第25話 不穏な気配
王都:冒険者ギルド
さて、冒険者ギルドに来たはいいものの特になにをするかは決めていない。
クエストボードをじっくり見てみるが……パッとしないな。
適当にモンスターの討伐依頼を受けてもいいが、王都周囲のモンスターはレベルが低い。
「んー、パッとしないわね。ゴブリンやトレントは戦い飽きたわ」
「俺はまだ一度も戦ってないんだが」
「まぁ、いいわ。これにしましょ!」
そう言いクエストボードの貼り紙を1枚剥ぎ取る。
【ゴブリンシャーマンの討伐】
ゴブリンシャーマン。
確か呪術系のスキルを扱うゴブリンだっけか。大して強くわないが、呪術を扱う分危険度が高い。
俺ら2人じゃオーバーキルだと思うけど、いい暇つぶしにはなるか。
「あ、ヒリスさんこんにちは!」
ヒリスに気が付いた受付嬢がニッコリと笑い挨拶をする。
「レイさんこんにちは、今回はこのクエストを受けるわ」
「ゴブリンシャーマンですね!わかりました!……えっと、パーティーで受けられるのですか?でしたら、パーティー申請が必要になりますが」
「手続きが必要なのね」
ランクが離れた冒険者同士で組み、不正に実績を残すことを防ぐための対処だな。
「では、3人パーティーでの申請でよろしいですか?」
ん?3人?
「ええ!私と、エド、あとルミナも!」
「ちょちょちょちょっとまて!ルミナ!俺達と組むのか?」
「え、ええ、できればパーティーを組みたいなと思ってまして」
まぁ、確かに流れ的に一緒に組む流れだったけどさ。
現状を客観的に見ると、女2男1のパーティー……これは、まずい。
そう考えていたところ、カランとギルドの扉が開く。
そこには見慣れた顔が1つ……。
「ジーク!!!!!!」
口をへの字に曲げた仏頂面が可愛く見える。思わず抱きついてしまう程に。
「うおっ……!!なんだてめぇ気持ち悪い」
「な、なぁ!お前中級だよな?俺達とパーティー組まねぇか?組むよな!」
「断る」
「ああ、一緒に強くな……断る!?なんで!」
「残念だが、既にパーティーは組んである」
あのジークが……?
他の人とパーティーを?
「パーティーを組んだのか……?俺以外のやつと……」
「んだよその言い方気持ち悪いな」
「面白い冗談だ。お前とパーティーを組むやつがいる訳ないだろ。俺達以外友達いねぇのに」
「ぶっ飛ばすぞ」
くそっ、他の適当なランクの近い奴を引き入れるか?
いや、俺達は魔族に狙われる身だ。危険な目に合わせてしまうかもしれない。
そう考えるとやっぱりジークを。
「なぁ、頼むよジーク。このままじゃ次の街で奴隷の獣人美少女とかその次の街では擬人化する龍の王女様とかが仲間になっちまう……」
「はぁ……この国は奴隷売買は禁止してんだろ。それに龍が擬人化する訳ねぇ」
「俺は無自覚ハーレム系主人公にはなりたくないんだよ……!!」
「何言ってんだお前」
そんな言い合いをしていると、またギルドの扉が開き、見知った顔がもう1つ。
「あら、こんなとこに居たのねジーク」
美しい銀髪に真紅の瞳、すれ違う人も振り返るほどの美貌の持ち主……そう、我が姉だ。
「ア、アル姉?まさか、ジークのパーティーって」
「ああ、アルフィさんとパーティーを組ませてもらうことになった。アルフィさんは滅級だから、パーティーを組むランクの制限はない。もっと強くなる為にな」
そうか。更に上を目指して……。
「私は可愛い弟とパーティー組みたかったんだけどねぇ、私がいたら甘やかしちゃうし」
甘やかす?
何言ってんだこの人。半殺しにするの間違いだろ。
「そしたらジークが一緒にパーティー組んでくれってね。この子も鍛え甲斐がありそうだし」
「そ、そうですか……」
これはもう付け入る隙がない。
「じゃ、私達は行くわ。あんたらしっかりやるのよ!エルフのお姫様も!」
「は、はい!」
2人は踵を返し、冒険者ギルドを後にした。
「エド、何してんのよ。パーティー組まないの?」
「あ、あのご迷惑でしたらその……」
ルミナがシュンとしている。
あ、これはまたやらかしてしまった……。あれほど邪険にしないと心に誓ったのに。
「い、いや大丈夫だ。すまない、バランス的にジークもいて欲しいなと思っただけで、パーティー組もうか」
もう吹っ切れるしかないな。
それに、よくよく考えたら、前衛も中衛もこなせる万能アタッカー2人に、サポート特化の優秀バッファーだ、バランスは凄くいい。
「ヒリス・アルノシア様、エドラス・ルビウス様、ルミナ・エラルシュカ様、はい!確かにパーティー申請受諾しました!頑張ってください!」
さて、ドキドキワクワクの冒険者生活が始まる。
ヒリスほどでは無いが、実は俺も冒険者になるの楽しみだったんだよな。
初陣の相手はゴブリンシャーマンか。
気合い入れていこう。
◇◇◇
王都ゲラードを南に数キロ進んだ先にある小さな村。その先にある森はゴブリンの生息地で、その中のゴブリンの群れの一部を率いているのがゴブリンシャーマン、言わば群れのボスってことだ。ランクは下級中位。
「まぁ、雑魚だな」
〔ギギャギャギャギャ!!!〕
「張合いないわね」
〔ギャー!! 〕
迫るゴブリンを片っ端から斬り倒していくヒリス。
返り血を浴びることなく進んでいく。
