十一話
「川を?」
「はい。三十郎様が申されるには領内の治水を進めればなりませぬと」
実際のところ、三十郎は農地改革や稲作の見直しなども訴えていたのだが、本筋がぶれると判断した政秀は分かりやすく利点のある治水事業に絞って信秀に上申していた。
「童の考えそうなことよ。そのような事、言われずとも知っておるわ」
信秀とて治水の重要性は分かっている。治水を疎かにしては雨季や大雨の度に田が水に沈み収穫が減る。それは即ち、家の収入が減るということだ。
故に、重要性の高い場所から治水を進めてはいるが…。
「減るものを減らすことよりも、増えるものを増やす方が肝要だ。政秀、其方ならば心得ていようが」
治水では減ることは防げても増やすことはできない。増やすには経済を活発にするか、経済規模を大きくするしかない。容易いのは後者、即ち戦で領地を増やすことだ。
少なくとも、信秀はそう考えて生きてきたし、その信秀を政秀は支えてきた。
「…それが増やせると、三十郎は申されるのです」
「なに?」
「詳しくは某も理解しきれておらぬのですが、三十郎様は常の収穫が三割増えると申されておられます」
「三割だと?馬鹿な。有り得んわ」
豊作と言える年でも例年に比べて一割増えるかどうかというのに、治水をすれば豊作でなくとも三割増えるなど、信秀にしてみれば世迷い言でしかない。
「ですので、自らに協力する者のいる村に流れる支流だけでもいいと。人足は用意するので川に手を加える許しを欲しいと申されておられます」
「…そこまで奴は読んでいたか」
「はい」
少し考える。いつか童が言っていた農業改革なるものと此度の治水の申し出。上手く行く訳がないが、万一にも上手く行けば見返りは大きい。
「…政秀。其方はどう見る」
「殿と同じかと」
「ふ…で、あるな」
手早く一筆認めつつ、政秀に指示を出す。
「三十郎に伝えよ。収穫の時には我自ら見届けに行く故、必ず結果を出せと」




