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第24話 特待生

 

 1週間後、ルーカディアアカデミー入学式当日。


「何むくれてんだよ、ヒリス」


 宿に迎えに行くと準備を済ませたヒリスが頬を膨らませそっぽを向いている。


「……一緒に依頼受けてくれなかった」


 そんな事かよ……。


「あのな、俺はあのおっさん……ギルマスとの戦いで消耗してたんだ。仕方ないだろ」


「ふーん。宿屋抜け出してエルフのお姫様に会いに行く元気はあるのに?」


「んっ……あれは呼ばれたんだよ。他意は無い」


「ずるいわ。私もお姫様とお近付きになりたいのに!」


 お近付きになりたいって……。またオッサンみたいなこと言って……。


「お前のことも紹介しといたよ」


「ホント!?」


 さて、そろそろアカデミーに着くが……。


「すごい人の数だなぁ」


「国内最大級の学校の入学式だからよ」


 それもそうか。

 特待生以外でも各学科には平民から上級貴族、他国の貴族や亜人種までいる。

 今年の入学数は確か……。


「1000人もいらっしゃると壮観ですね」


「ルミナ。おはよう」


「おはようございます、エド」


 1000人もいるのか……。

 それに、その保護者もいると考えるとその3倍……3000人ほどか。


「へー、愛称で呼ばれてるのねエド」


「別にいいだろ。誰でもそう呼ぶさ」


「あら、ヒリスもおはようございます」


「っ!!ええ!おはようルミナ!!」


 ジト目で俺を見るヒリスに対して笑顔を向けるルミナ。ヒリスの扱い方を分かってるみたいだな。

 可愛い女の子と親しくなれてえらく上機嫌だ。


「一旦教室で待機だっけ」


「はい、入学式を終えたあとはホームルームということになっています。その後は授業のオリエンテーションがあるらしいのですが」


「へー、オリエンテーション」


 正直学ぶことなんてないんだけどなぁ。


「今『学ぶことなんてない』って思ってるでしょ。ダメよ、お父様達との約束なんだから」


「わかってるよ」


 特待生に受かった以上約束はちゃんと守らないと。


 ◇


 ルーカディアアカデミー特待生。

 その名の通り、特別待遇で入学が許された生徒達。

 誰でもなれる訳ではなく、上級貴族からの推薦に加え、高度な知識と武力が必要とされている。


「そんな誉れ高き"我ら"特待生に、まさかコネで入学する奴がいるなんてな」


 俺の目の前に立ちはだかり睨みつけてる金髪のハンサムボーイ。

 そんなに見つめられると照れちゃうわ。


「言われてんぞ、ルミナ」


「わ、私!?確かに実技試験は受けておりませんが……戦闘能力は皆さんと同等はありますよ?」


 そう言いルミナはステータスを見せてくれた。


 ふむ。

 体力:Cに筋力:D+、そして敏捷:B-……。

 うん、俺より全然強いね!


「ルミナって意外と強かったんだな」


「いえ、最低限を満たしてるだけですよ。神託の儀式で得たスキルは【味方の能力を向上させる】スキルですし」


「へー、万能視に覚醒はないから、2つ目のスキルを得たのか」


 バッファーも貴重だからなぁ、またレアなスキルを貰ったもんだ。


「おい……!!俺を無視するな!!」


「え?」


「とぼけるな!!貴様に言っているんだ!エドラス・ルビウス!!」


 何をそんなに怒ってんだって思ったが、コネだなんだって言ってたっけ……入学早々因縁を付けられるとは……。


「実技試験は1回戦敗退、ステータスも俺達より遥かに低い。そんな貴様より優秀な人材はいくらでもいたはずだ」


 まぁ、言いたいことはわからんでもないが。


「それで?合格しちまったもんは仕方ないだろ」


「チッ……虎の威を借る狐が」


「はは!言い得て妙だな」


 いつも俺の隣にいるのはルビウス領を救った若き英雄。そんな強者の隣で甘い蜜を吸ってるって思われてるのが今のところの俺の共通認識って訳だ。

 まぁ、こんなのいちいち気にしてたらやってらんないから適当にあしらうのが1番だ。


「はぁ……ごちゃごちゃうるせぇな……」


「ジーク……制服似合ってんな」


「だまれ」


 おお、ジークのツンが出た。


「ジークバルト!不満はないのか!?こんなクズが栄誉あるこの……」


「不満だ?俺は逆にこの能天気馬鹿が最下位なことの方がおかしいと思うがな」


 お!次はデレか!?