「流石ですね」
「そうだな。まぁ、ゴブリンシャーマンくらいなら俺達は必要ないだろう」
もう結構探索しているけど、ゴブリンシャーマンの姿は一向に見えない。
「ん?」
〔ギギャギャギャギャ!!!〕
背後の草むらからゴブリンが飛び出してきた。
狙われてるのはルミナか。
「よっ」
〔バチィ!!!〕
強力な電圧でゴブリンの頭が吹き飛ぶ。
「ありがとうございます」
「余計なお世話だったか?気付いてたろ」
「いえいえ、サポートスキルはマナの消費が激しいので助かります」
そういや、俺とヒリスはスキルの詳細を互いに知っているが、ルミナのスキルは知らないな。
「なぁ、ルミナ。差し支えなかったら、スキルの詳しい情報教えてくれないか?やっぱパーティー組む上で必要だと思うんだ」
「そう言えば話していませんでしたね」
コホンと1つ咳払いをして、話し始める。
「私の第2スキルは【マナ・エンハンス】。対象のマナそのものに影響を与え、所有するスキルを強化することができます。どのような強化になるかはスキルによりますが……」
そう言うと、ルミナはヒリスにバフをかけた。
【マナ・エンハンス】
「わっ!これ、ルミナのバフ?凄いわね!」
おお、ヒリスが纏う稲妻の勢いが増した。
マナそのものに影響を与えるってことは、マナで身体を強化している場合、その分身体能力も向上してるってことだよな。
俺が体術を使う時の鬼纏にも使える便利なバフだ。
〔キシャシャシャシャ!!〕
「あ、ヒリス、エド!あのゴブリン!」
髑髏型の杖を持ったゴブリン……。
見るからにシャーマンって感じだ。
「ルミナ、万能視でみれるか?」
「はい、ゴブリンシャーマンで間違いありません」
いよいよボスのお出ましか。俺の出番はあるかな?
「ふふん、エド、見てて!」
出番は無さそうだ。
ヒリスは大きく振りかぶり剣をゴブリンシャーマン目掛けて投げた。
あれは、俺がギルマスと戦った時の。
雷電を纏った剣は一筋の稲妻を残し、ゴブリンシャーマンの横を過ぎる。そして、その稲妻をなぞるようにヒリスが一瞬で移動し、剣を握り、一閃を振り抜く。
ゴブリンシャーマンの首は見事に撥ねられた。
「ゴブリンシャーマンのやつ、呪術を使う暇すらなかったな」
「どう?エド、私もできるようになったのよ」
ドヤ顔をしているが、まさか俺の曲芸を習得しているとは、末恐ろしい。
「あのな、俺は剣を投げても召喚し直せるけどお前は得物を失うリスクがあるんだぞ」
「えー、でもカッコイイじゃん」
「はいはい」
「お2人共!討伐証明部位剥ぎ取って戻りましょう!もう日が暮れますよ!」
「「はーい」」
俺の冒険者としての初陣はヒリスの独壇場で終わったのであった。
◇◇◇
場所は変わり
【ルーカディア王国アバルト領南部:中央都市ドラゴ】
ドラゴの冒険者ギルドに1人の男が颯爽と現れた。
「ふっ、ついにこの俺の名が世界に轟く時が来たか」
漆黒のロングコートと片手用直剣を背にした赤髪の男が冒険者ギルドの扉を開く。
そんな彼を尻目に冒険者達はヒソヒソと話す。
「おい、見ろよあれ」
「うわっ、異世界人じゃん」
「まじかよ……なんでこんなとこいんだよ」
そんな陰口を歯牙にも掛けず、受付嬢の元へ歩み寄りカウンターに肘をかける。
「ルーリさん、こんにちは」
「はい。こんにちは」
薄らと半目の冷やかな視線を赤髪の男へと向ける受付嬢。
「俺にあった依頼を見繕ってくれないかい?」
「薬草採取と街のドブ掃除がありますが」
「はっは!相変わらず冗談が上手いな!俺が求めてるものわかってるだろ?」
「わかりません」
「ほら、龍退治とか?フェンリル狩りとか?」
その言葉を聞き受付嬢の冷やかな視線はやや殺意を帯びた敵視へと変わった。
「龍はこの領地を守護する守り神のような存在です。退治などと二度と口にしないでください」
敵視ししているのは受付嬢だけではない。その言葉を聞いた冒険者達からもその視線を向けられている。
「それに、貴方のランクは下級中位。フェンリルは特級のモンスターなので貴方には紹介できません」
「ふっ……俺が下級に収まる器だと思うかい?」
「はい。妥当かと」
「はは……俺は神に選ばれし地球からの転移者!授かったスキルは強力な【魔力剣】!この世界を魔族から守る救世主となる……」
「……ぷっ」
1人の冒険者が思わず吹き出す。
「魔力剣って……そんなありふれたスキルで神に選ばれしって……ぷふっ」
〔クスクスクス……〕
嘲笑され続ける赤髪の男は顔も赤くし、俯く。そして、自分がどういう立場に置かれているかをやっと理解した赤髪の男はその場を駆け出し、冒険者ギルドを後にしたのだった。
「くそっ!くそくそくそ!!なんだよ!どこ行っても異世界人だと馬鹿にされる!俺は転移者!!特別なんだ!!魔力剣だって実は珍しいスキルだから僻んでいるだけだ!!くそくそくそ!!」
赤髪の男は足を止め、遠くに聳え立つ霊峰を見据える。
「そうだ。俺がドラゴンスレイヤーとなれば、皆俺がこの世界の救世主だと信じるはずだ!ふっ、ははっ!はははっ!!」
赤髪の男には受付嬢の話が耳に入っていなかった。
そして、男はふらつきながら宿へと戻るのだった。




