My Heart
シュルシュルと音を立てて手の中で山なりに曲がったカードが混ぜ合わされていく。
テーブルには『Blackjack 21』と洒落た文字で書かれている。
その上を滑るようにして交互にカードが配られていく。
俺は、がっつくようにして手札の確認を行った。
一枚はスペードのエース。
もう一枚は……ハートの9。
合計数『20』と言う数字に、俺の笑顔は嫌らしく歪んでしまう。
それを隠すように片手で口元を覆うも、漏れ出る笑いまでは留められない。
ディーラーのカードの一枚が緩やかに捲られる
スペードの8。
悪くない。
俺は勝利を確信し、スタンドを宣言する。
掛け金『2億1千万』。
これまでに失った額――『1億6千万』を一撃で取り戻せる千載一遇のチャンスに笑うなという方が無理な相談だと誰相手に言うでもなく内心毒づく。
ディーラーの残りのカードが捲られる。
そこにあったのは――ハートの3。
合わせて……11。
一気に敗北のニオイが色めき立ってくる。
血が脳に昇っていかないような感覚に、肺に酸素が行き渡らないような気がしてくる。
動悸が早くなってきて、目の前がチカチカするような気さえする。
最早、見ているだけで精神が削れるかのような感覚に、ついに限界を迎え、白目をむいて倒れ伏した。
その様子には目もくれず、追加で配るはずだったカードを確認し、彼女は興味もなくなったかのように目を逸らした。
宙ぶらりんになってしまった闘いでは、彼女は満足できないと言わんばかりにコツコツと机を指で叩く。
「あーあ!この人、どうするんですかー、支配人?」
何処からともなく現れた少年は、ディーラーに向かって場にそぐわない明るい声をかける。
まるで汚いものでも扱うかのようにツンツンと指の先でつついて見せている。
「契約の通りにすればいいだろう。」
何がそれほど癇に障ったのか彼女は、少年の方を見もせずにそれだけを口にする。
「『途中でプレイ不可能になった場合は、いかなる理由でも持ち込んだ資産は全て放棄し、身柄は外に放り出される事に同意する。』ですねー。畏まりました、私の女王様。」
言われる事を予想していたかのように、その見た目にそぐわぬ怪力で男の身体を持ち上げると、来たときのように、一瞬の間に何処かへと消えていった。
その手の『ハートのクイーン』にもう一度だけ目を向けるとくしゃりと握り潰して放り投げる。
心を粟立たせるような、熱い駆け引きへの渇望をそこにぶつけるかのように。
――夜の繁華街には、こんな噂が流れている。
金持ちでも、一文無しでも、スリルが欲しいなら、あの場所へ。
繁華街のある路地裏を、右に2回、左に3回曲がった先の、派手な扉のその奥に。
首から時計をぶら下げた、場違いな少年が佇んでる。
――『Alice』。
ネオンで描かれたその文字は、今日も彼女の心臓を掴むものを待ち望んでいる。




