくなりました」


「二百?」


 松永が聞き返した。


「二百」


「二人で?」


「うん」


 白盾の列が静かになった。


「全部倒したわけじゃないです」


 迅が補足する。


「倒したら止まったので」


 松永が城戸を見る。


「隊長」


「なんだ」


「さっき、猿三十体を五十人で三分って自慢しましたよね」


「黙れ」


「はい」


 城戸はひよりの端末を受け取った。


 街の地図。


 中央塔。


 広場。


 湖。


 ひよりが配信映像を見返しながら、簡単に位置を記録している。


「湖まで行ったのか?」


「見ただけです」


 迅が答えた。


「今日は行ってません」


 城戸が迅を見る。


「ちゃんと止まれるんだな」


「止まりますよ」


 ひよりが横から言った。


「私もそれ言いました」


「だろうな」


「信用なさすぎません?」


 迅だけが納得していなかった。


     ◇


 地上では、さらに大きな騒ぎになっていた。


 迷宮関連のニュースは、朝から鳴海迅の名前ばかりだった。


 三十九階初制圧。


 四十階初到達。


 中央都市発見。


 転移路開放。


 四十階が解禁されて、まだ一日も経っていない。


 それまで二年間止まっていた攻略が、一気に進んだ。


 そして、迅本人はそのニュースを見ていなかった。


「これ、いくらですか」


「二万八千円」


「高いですね」


 迅は武器屋で手袋を見ていた。


 ひよりが隣でため息をつく。


「配信収益、今日だけでかなり入ると思うよ」


「まだ入ってないので」


「三十九階の素材もあるでしょ」


「まだ売ってません」


「管理権もある」


「お金じゃないですよね、それ」


「そうだけど」


 迅は隣の棚を見る。


 一万二千円の手袋を取った。


「こっちで」


「装備で節約しないでよ!」


「手袋ですよ」


「手は大事!」


「破れたら買い替えます」


「最初から丈夫なの買って!」


 店員が困った顔で二人を見ている。


 ひよりは迅から安い手袋を取り上げた。


「さっきの」


「高いです」


「私が半分出す」


「なんでですか」


「配信で一番映る人が、穴の開いた手袋してたら困るから」


「別にいいと思いますけど」


「私は嫌」


 迅は少し考えた。


「じゃあ、後で返します」


「いいって」


「返します」


「頑固だなあ」


 結局、迅は二万八千円の手袋を買った。


 店を出る。


「次、矢を買いたい」


「さっきかなり使ってましたね」


「誰のせい?」


「敵です」


「……間違ってないのが腹立つ」


 二人は商店街を歩いた。


 迅の端末が鳴る。


 知らない番号だった。


「誰ですかね」


「出てみたら?」


 迅が通話を開く。


「はい」


『鳴海迅さんのお電話でしょうか』


「そうです」


『東亜迷宮開発、攻略部の久世と申します』


 ひよりがぴたりと止まった。


 迅はそのまま歩く。


『突然のご連絡、失礼いたします。弊社として、鳴海さんへ正式にお話ししたいことがありまして』


「はい」


『専属攻略者として、弊社へ加入していただけないでしょうか』


 迅が足を止めた。


 ひよりも迅を見る。


「攻略者ですか」


『はい。待遇については、国内最高水準をご用意します』


「救難局を辞めるってことですよね」


『もちろん、現在のお仕事を続けながらの契約も検討できますが、可能であれば専属で』


 迅は少し黙った。


「すみません」


『はい』


「今の仕事、辞めるつもりないです」


『……そうですか』


「はい」


『ですが、四十階以降を攻略されるのであれば、個人よりも弊社の支援を受けたほうが』


「個人じゃないですよ」


 迅が隣を見る。


 ひよりが自分を指さした。


「私?」


「一緒に行ってるので」


『榊ひよりさんですね』


「はい」


『お二人をまとめて支援する契約も可能です』


 ひよりの目が少し大きくなった。


 迅が聞く。


「何か入らないと駄目ですか?」


『と、いいますと』


「会社とか攻略団とか」


『攻略を続けるなら、攻略団を作る方法もあります』


「作れるんですか?」


『一定人数と資格要件を満たせば』


 迅がひよりを見る。


「知ってました?」


「知ってるけど」


「二人でできます?」


「最低三人だったはず」


「あと一人ですね」


 電話の向こうで、久世が何か言いかけた。


 迅は続ける。


「それなら、自分たちで作ります」


 ひよりが目を丸くした。


『鳴海さん?』


「教えてくれてありがとうございます」


『いえ、そういう意味では』


「失礼します」


 通話を切った。


 ひよりが迅を見る。


「今、大手の勧誘断った?」


「はい」


「それで攻略団作ることにした?」


「三人で作れるなら」


「軽くない?」


「駄目ですか?」


 ひよりは考えた。


 三十九階。


 四十階。


 街。


 湖。


 この男についていけば、たぶんこれからも最前線へ行く。


 それを一番近くで撮れる。


「……私は入る」


「よかった」


「でも三人目どうするの?」


 迅が歩きながら考える。


「誰かいます?」


「いきなり聞く?」


「ひよりさんのほうが知り合い多そうなので」


「迅は?」


「救助員ばっかりです」


「攻略できる人は?」


「いますよ」


「じゃあ、その中から」


 迅が足を止めた。


「あ」


「いた?」


「一人います」


「強い?」


「強いです」


「どんな人?」


 迅は少し考えた。


「よく怒られます」


「迅が?」


「はい」


 ひよりは嫌な予感がした。


「女性?」


「そうです」


「名前は?」


「周防真琴さんです」


「あの治療してた人?」


「はい」


「来てくれるの?」


 迅は端末を出した。


「聞いてみます」


「今?」


「忘れるので」


 呼び出し音が鳴る。


 数秒後。


『なに?』


「真琴さん」


『うん』


「攻略団、入りません?」


 沈黙。


 ひよりは隣で口を押さえた。


『……何の話?』


「今作ろうと思って」


『誰と』


「俺と、ひよりさんです」


 また沈黙。


『迅』


「はい」


『今どこ』


「武器屋の近くです」


『そこにいて』


「はい」


 通話が切れた。


 迅が端末を見る。


「来てくれるみたいです」


「それ、絶対違うと思う」


 二十分後。


 周防真琴がやってきた。


 迅は、攻略団を作るより先に一時間ほど説教された。


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