第21話 エルフの国のお姫様
闘技場控え室。
「ヒリス様!ポーションです!傷を……」
「大丈夫。自分で治すから」
(ここまで傷を負わされたのは……ディルナーデ以来ね。最初から最後まで油断してた訳じゃなかった、それでも……。もっと精進しないと)
「ヒリス、お疲れ様」
「エド!」
満面の笑みを浮かべ俺の元に走ってくるヒリス。さっきまでの凛々しい姿はどこへやら。
この姿だけ見ると年相応の女の子だな。
「一応聞くが、ジークは殺してないよな……?」
「当たり前じゃない。急所は外してるわ、たぶん」
たぶんて……。
「まぁなんにせよ、優勝おめでとう。これでヒリスは合格確定だな」
「ふふん、余裕よ!問題はエドね。筆記は問題ないだろうけど、実技は1回戦敗退だもの」
「それを言われると頭が痛いよ……」
本来であればベスト8くらいまで残ってって思っていたのだが……どこぞの馬鹿が細工したおかげで1回戦でジークと戦う羽目になった訳だ。
あのクソジジイ、今すぐボコりに行ってやろうか。
「最前は尽くした。あとは神にでも祈るさ」
祈る神がいれば、だが。
「それよりエド!ほら!試験も終わったんだし早く!」
「え?」
「え?じゃないわよ!早く行きましょ!冒険者ギルド!」
そんなに冒険者になりたいのか。
「あー、残念だが、まだ登録はできないよ」
「なんでよ!!」
「俺達はあくまで学生だ」
「特待生よ!」
ヒリスは確定だからそう言えていいよな!
「特待生でも学校に所属する限りは登録するのに学生証が必要なんだ」
「なーんーでーよー!!!」
なんでって言われたって……そういう決まりだとしか。
「特待生試験が終わった時点で、おそらく総合結果も出てるはずだ。合格発表は明日の朝だし、その時に学生証が貰えると思う」
「むー、わかったわ。でも、万が一落ちてたらエドはどうするの?」
「縁起でもないこと言うなよ……。まぁ父さん達には悪いが冒険者になるよ」
学校に留まっていたら学校の人達を魔族との戦いに巻き込みかねない。
「そう?なら落ちても一緒に冒険できるわね!」
だから縁起でもないこと言うなって……。
「お!エド、ヒリスこんな所にいたのか!」
「「陛下」」
俺とヒリスは頭を下げる。
この人は本当にどこにでもいるな。
「宴会の準備はできてるぞー!祝勝会だ!!」
「しゅ、祝勝会?俺一回戦敗退ですけど」
「ぬっ、では慰労会だ!既に準備はできてある!ジークも呼んでいるぞ!」
部屋に戻ってしっかり休みたいところだが、王様からのご招待だから、断る訳には行かないな。
「わかりました。行こうかヒリス」
「そうね、お腹空いたわ」
未だ止まぬ喝采を背に俺たちは闘技場を後にした。
◇◇◇
【ルーカディア王城:宴の間】
色んな料理がズラリと並べられている宴の間。連日騒動に関わっていた俺達はここ2日録に食事をしてなかったことに気付き、腹の虫が鳴く。
くっ……早く食べたい……けど、流石に乾杯もしてないのに食べるのは良くないよな……。
「流石王城の料理、おいしいわね」
数々の料理を皿に乗せたヒリスはもぐもぐしながら俺に話しかけてきた。
もう食ってるし……。
我慢できなかったんだな。
「食べないの?」
「あのなぁ……まぁ、いいや。後で食べるよ」
「そう?」
そんなことを話していると、グラス持ったシルヴァ王が登壇した。
膝をつき頭を垂れる。
「面を上げよ!今宵は宴だ!無礼講といこうではないか!」
上機嫌にそういうシルヴァ王だが、ふと真剣な顔となり語る。
「約2ヶ月前、この世界に突如として魔族が台頭し始めた。若き英雄たちによって最悪の事態は回避されたものの、魔族の驚異は依然として存在する。だが、この首都ゲラードに巣食っていた魔族共は駆逐し、撃退することができた。それは一重に散らかを存分に奮ってくれた若き英雄達のお陰だろう」
そう言い、シルヴァ王は頭を下げる。
一国の主が頭を下げるなんて、余程のことだ。
「知らず知らずのうちに魔族の侵入、侵略を許したのは、私の怠慢だ。申し訳ない。そして、この国を救ってくれてありがとう」
そういえば、この宴会に来ている人達はいつもの頭でっかちの貴族ではなく、冒険者や各部隊の騎士達、そしておそらく魔族からの防衛に携わったであろう貴族達。
なるほど、シルヴァ王は慰労会と言ったが特待生試験のというより、魔族からの防衛に携わってくれた人達への労いの為なのだろう。
