第26話 ドラゴンスレイヤー
場所は戻り、ルーカディア王国首都ゲラード。
冒険者としての初陣を終えて数日、俺達はぼちぼち依頼を受けながら生活していた。
今日は休日。
やることもないので、ギルドの酒場のカウンターでぼーっとしている。
「ほぁぁ……」
「でっかい欠伸だなエドラス」
「ギルマス」
「ダンテさんって呼べよ」
この人いっつも冒険者ギルドにある酒場にいるが、暇なのか?
サブマスが頭を抱えている姿が目に見える。
「暇なんですよ。女子2人で今日はショッピングに行くらしいし」
「今日はお前1人か。ならちょっと付き合え」
「えー、暇をするのに忙しいんですが」
「うるせぇ、こい」
全く、強引な人だ。
◇
半ば強引につれてこられたのは王都に最も近い山だ。
連れてこられた理由はなんとなくわかる。
「ギルマス、この気配」
「気付いたか」
息が苦しくなるような重たい気配。
人間のものじゃない。これは……モンスター?
「ドラゴンだ」
「……ドラゴン!?」
ドラゴンっていえば、この下界における種族の頂点。ドラゴンとまともにやり合えるのは上級中位冒険者以上だ。
そんな最強種族がなんでこんな所に。
「ドラゴンっていっても下位種の赤龍だ。だがまぁ、下位種とはいえランクは上級下位以上」
「ならなんで俺を連れてきたんですか……」
「まぁまぁ、どうやらこの赤龍なアバルトから来たらしいんだ。何かに怯えて逃げてきたみたいでな」
アバルトっていえば確か、守護龍ゼノが守護する北部の領土だったよな。
赤龍もゼノの統治下に置かれていると思ったいたんだが。
「着いたぞ」
「……っ!!」
これが……ドラゴン。
凄い圧だ。これで下位種だと?ふざんけな、上位のドラゴンになったら一体どんな……。
「臆するな。お前が今後相手にするのはコイツら以上の化け物だぞ」
「お、おう……スゥー……ふぅ……もう大丈夫です」
ディルナーデと対峙した時の圧に比べたら、大したことない。
〔グルルルルルル……〕
「下位種は上位種の統治から外れてしまえばただのモンスターだ。こいつもな。恐らくゼノの統治から外れてる」
「わかるんですか?」
「ああ、獣の目だ。それに、ゼノのような善良な龍に統治されている龍は人を襲わない。だが、こいつは……」
「あれは……まさか」
赤龍の背後にある骸、あれは人の物だ。確かこの山の近くには農村があったはずだ。
「山の麓にある農村がこの赤龍に襲われた。被害は甚大だ。これはもう討伐せざるを得ない」
「そうですね。討伐しないと更に被害がでますね。ギルマス、頼みました」
俺がそういうと不敵な笑みを浮かべたダンテが俺を見て、赤龍を指さした。
「お前がやれ」
「……は?」
何言ってんだこのおっさん。
「ちょっと待てよ!!上級下位以上なんだろ!?流石にむりだろ!」
「おーい、敬語取れてんぞ。それに、こいつはまだ赤龍としては幼い。盛って中級上位ってとこだ。それに、俺が見てる。万が一は起こらない」
そこまで言われたら、やるしかないのか?
俺がドラゴンを討伐……?
そうだ!ヒリスとルミナを呼んでパーティーで対処すれば。
「……」
いや、ダメだ。
無意識に甘えちまってる。
これじゃ、俺はいつまで経っても強くなれないな。
ダンテはそれを察して連れてきてくれたのだろう。
そう思いダンテを見るがニヤニヤと笑っている。
違うな。あいつは俺を虐めて喜んでるだけだ。
「わかったよ。やってやる」
正直冷や汗が止まらない。
でも、なんだろうな。そこまで緊張しないな。
そう言えば俺って今まで格上としか戦ったことないな。
ヒリスにディルナーデ、ジークにダンテ。
俺自身が弱いってのはあるが、なんか理不尽じゃね?