「グダグダうるせぇぞお前、俺とは3回戦で戦ったよな?そん時に俺に手傷を負わせる事ができたか?」


「い、いや……」


「それが何よりの証拠だ。その小せぇ頭で少しは考えたらどうだ?そいつは俺と対等に渡り合うほどの戦闘能力がある。その上、筆記試験では特待生の中でも首席で群を抜いていたらしい。どこに不満がある」


「ぐっ……そ、それは……はっ!もしかして金でも掴まされたのかい?」


「……あ?」


 あ、まずい。


「き、君はあの試験でコイツが合格するように手を抜いたんだろ?」


「俺が?手を?」


 ビキビキとジークの額に青筋が立っていく。

 手を抜くか……ジークは戦いにおいては一切手を抜かない。それがジークにとっての相手への最大の敬意だからだ。

 そんな精神を否定されたらな……。


「てめぇ……」


「なっ!?」


 〔ガンッ!!!〕


 目にも止まらぬ早さで胸ぐらを掴み、相手を壁へと押し付けるジーク。

 ちょっとは丸くなったかと思ったけど、短気は相変わらずだな。


「見事な敏捷性だ。流石はジーク、ヒリスにも引けを取らないな」


「感心してないで止めなさいよ!」


「えー」


 面倒臭いけど、そろそろ止めないとこの男のハンサムな顔が見るに耐えない状態になってしまいそうだ。

 マジギレしてるジークを止めるには神刀が必要だな。


「ジーク、そのくらいに……」


「ほぇ〜、それが噂の神剣か」


「「「っ!?」」」


 唐突に背後から聞こえる気怠げな声。

 咄嗟に距離を取り、神刀を構えた。


「い、いつの間に……」


 見るからに草臥れた様な中年の男性だ。

 だが、立ち姿に隙が全く無く、アルフィやルーピン、リックのような強者の風格を漂わせている。


「んあ?あー、ジークバルトが掴みかかる少し前くらいからいたぞ?」


 そんな前から俺の背後を取っていたと。

 俺のマナ感知はB+だ、それでも全く気付かなかった。

 それに、ヒリスとジークの様子を見るに、あの2人でも気が付かなかったみたいだ。


「はいはーい、喧嘩やめよーなぁ。ほら、ジークバルト、離れろ」


「うぅ……」


 気怠げなおっさんはボコボコにされたハンサムボーイからジークを引き剥がし、大人しく席につかせた。


「はぁ……俺はシリウスだ、一応担任な。んで?なんで喧嘩してたんだ?」


「先生!!」


「お、おう、どうしたロイド君」


 殴られて腫れ上がった顔を冷やしながら手を挙げる生徒。

 あのハンサムボーイ、ロイドって名前なのか。


「俺はこのエドラスが特待生として合格している事に納得がいきません!!」


「ほう、エドラスが?」


「ロードネス伯爵家の次男バルド!ルマネ子爵家の長女ロマニア!平民ながら強力なスキルと類稀なステータスを有しているルイビル!このような優秀な受験者がいながらこの落ちこぼれがコネで合格していることに納得いきません!」


 ほう。

 こいつ、偏見の凄い貴族主義のクズかと思ったが、しっかり客観的に人を評価できる人間なのか。

 客観的に評価できるが……先入観や他人からの評価を鵜呑みにしやすい。

 その癖が治れば良い人材になるのに勿体ない。


「おお、確かにそいつらは優秀だが特待生は文武両道だ、どちらかに欠点があったから不合格だったんだが」


「そ、それは!ですが、最下位とはいえエドラスが……」


「え?エドラス最下位なの?」


 シリウスはキョトンとした顔で俺を見る。


「あぁ、ギリギリだったな」


「…………ぷっ!だーはっはっはっは!!なんだお前!最下位なの!?」


 なんだこのおっさん。順位聞くなり爆笑しやがって、馬鹿にしてんのか。


「クソ貴族共にしてやられたなエドラス!いやぁ、陛下も審査に関わってる特待生試験の結果を弄るとは恐れ知らずだなぁ。嫌われてんのなぁエドラスお前」


 どういうことだ?