「そして今回、ゲラードにちょっかいを出てきた魔族の黒幕である『公爵級魔族:夢幻のアルディーナ』を撃退することに成功した。今宵は皆へささやかながら宴の席を用意した。どうか存分に楽しんでくれ」
シルヴァ王はグラスを掲げる。
「乾杯!」
「「「乾杯!!!」」」
やっと飯にありつける……。
もう腹の虫が鳴りっぱなしだ。
ヒリスも言っていたが流石は王城の料理だ。
ホワイトバードのローストにアンラッシュカウのローストビーフ、極めつけは……。
「ワイバーンのステーキ……」
ヨダレが垂れるぜ。
ワイバーンはその希少性から非常に入手が困難だ。
公爵家の俺でも年に1回食べれるかどうかの珍味……。
今回はビュッフェ形式だ。多少は遠慮しながら大量に皿に盛ろう。
「おっと、そうだった!皆に紹介しないとな!」
そう言うシルヴァ王の隣には若い女性が立っている。
あの長い耳……それに、あの子どこかで。
「こちらは、我が国と友好国である隣国【エラルシュカ魔導国】の第二王女『ルミナ・エラルシュカ』殿だ。今回留学という形でこの国でしばらく暮らすことになった」
「ご紹介に預かりました。ルミナ・エラルシュカです。どうぞよろしくお願いいたします」
凛とした声に美しいブロンドヘアー、目が離せなくなる吸い込まれるような翠色の瞳。そして、特徴的な尖った長い耳、エルフだ。
「ねぇ、エド。あの子って城門の所で絡まれてた女の子じゃない?」
「言われてみれば……聞いたことのある声だ。よく気がついたな」
「ん?まぁあの子特徴的なマナだし、なんとなく?」
ヒリスのやつマナの知覚ができるようになったのか?
いや、知覚っていうよりも肌で感じ取ってる感じか。この歳でそれができるのは世界で見ても片手で数える程だろうな。
「ルミナ殿は『万能視』という稀有なスキルの持ち主でな!この街に潜む魔族達を見つけ出すのに一役買ってくれた!いやはや、その節はありがとう」
「いえいえ陛下、お役に立てたのであれば嬉しいです」
……今、なんて?
『万能視』だと!?ま、まずい、目を合わせたら……!!
そう考えた時には既に遅かった。
美しい宝石のような翠色の瞳が、俺の赤色の瞳をしっかり捉えていた。
背筋にゾワッと悪寒が走る。
【スキル:万能視】
物体からあらゆる情報を引き出すことができる。鑑定系スキルの中でも最上級スキル。
一説によれば、目を合わせたものは"その魂の本質"まで見抜くことができるとか。
魂の本質。
そう、俺が神の転生体であることも神の権能を有していることも見抜かれてしまう。
咄嗟に目を逸らしたが……どこまで見られた?
目を合わせないように恐る恐るルミナの顔を見ると、驚いたようにポカンと口を開けている。
そして、若干困ったようにニコッと笑い、首を傾げた。
「はぁ……」
「どうしたの?」
「いや、なんでもないよ」
見られた……よな。
まぁ、言い訳は後で考えるとしよう。
今はこの食事を楽しむのが1番だな。
「おい」
「ん?おお、ジーク。もう怪我は大丈夫なのか?」
相変わらず不機嫌そうな顔してやがる。
「ああ、あいつのお陰で重症程度で済んだからな」
こりゃ根に持ってんなぁ。
「エド、お前は冒険者になるのか?」
「まぁな、魔族共の調査もしたいし、狙われてる身としてはひとつの街に留まるのは得策じゃない。それに、もっと強くなるには見識を広めるのも悪くない手だからな」
「そうだな」
「お前も冒険者やるんだろ?お互い頑張ろうぜ」
ジークは軽く頷き踵を返す。
全く、素直じゃないなぁ。
「エド、お前魔剣に詳しかったよな」
「え?まぁ」
「その……なんだ。魔剣について何か有益な情報があったら教えろ。それだけだ、じゃあな。"合格してたら"学校で会おう」
「お、おう……って、頭が痛くなること言うなよ……」
あのジークが俺に協力を求めるなんてな。
こいつも意外と丸くなったのかな。
そいや、あいつアルディーナに捕まった時なんか感動的なこと言ってたってアル姉が言ってたっけ。
ほう、あれが俗に言う『ツンデレ』というやつか。
「可愛いところあるじゃん」
「可愛いってあのエルフの子の事?」
「んぐっ!!」
飲み物を口に含んだところでヒリスが背後からぬっと現れた。
「ゲホッ……ゲホッ……驚かすなよ……」
「な、なによ。エドのマナ感知もまだまだね」
「油断してただけだよ」
ふーんとジト目をしたヒリスが俺の顔を覗き込む。
「な、なんだよ」
「あーゆー子がいいの?」
