沈む夕日
彼は愛おしそうに、剣の腹を撫で回す。
扇情的に、まるで恋人の身体にでも触れるかのように、優しく、何度も、何度も。
目の前で何が起きているのか、私には毛ほども理解ができなかった。
まるで恋人の密会現場でも見てしまったかのような錯覚に陥るが、彼の撫で回すそれが胸に深々と突き刺さっている事実が私を現実へと引き戻す。
滴る血が、床を伝って押し出すように地面を滑る。
彼の為に敷かれた二つのレッドカーペットが交わった。
「おっ、王っ!!」
私は、駆け寄り急いで手当てをしようと彼の服を脱がせる。
しかし、どうみてもそれは心臓を一突きにしており、最早、幾許の猶予も無いことは明らかだった。
「よい……。我が宝剣で命を全うできるのであれば、上々ではないか。」
真っ白になってしまった顔。
体温を感じることの出来ない肌。
目の前の灯火が消え失せることへの、恐怖。
人間でも、獣人でもない半端な亜人の自分を拾ってくれた太陽のような人が、消えていく。
「王!貴方がっ、貴方が居なくなったら、私は一体どうすればっ!!」
目を開けることも辛いのか、彼は口だけを力なく動かす。
「昇った太陽は……、いずれ沈むものだ……。」
ゆっくり紡がれる嗄れた声は、私の鼓膜をそっと震わせる。
どうにも王は、抱え込みすぎる人だった。
あちらこちらから私のようなものを拾っては、良くしてくれた。
それをよく思わない権力を持つ者も少なくなかった。
「だから、私はっ、何度も言ったのに……っ!」
私の言葉が聞こえているのかはもう分からない。
ゴツゴツとした手からは、握り返す力も感じられない。
窓から差し込む西日が、山の向こうに隠れて、消えた。