「まぁ、少し説明してやるよ」


 シリウス曰く、俺はもっと上の順位だったらしい。公爵家の恥晒しと言われていた俺が力をつけて目立ち始めているのを快く思わない貴族連中もいるって訳だ。

 別に合格すれば順位なんてどうでもいいんだけどさ。


「エドラスが上の順位……?そんな馬鹿な」


「さっきも言ったが特待生試験の審査には陛下も関わっている。それに意を唱える意味をよく考えるんだなぁ。まぁ、流石に落とすことは出来なかったみたいだな!だっはっはっは!!!」


「くっ……」


 言い返すことが出来なくなったロイドは俺を睨みつける。

 大方『国王まで抱き込んだのかぁ』だとか考えてんだろうな。


「はぁ……めんどくせ」


 まぁ、アカデミーにくるのは月に1回だし、このロイドってやつはどうやら騎士家系らしい。なら、冒険者としても絡むことは無いだろう。

 無視無視。


「うーし、じゃあ落ち着いたところで自己紹介といくかぁ。んじゃ、俺からなぁ」


 この人本当にマイペースだな。


「俺の名前は"シリウス・ランベルト"。王様の近衛騎士やってんぞぉ」


 シリウス・ランベルト?

 初めて聞く名前だな。

 と、思っていると教室がざわつき始めた。


「シリウス・ランベルト……!?じ、実在してなのか」

「嘘でしょ……あの剣聖がアカデミーの担任……」


 え、もしかして有名人なのか?


「な、なぁ、ヒリス、あの人って有名人なのか?」


「知らないの?シリウス・ランベルトっていえば私達が産まれる前に起きた大災害『スタンピード』からたった1人でこの街を救った大英雄よ」


 スタンピードっていえば、モンスターの大侵攻的なあれだよな?

 それを1人で……とんでもないな。


「あまり表舞台に出てこないので、実在するのかどうかも疑われる伝説の偉人だとも聞いています」


「ルミナの国でも有名なのか?」


「ええ、それはもう」


 へー、あの草臥れたおっさんが。


「いやいやぁ、はっはっは!おじさん有名人だからな!ちなみにスタンピードは実際は俺だけじゃなかったぞぉ。んじゃ次〜、そうだなぁ、試験の順位で順番にいくか」


 てことはヒリスからか。


「ヒリス・アルノシア。中級冒険者よ。あまり関わることないだろうけどよろしく」


 おいおい……それじゃ友達できないぞ……。

 次はジークか。


「ジークバルト・エアフリト。中級冒険者」


 …………それだけ!?

 まぁ、ジークらしいか。


「お初にお目にかかります。エラルシュカ魔導国第2王女ルミナ・エラルシュカと申します。皆様どうぞよろしくお願い致します」


 美しく一礼するルミナ。流石と言うべきか。こういう場には慣れてるんだろうな。

 ニコッと笑うルミナに対して男子共が頬を赤らめているな。魔性の女だ。


 そこからは順番通りに自己紹介が進められていく。


「アラン・カエデルです。一応近衛騎士目指してます!」


 入試成績4位か。元気いっぱいの男の子だ。低身長の弟キャラってとこか?

 こういう明るい人はクラスを和やかにするからいいキャラだな。


「オルロス・エリオン。冒険者をやっている。下級中位だ。よろしく」


 仏頂面の大男だ。だが、悪い奴ではないというのが全身から滲み出ている。

 心優しい巨人って感じの第一印象だ。


「マーシャ・アンデルです……。えっと……その、一応冒険者やってます……!下級ですけど……」


 おお、地味系美少女。

 特待生にしてはなんとなく迫力に欠けるが……まぁ、まだ15歳だしこんなもんか?

