五話
「滝川左近一益にございます。御屋形様より三十郎様の傅役を仰せつかりました。よろしくお願い申し上げます」
「お、おう。お、織田三十郎だ。よろしく頼む」
うわー。滝川一益来ちゃったよー。
滝川一益。
名将ひしめく織田家の中でも屈指の戦上手として知られ「退くも進むも滝川」などと言われたこともある。
柴田勝家たちと並んで織田四天王などといわれることもあり、織田家最盛期には対北条軍団の長にも任じられたが、本能寺の変直後に北条に敗れ、以後は隆盛を失ってしまった残念な終わり方をする人物。
鉄砲の名手であり、伊賀の出身と言われることから忍者説もあったはずだ。
一言でいえば、すげーやつがきた。
まあ、父上も役に立つ者をつけるって言ってたし、バンバン働いてもらうとしようか。
どうせ傅役。結局は父上の家臣であり、俺の監視を兼ねた世話役なんだからな。
「一益、そなた文は書けるな。そなたに書いてほしい文がある」
「文、ですか。相手方は何処で」
「どこもかしこもだ。北は蝦夷から南は九国まで方々に送る。十や二十では足りんからな」
「それは…承知しました」
呆気に取られた様子ながらも気を取り直して承知する一益。こういうトンデモナイ上意にも従うところが如何にもらしい。尤も、一益が従っているのは俺ではなく父上に対する忠義故だろうがな。
「紙と墨はすでに用意してある。早速だが書いてくれ」
「はっ。文の内容は如何に?」
「とりあえず難しいことは書かなくていい。こちらの素性、突然の文の謝罪、文による縁をつなぎたい旨をそのまま書いてくれ」
回りくどかったり無礼なのは論外。どうせ数撃ちゃ当たるって魂胆なんだ、簡潔に纏めておけばいい。
「承知しました…相手方の名はなんと?」
「それなんだよ。一益って各国のことに詳しい?」
「畿内なれば少しは。しかし海道以東、西国、四国、九国には明るくありませぬ」
「ふむ…とりあえず可能性あれば送るか」
「恐れながら、三十郎様は相手方とする者の名を決めておられるご様子。それならば商人を頼ってはいかがでしょうか」
「商人?」
「はい。津島や熱田の商人であれば行商する者とも繋がりがありましょう。他家の内情ならばいざ知らず、その者がいるかどうか程度ならば知っていることもありえるかと」
…一益使えるわー。