なんか怒りがフツフツ湧き上がってきた。
「どいつもこいつも、俺をなんだと」
〔グルルルルルル……グ、グル?〕
「悪いな赤龍。これは八つ当たりだ」
〔グ、グルルルルルアアアア!!!!〕
「いくぞ!!」
◇
「はぁ……はぁ……はぁ……」
纏う雷電がバチバチと迸る。
俺の足元には血だらけの赤龍が息を荒くして倒れている。
〔グルル……〕
「悪ぃな、マナの量と根性だけは誰にも負けないんでな」
〔グルァ……〕
赤龍の巨体が2時間にも及ぶ激闘の末、地に伏した。
「勝てちまったよ」
俺が赤龍に、まじか。
「おー、流石だな」
「わかってたのか?俺が勝てるって」
「そりゃな」
「な、なんで、俺なんて」
そう言うとダンテはため息混じりに俺を見る。
「エドラス。はっきり言うが、お前は強い。ヒリスやジークと並んでも遜色ない程にな」
俺が強い……?
「なまじお前の周囲には化け物地味た奴らしかいなかったから自己評価が低くなるのも頷けるが、お前は低すぎる。その上卑屈だ。謙遜は時に才能を潰す。自惚れろとは言わないが、相応の力を持っていることをしっかり自覚しろ」
「自覚しろったって……」
「冒険者というルール上、中級だが、お前の実力は上級下位にも匹敵するってことだ。まぁ、ヒリスなら特級並だがな」
「そうか…………ってちょっと待て!上級下位にも匹敵する?あの赤龍は盛って中級上位なんじゃないのか?」
「え?あ、えーっと……ははっ」
「騙しやがったな……!」
「だってそうとでも言わねぇとお前戦わないだろ!!苦渋の決断だ!!」
「苦渋の決断だ!?楽しんでただろ!!」
通りで強いし、幼体にしてはデカいと思った!ちゃんと成体じゃねぇか!
そして、ダンテは再びニヤリと笑い、俺の肩手を置いた。
「下位種とはいえ、ドラゴンの単独討伐。立派なドラゴンスレイヤーだな?」
「んなっ!?」
俺のギルドカードが光ってる!?
カードの【称号】と書かれている欄に【ドラゴンスレイヤー】の文字が刻まれた。
おいおい……まじかよ。
「赤龍討伐でドラゴンスレイヤーって……」
確かに龍種ではあるが……。
「まぁまぁ、そう興奮すんな」
興奮ってか分不相応すぎる称号を得てしまった焦りなんだが。
「実はなぁ、アバルト領のドラゴン達の様子がおかしいらしいんだ。ソワソワしてるって言うか、守護龍のゼノも姿を見せなくなったみたいでなぁ」
「はぁ、そうなのか。それで?」
嫌な予感しかしない。
「それでなぁ、冒険者ギルドにこんな依頼が来てなぁ。【アバルト領に生息する龍種の調査。条件:パーティーに1人以上ドラゴンスレイヤーの称号を持っていること】」
「まさか、これの為に……」
「いやぁ、ドラゴンスレイヤー持ちの冒険者は魔族の調査やらであちこち忙しくてなぁ?そしたらあら偶然!ギルドの酒場で暇を持て余してるドラゴンスレイヤーがいるじゃないか」
こんのクソオヤジ……。
「だから俺に赤龍討伐をさせたのか……」
俺に自信を持たす為に一肌脱いでくれたのかってちょっと感動してたのに、全て台無しにしてくれたな。
「パーティーに1人以上居ればいいんだろ?わざわざ俺をドラゴンスレイヤーにしなくても、ヒリスがいるだろ。なんで俺なんだ」
「え?暇そうなのがお前くらいだから?」
「……」
殴っていいかな?
