第五十六話 王宮から届いた、星五つの評価
ある日、王宮管理局から妙な報告書が届いた。
表紙には、王宮内家守点検満足度調査、とある。
ブルーメ局長代理、今は正式な局長になった彼が、新しく始めた取り組みらしい。
王宮の各部署に、家守点検について評価を聞いたのだ。
厨房、洗濯場、浴室、侍女休憩室、騎士詰所、王族居室、礼拝室。
評価は星五つ方式。
思わず笑ってしまった。
前世の管理会社でも、満足度アンケートがあった。星の数で人の暮らしを測るのは難しいが、声を集めるきっかけにはなる。
報告書によると、王宮厨房のパン窯復職後、朝食満足度は大幅に上がった。
浴室の湯気の子の休養日を作ったことで、湯温の安定性も改善。
侍女休憩室に小さな暖炉を入れたことで、冬の欠勤が減った。
騎士詰所では、寝台休養日を導入した結果、朝の訓練事故が減少。
そして、王弟セドリック殿下の寝室は、ついに元の寝台の精霊が一部復職を認めたらしい。
条件付きで。
わたしは報告書を読みながら、火守りたちに説明した。
「王宮、頑張っていますね」
火守りたちは満足そうだった。
ただ、一枚だけ別紙があった。
王弟セドリック殿下より、寝台へ毎晩礼を言う習慣について、王族内でからかわれることがあるため、公式手順として全王族に導入してほしいとの要望。
笑ってしまった。
自分だけだと恥ずかしいから、全員に広げたいらしい。
マリア女王の追記がある。
採用。王族寝室管理手順に加える。
強い。
わたしはグレンに報告した。
「王族全員が寝台に礼を言うことになります」
「よいことだ」
「グレンは最初から言っていましたね」
「北境ではもう普通だ」
確かに、砦の兵士たちは寝台に礼を言うようになっている。
最初は照れていたが、今では新兵が忘れると先輩が注意する。
文化は、こうして作られるのかもしれない。
報告書の最後には、王宮のパン窯からの伝言が添えられていた。
王宮のパン窯は、北境のパン窯へ「今度、火加減の交換会をしたい」と希望している。
北境のパン窯は、その伝言を聞いて大興奮した。
砦の竈も参加したがり、灯りの家の暖炉も加わり、いつの間にか「第一回王国火加減交流会」が企画されることになった。
火を扱う精霊たちの交流会。
人間側の料理人たちも参加する。
食文化が発展しそうだ。
ロイド副長は真剣に言った。
「つまり、美味い飯が増えるのですね」
「そうとも言えます」
「全面的に支持します」
こうして、家守制度は予想外の方向にも広がっていった。
暖炉と竈とパン窯の交流は、やがて王国各地の料理改善につながることになる。
暮らしを整える仕事は、危機を防ぐだけではない。
美味しい、温かい、よく眠れた、安心した。
そういう小さな幸せを増やす仕事でもある。
報告書の評価欄に、王宮の使用人からの短いコメントがあった。
朝食が温かいと、朝が怖くありません。
わたしはその一文を、しばらく見つめた。
王宮を出た夜、朝食は勝手に出てくるものではないと、王宮は初めて知った。
今、王宮は自分で朝を温め始めている。
それは、わたしにとって一つの答えだった。




