第五十三話 ルカの帰る場所
孤児院から戻った後、ルカはしばらく静かだった。
食堂でパンを食べても、倉庫で箱を並べても、どこか考え込んでいる。
わたしは急かさなかった。
子どもが何かを考えているとき、大人がすぐ答えを出そうとすると、かえって言葉が引っ込むことがある。
三日目の夜、ルカがわたしの部屋を訪ねてきた。
「ミリア」
「はい」
「俺、孤児院に行くべき?」
胸が少し痛んだ。
ルカは今、砦で保護されている。正式には避難孤児で、後見手続きはまだ途中だ。王立孤児院へ移るという選択肢も、制度上はある。
「ルカは、どう思いますか」
「分かんない」
彼は木札を握りしめる。
「孤児院、悪い場所じゃない。子ども、いっぱいいた。でも、俺、砦に帰りたいって思った」
「はい」
「それ、悪い?」
「悪くありません」
「俺だけ、いいパン食べて、倉庫の仕事して、ミリアに教えてもらって。孤児院の子たち、まだ寒い廊下にいる」
罪悪感。
助かった子どもが抱く、重い感情だ。
わたしは彼の隣に座った。
「ルカが砦で学ぶことは、孤児院の子たちを助けることにもつながります」
「本当?」
「はい。あなたが家守見習いとして育てば、いつか孤児院や村や避難所を見られます。今すぐ同じ場所に行くことだけが、助ける方法ではありません」
「でも、俺だけ」
「幸せになってはいけない、と思っていますか」
ルカは黙った。
その沈黙が答えだった。
「ルカ。あなたが温かい食堂でパンを食べることは、誰かへの裏切りではありません」
彼の目に涙が浮かぶ。
「家を失った人が、新しい家を持つことは、悪いことではありません」
「でも、村」
「エルダ記憶日に行きます。覚え続けます。でも、覚えているからといって、寒い場所に立ち続けなくていいのです」
ルカは泣いた。
静かに、肩を震わせて。
わたしは彼を抱きしめるか迷った。
すると、ルカの方からしがみついてきた。
「砦にいたい」
「はい」
「倉庫の子と、仕事したい」
「はい」
「家守になりたい」
「なれます」
その夜、ルカの後見について、グレンと話し合った。
彼はすでに考えていたようだった。
「ノルデン家で後見を引き受ける」
「よろしいのですか」
「本人が望むなら。兵になる必要はない。家守見習いとして育てればいい」
「ありがとうございます」
「あなたも望んでいるだろう」
「はい」
グレンは少しだけ笑った。
「なら、家族会議だ」
翌日、食堂でルカに正式に話した。
ノルデン家が後見人になること。
砦に住み、灯りの家で講習を受け、家守見習いとして学ぶこと。
いつか別の道を選びたくなったら、そのとき相談できること。
ルカは、何度も確認した。
「追い出されない?」
「追い出しません」
「失敗しても?」
「失敗したら、直します」
「倉庫の箱、間違えても?」
「倉庫の子に叱られますが、追い出されません」
倉庫の精霊が、当然だという顔で頷く。
ルカは泣き笑いになった。
「じゃあ、いる」
「ようこそ、ノルデン家へ」
グレンが言った。
ルカは少し照れながら、深く頭を下げた。
食堂の暖炉が温かく燃える。
家族になる形は、血だけではない。
帰ってきていい場所を、一緒に作ることも家族なのだと思った。