 入試6位だもんな。見た目によらずってやつだ。


「ルード・デクラ」

「レード・デクラ」


 ここに来てまさかの双子!!

 デクラ家の双子は実家でも時々聞いてたっけ。確か有名な騎士家系なんだとか?

 アホ毛が1本なのがルードで2本がレード……って、どこのアニメのキャラだよ。

 絶対間違えるな……。


「ロイド・ファルベールです。今はルーカディア騎士隊に所属しています。いずれ、近衛騎士になり王の剣となります」


 そう言い、キッと俺を睨む。

 いちいち睨むなよ面倒臭いなぁ。

 それに、お前9位だったのかよ。順位改竄されてなかったらこいつが最下位だった訳だが。

 まぁ、皆まで言うまい。


 さて、最後は俺か。


「エドラス・ルビウス。中級冒険者だ。俺の実力を疑うなら推薦した"ギルドマスター"と"副ギルドマスター"に聞いてみろ。魔導具で録画してたらしいからそれを見てみるのもオススメだ。わかったか?」


「ぐっ……」


 冒険者ギルドは貴族の介入を許さない。だから、実力に関しては疑う余地がないのだ。

 俺の実力を疑うやつにはこれが一番効果的だ。


「あー!その映像俺も見たぞ!ダンテの野郎を殺しかけたやつな!」


 語弊しかない。

 シリウスの言葉にクラスの連中が引いてるじゃないか。


「ギルマスはあんぐらいじゃ死なないだろ」


「それもそうだなぁ。っと、あとやることはなんかあったっけなぁ」


 そう言い考え込むシリウス。この人本当に教師なのか?


「あー、そうだ。お前ら優等生に教えることはほぼない。登校日も月に1回だからお前らの思うように活動しろ。騎士隊に入るなり冒険者になるなり、研究者になるなり自由だ。だが、活動するにあたって絶対に守ることがある。それは……『死ぬな』だ」


『死ぬな』その一言に教室に緊張が走る。


「特に冒険者をやる奴らだな。自分のレベルにあった依頼を受けるのは当然だが、絶対に無理はするな。特待生という自惚れも捨てろ。お前ら程度世の中には五万といる」


 さっきまでのダルい雰囲気とは裏腹に真剣に話をしている。

 それだけ重要ってことだ。


「特に!!お前ら4人!!」


「「「「?」」」」


 シリウスに指を刺されたのはヒリス、ジーク、ルミナ、そして俺だ。


「魔族共に狙われているお前らは特に気を付けろ。もう知っていると思うが魔族は雑兵でも恐ろしく強い。特待生としてできる限りの自由は保証するが、奴らの動きは現状把握できていない。だから、十分気を付けて行動しろ」


「はい」

「ふん」

「はーい」

「あい」


「本当にわかってんのかコイツら……まぁいい、とりあえずなんだ、がんばれよ〜。んじゃ、オリエンテーション終わり!はい、帰れ帰れガキども!俺はガキのお守りが1番苦手なんだよなぁ」


 教師として有るまじき発言だな。

 まぁ、これで終わりなら次は1ヶ月後か。


「さてと……」


「エド!!」


 ヒリスが目をキラキラさせながら仲間になりたそうにこちらを見ている。

 こいつが言わんとしていることはわかる。


「冒険者ギルド行くか」


「うん!」


「あ、あの!エド、ヒリス!私もご一緒してもよろしいでしょうか」


「え?ルミナも冒険者になるのか?」


「えっと、なるというか、その……」


 そう言いおずおずと1枚のカードを見せてきた。


「中級の冒険者カード……冒険者になったのか?」


「はい、私も魔族に狙われる身ですので、自分の身は自分で守れるようにと、それに見聞を広めるにはやはり冒険者かなと」


「なるほどなぁ。なら、一緒に行くか」


「はい!」


 いよいよ冒険者デビューだ。


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