「は?何言って……ああ、可愛いってのはあの人の事じゃないよ」
「本当にー?まぁエルフってだけあってすごい美少女よね!お近付きになれないかしら」
「なにおっさんみたいなこと言って……痛っ!足踏むなよ!」
「余計なことは言わない」
ヒリスめ、いつからこんな暴力女に……。
今までを思い返したが、割と昔から手は早かったな。
「それに、あの子のマナ、なんて言ったらいいかわかんないけど、異質よね」
「そうだな」
ルミナのマナの質は普通とは少し違う、感覚的に神のマナに近い。
もちろん、だからといってルミナが神という訳じゃない。
「万能視っていうスキルの特性上、既に神域に到達しているんだろう」
「へー、凄いわね」
神域とは言え、先天的な物だろう。訓練に訓練を重ね到達したものとは違う。
確かに凄いが、幼い体に見合わない強力なスキル……苦労しただろうな。
俺の情報を覗き見られてしまったが、とりあえず知らぬ存ぜぬを貫こう。
それに、相手は国賓だ。俺達は冒険者になってあっちこっち行く訳だし、そう関わることもないだろう。
そんな事を考えながら俺達は晩餐会を楽しんだ。チラチラと耳の長い人に見られ、話す機会を伺われていたようだが、関係ない。今日が終われば顔を合わせることもないさ。
◇◇◇◇◇
そう思ってた時期もありました。
翌日、俺達は王立学校の前に張り出された合格発表の掲示板を見に来た。
「ヒリスは当然ながら、首席合格だな」
「当たり前よ!勉強も頑張ったんだから!」
それよりも……、
・首席:ヒリス・アルノシア
・次席:ジークバルト・エアフリト
・3位:ルミナ・エラルシュカ
なんでだよ!!!
なんでさも当然のように受験してんだよ!!
学生て!国賓だろ!?第二王女だろ!?
てか、実技試験いなかったじゃん!!ズルい!!
「エドはどう?」
あ、そっか。
あまりの衝撃に自分の名前を見るのを忘れていた。
さて……どうだ。
・10位:エドラス・ルビウス
「あった」
危ねぇ……ギリッギリだ。
ジークと接戦を繰り広げたのが功を奏したか。
最下位だが、合格であることに変わりは無い。これで後ろめたい気持ちもなく冒険者活動ができる。
しかしどうしたものか……。
同じ特待生である以上関わりは持つだろうし、なにより俺は公爵家の人間だ。どっちにしろ関わる運命か。
「ごきげんよう、エドラス様、ヒリス様」
諦めかけたその時、背後から鈴を転がしたようなすごく心地の良い声が聞こえてきた。
件の女性、ルミナだ。
それにしてもこの声、やっぱりどこかで……。
「ごきげんよう、ルミナ様」
おお、ヒリスが優雅に一礼を……。
腰の剣と普段の素行を除けばヒリスも立派な淑女だな。
俺もヒリスに続き一礼する。
「お2人共、私はこれから学友となります、どうかルミナとお呼びください。敬語も不要です」
そう言われても一国の王女様だし。
「そう、なら遠慮なく。ルミナよろしくね!」
この切り替えの早さ、俺も見習わないとな。
「エドラス様も」
ぐいぐいくるなぁこの子。
「ああ、よろしく頼むよルミナ」
ルミナ、そう呼ばれると彼女は太陽のような眩しくも美しい満面の浮かべた。
正に絶世の美女。この笑顔で何人の男がやられたのやら。
「お2人にはお礼を言いたいとずっと思ってまして、お声掛けする機会を伺っていたのです」
お礼?
ああ、もしかして城門前の。
「やっぱりね。ルミナってあの城門前で冒険者に絡まれてた子でしょ?」
「はい!あの時は本当にありがとうございました!」
「でも、国賓なら貴族と同じ別門から入れるじゃない。なんであそこにいたの?」
「そ、それは……私のうっかりでして……」
うっかりって。
モジモジと恥ずかしそうに言っているが、お付の人も居るだろうし1人で移動してる訳でもないのにどうやって間違えるんだ?
これは、超が付くレベルの方向音痴かド天然のどっちかだな。
天然……か。
早めに切り上げるか。この天然っぷりでうっかり俺のことを喋られても困る。
特にヒリスにはバレたくないんだ。
「ヒリス、そろそろいくぞ。冒険者登録するんだろ?」
「そうだった!早く行きましょ!」
「それじゃ、ルミナまた学校で」
「え、あ、あの……」
「どうしたの?」
「いえ、また学校でお会いしましょう。今後ともよろしくお願いします」
若干しょんぼりしたようなルミナを尻目に、俺とヒリスは冒険者ギルドへと向かった。
ルミナ「……嫌われてしまいました」




