十話
「おめえ、なにしてんだ?」
「選別だよ」
塩水を張った桶に種籾を浮かべ、沈んだ種籾だけを選り分けていく。こうして実入りのいい種籾だけを選別して植える事で、収穫量を安定させることができるはず。所謂塩水選だ。
…最初、真水でやってみたら殆ど沈んでしまって焦った焦った。適正な塩分濃度は分からないけど、半分以上が浮かぶ今の濃度でやってみようと決めた。
「こうやって見入りのいい種籾だけで苗床を作れば、大きく育って実りのいい稲だけで田を埋めれる」
「全部植えた方が量が取れるだろ」
「効率の問題だよ。全部植えたら実入りの悪い苗にも栄養を取られるだろ」
「えいよう?」
首を傾げる源助。
まあ、栄養に理解があれば適当に田植えしたりしないから、栄養という観点は少なくとも百姓にはないんだろう。
塩水選をしながら、あとできることを考える。
田植えの際に苗の間隔を一定にすることはできる。糸一本があれば容易い。
あとは害虫対策として合鴨農法もしたいのだが、一益に聞いたら生きた鴨を売っていることはないとのこと。たまに鴨の卵は屠殺した肉と一緒に行商が売っていることがあるらしいので、その時に卵を買って雛から育てるのが現実的かな。
「三十郎様!」
田の方から一益と数人の男が帰ってきた。皆泥だらけだ。
「御言葉通り、田の底をさらって草は全て除きました。しかし、川より田に水を引く路を掘り直すのは村衆に止められました」
「はあ? なんで?」
「『掘り直すと自分たちの田に引ける水が減るから』だそうです」
「そんなの、自分たちのところの路も掘り直せばいいじゃん」
「そうなれば、我も我もと勝手に掘り始めまする」
そう言って近づいてきたのは村長だった。
「そうなったら水の奪い合いになります。故に水路に手を出すのを禁じておるのです」
「全部の水路を掘り直せないのですか?」
「川は支流にて流れは多くありませぬ。我らが多く水を引けば、下流の村に流れる水が減り余計な諍いを生みまする」
…治水事業もしないといけないのかよ。