確かに暇っちゃ暇だけど。
「はぁ……わかったよ。どっちにしろ王都周辺じゃ大した依頼はないし、ちょうどあいつらとも遠出するかって話してたとこだ」
「そりゃちょうどいい」
「で?調査って一体何したらいいんだ?」
話を聞くに、アバルト領のドラゴン達の様子がおかしいのは表にでなくなった守護龍の存在が大きそうだが。
「お前の思っている通りだよ。原因はおそらく守護龍ゼノ。未だ消息不明だ」
「なるほど、つまり俺達で守護龍を探してこいと」
「だな」
守護龍ゼノ……か。
モンスターでありながら理性的で人間に友好的なドラゴン。800年前の魔神討滅戦争でも人間側に立ちその力を大いに奮ってくれた。
懐かしいな。
「気をつけろ。ゼノが理性を失いモンスターそのものになっていると判断したら真っ先に逃げろ。ヒリスを含め、お前達じゃ相手にならない」
「……わかってる」
友好的なドラゴンだからゼノにはモンスターとしての危険度は存在しない。
だが、万が一奴がただのモンスターと化したらその危険度は『滅級』に該当する。
それこそ、アルフィ達『滅級冒険者』の出番って訳だ。
「まぁ、なんとかやってみるよ」
「おう、頼んだぞ。……それとエドラスお前、敬語抜けてんぞ」
「今更だろ。この一連の流れでギルマスに対するリスペクトは地に落ちた」
「ひでぇ」
素直にお願いすりゃ断らなかったのに。騙すようなことをする自分が悪い。
「さて、あいつらは帰ってるかな」
俺は山を下り、王都の宿屋へと帰った。
◇◇◇
数時間後、王都の宿屋。
俺の部屋にヒリスとルミナを呼びアバルト領龍種調査の作戦会議だ。
「ふーん、アバルト領で龍種の調査ね」
「なんか拗ねてる?」
今日のことを話すと、ヒリスは若干不機嫌そうにこちらを見ている。
「ショッピングつまらなかったのか?」
「え、ヒリス、そうなの?その……ごめんなさい」
「ちょ!エド!変なこと言わないで!違うわルミナ、今日はとっても楽しかったわ」
「ふふっ、わかっていますわ、冗談です」
イタズラな笑みを浮かべるルミナ。
うん、かわいい。
どうやらルミナもヒリスをからかう楽しさを知ってしまったようだな。
「もう!2人してからかわないで。エドだけ赤龍と戦ってずるいって思ってただけよ」
「仕方ないだろ。お前らは遊びに出かけてたんだから」
「私も赤龍と戦いたかったわ。1人だけドラゴンスレイヤーになんかなっちゃって」
「これは俺が正当な評価を受けるためにギルマスが一肌脱いだんだよ」
「ん……エドが正当な評価を受けるのは私も嬉しいことだけど……」
嬉しいこと言ってくれるね。
「まぁ、ギルマスの話によるとアバルトのドラゴン達の一部が暴れているらしい。赤龍程度下位種だったら戦う機会もあるだろ。だが問題は……」
「上位種のドラゴンですね」
そう、上位種のドラゴン。中にはゼノのように名を持つドラゴンもいる。
指定されている危険度は【特級以上】。まともに相手をできるのはヒリスくらいだろう。
パーティーでなら討伐も可能だが……やはり力不足だ。
「いくら俺が暇とはいえ、こんな無理やり行かせるようなやり方をするのには何か裏がありそうな気がするんだよな」
「経験を積ませたいんじゃない?」
「それもあるだろうが……」
なんかこう……もっと深い事情があるような。
「考えたって仕方ないか。お前ら2人はアバルト領へ行くのは大丈夫か?」
「私は問題ない、エドが行くところについて行くわ」
「私も大丈夫です。留学中の行動は自由を保証されていますから」
心配だったルミナも大丈夫みたいだな。
第2王女だから制限があると思っていたが、杞憂だったようだ。
そもそも制限があれば冒険者になれないか。
「そうか。なら、明後日の朝出発しよう。明日は各自準備にあててくれ。移動は途中まで馬車を使うが、アバルト領に入ったら徒歩で中央都市までいく」
「どうして?全部馬車でいけばいいじゃない」
「ゼノが住まう中央都市周辺で異変があってからドラゴン達は各地に散っていったらしい。手掛かりがあるかもしれないから、調べながら移動したいんだ」
「なるほど……途中から歩くとなると、4日はかかりますね」
4日か、割と長旅だなぁ。
道中には村も少ないし、野営も考えないと。
「はぁ……しばらくはゆっくりするつもりだったんだけどなぁ」
「いつもダラダラしてるじゃない」
そんなことねぇ……とは言いきれないか。
天界でぐーたら過ごしてきたせいか怠け癖が中々抜けない。
でも息抜きすることは悪くないはずだ。
そうだ、俺はきたるべき決戦に向けて体力を温存してだな……。
「……ほら、帰れ帰れ。明日王城前集合だ。一応陛下には挨拶しとかないとだしな」
「そうね。アカデミーの登校日は1ヶ月後よね?」
「はい、なので定期的に戻ってこないといけませんね。でも、楽しみです!3人で旅をするの!」
「私も!どんなモンスターが待っているか楽しみだわ!」
キャッキャッとはしゃぐ2人。ヒリスだけ楽しみのベクトルが違う気がするけど。
「……早く帰れ」
俺の言葉は2人の声にかき消され、その後も俺の意思とは関係なく女子会が繰り広げられるのだった。




