第四十六話 帰還したら、寝台に叱られました
古砦から戻ったわたしたちは、砦の食堂で盛大に叱られた。
叱ったのは、寝台の精霊たちだった。
特に、王宮から来た寝台の子が怒っていた。
わたしが契約具に触れて手を冷やし、グレン様が無理に前へ出て肩を打ち、ロイド副長が膝をひねった。全員、休養対象である。
「仕事が終わったので報告書を」
わたしが言いかけると、寝台の子が毛布を膨らませて進路を塞いだ。
休め。
強い意思だった。
グレン様も逃げられなかった。
「私は先に作戦報告を」
兵舎の寝台たちが一斉にきしんだ。
休め。
ロイド副長は素直に手を上げた。
「俺は休みます。寝台に逆らうと後が怖い」
「副長」
「閣下も休んでください。監督官殿も」
結局、報告書はクレメントが仮作成し、わたしは三時間の睡眠を命じられた。
不本意だ。
だが、寝台の子たちの怒りは正当だった。
わたし自身、他人には休めと言うのに、自分の休養を後回しにしがちだ。前世からの悪い癖である。
寝台に横になると、毛布がいつもよりしっかり体を包んだ。
逃がさない、という意思を感じる。
「分かりました。眠ります」
そう言うと、寝台の子は満足そうに頷いた。
目を閉じる。
古砦の黒い輪、家霊の声、グレン様の手。
いろいろなものが頭をよぎる。
怖かった。
でも、今は怖さだけではない。
契約を拒んだ家霊の声が、胸に残っている。
我は、檻ではない。
我は、家である。
その言葉は、わたし自身にも向けられているようだった。
王宮で役割に縛られ、婚約者として、王太子妃候補として、家事魔法の便利な使い手として扱われた。あの頃のわたしも、自分を檻のように感じていた。
けれど、今は違う。
わたしは、自分で扉を開けた。
眠りに落ちる直前、扉の向こうでグレン様の声がした。
「寝たか」
ロイド副長の声。
「監督官殿なら寝台に捕獲されています」
「そうか」
「閣下も捕獲対象です」
「分かっている」
少し笑ってしまった。
そのまま、深く眠った。
目を覚ますと、机の上に報告書の草案と、グレン様からの手紙が置かれていた。
ミリア。
古砦であなたが契約解除を呼びかけたとき、私はまた、あなたの仕事を尊敬した。
同時に、怖かった。
あなたが危険な場所へ行くことを止めたい気持ちと、あなたが行かなければ救えないものがあると分かる気持ちが、いつも同時にある。
だから私は、止めるのではなく、共に行けるよう強くなる。
あなたにも、共に帰るために休んでほしい。
グレン。
字は相変わらず綺麗だった。
内容は、以前よりずっと踏み込んでいる。
わたしは返事を書いた。
グレン様。
怖いと言ってくださってありがとうございます。
わたしも、グレン様が危険な場所へ行くのは怖いです。
でも、止めるのではなく、共に帰る手順を作りたいと思います。
そのために、休養記録を自分にも適用します。
ミリア。
書き終えると、寝台の子が満足そうに頷いた。
どうやら、わたしの休養制度も正式導入されるらしい。




