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第22話 冒険者

【王都ゲラード:冒険者ギルド】


「おぉ……」


 何度か見かけたことはあるが、やっぱりデカイなぁ。

 もちろん王城程ではないが、他の建物とは比にならないくらいデカい。どっかの商会かと思うレベルだ。


「流石は冒険者ギルドの総本部だ」


「早く行こ!」


「行くから腕引っ張るな」


 ドアを開けると、正面に受付があり、左右にはクエストボードや机椅子、パーティを募集している冒険者達が勧誘をしている。


「うわぁ、凄いわね!見て、エド!ライカンの討伐だって!これB級難易度なんだって!」


 ライカンか。確か王都に来る前に何体か討伐したっけか。ほとんどヒリスが倒したけど。


「少なくともヒリスはB級下位~上位クラスの実力はあるって事だな」


「何言ってんのよ、エドもでしょ」


 どうもヒリスは俺を買い被ってるんだよな。

 俺はそんな大した人間じゃないのに。


 あっちこっち動き回るヒリスを落ち着かせ、俺達は受付へと向かうとギルドの受付嬢が元気よく喋り始める。


「冒険者ギルドへようこそ!今回はどのようなご要件でしょうか!」


「冒け……

「冒険者登録をしたいの!!」


 人が喋ってる途中でしょうが。

 全く、ほんとまだまだ子供だな。


「冒険者の登録ですね!見たところお2人ともお若く見られますが、なにか身分を証明出来るものをお持ちですか?」


 ここで普通の学生証なら登録を拒否されてしまうが、特待生の学生証なら登録できてしまうのだ。


「はい!確認しました!実は特待生試験、私も闘技場で見てまして、お2人の戦いぶりは素晴らしかったです!」


「ありがとうございます」


 気を使ってお2人って言ってるが、俺の印象は薄いだろうな。

 だって1回戦敗退だし。


 拗ねてないやい。


「それではこちらにステータス情報をご記入ください!」


「あ、そうだ、これを」


 俺は魔導袋の中から1枚の紙切れを取り出した。

 これは2ヶ月前、ディルナーデとの戦いの後、目が覚めたら俺のズボンのポケットの中に入っていた。

 あの戦いで俺達を戦場から母様の所へ運んでくれたのは冒険者ギルドの人達だと聞いている。筋肉スキンヘッドとハーフアップダンディ(名前を知らない)のどちらかが入れたのだろう。


「これは……少々お待ちください!!!」


 紙を受け取った受付嬢は血相を変えて飛び出していった。


 あの紙に書いてあったのは


【冒険者になる時、受付嬢にこの紙を渡せ】


 といういたってシンプルな言葉だ。

 おそらくはあの紙自体に特別な意味があるのだろう。


 しばらくして、息を切らした受付嬢が戻ってきた。


「お、お待たせしました……」


 息を切らす受付嬢の背後から見覚えのある2人の姿が見えた。


「よう、久しぶりだな」


「グレイさん、2人は気絶してたんスから、ほぼ初めましてっすよ」


 筋骨隆々なスキンヘッドの男に、青い髪を後ろで一つにまとめたダンディな男。


「いえ、お2人のことは覚えてますよ。神託の儀式の宴会にもいらっしゃいました」


「お?そうか!はっはー、ナイル、残念だったな!」


「なにがっすか。それよりも」


「そうだったな!」


 2人は改めて俺達を見る。


「ようこそ冒険者ギルドへ。2ヶ月前から"君達"の活躍は知っている。冒険者という道を選んでくれたことを嬉しく思うよ」


 "君達"か。

 この人達はあの戦いを知っている。つまり、本当の英雄は俺とヒリス、2人いることを知っているってことだ。


「自分の名前はナイル・デドラ。見ての通り、水元素系統のスキルを操る後方支援型の冒険者であり、副ギルドマスターっす」


 み、見ての通り……?

 見ての通りだったから、身体強化系統のガチタンクって見た目なんだが。


「俺はグレイ・バレンシカだ!身体強化系統のスキルを操る前衛攻撃特化型の冒険者であり、この冒険者ギルドのギルドマスターだ!」


 どうだ!偉い人だぞ!と言わんばかりにエッヘンと胸を張るグレイ。

 それに呆れるように頭を抱えるナイルは2枚の紙を俺とヒリスに渡してきた。


「これは?」


「これは"階級特進申請書"だ。まぁ、簡単に言えばお前らは下級から始めなくてもいいぞ!ってやつだな」


 グレイの話によると、本来冒険者は登録したその日からランクは下級としてスタートするらしい。そこから実績を重ね、下級から下級中位、下級中位から下級上位とランクが上がっていくそうだ。

 中級からはモンスターの危険度が上がることからランクアップするのに"昇格試験"なるものを受けないといけないらしい。


 そして、この"階級特進申請書"は実力が認められており、中級からスタートが可能になる優れものだとか。


「いいんですか?俺達、まだ15歳ですけど」


「歳は関係ない!お前達の実力は知っている!本来この申請書には推薦人が必要なのだが、俺とナイルが推薦人となっている以上の必要もない!」


「じゃあ薬草集めとかやらなくてもモンスター狩りにいけるってこと!?」


「そう!その通りだ!」


「やったー!」


 大はしゃぎのヒリスだが、そんな美味い話があるのか?

 ヒリスだけならまだしも、俺まで。


「だが、まぁそうだな。ヒリス嬢は兎も角、エドラス君、君の推薦には懐疑的な意見がギルド幹部の間でも上がっていてな」


 その言葉を聞いた瞬間、ヒリスの笑みは消え、グレイを睨むように視線を向ける。


「エドの実力をうたがってるの?」


「そういう事だな。俺とナイルは2ヶ月前、エドラス君が活躍した事を知っている。だが、他の人は別だ。特待生試験でもジークバルト君相手に善戦をしたものの1回戦敗退。スキルの珍しさはあるがステータスは同年代でも中の下。『中級に上げても早死するだけ』『ヒリス嬢の威光にあやかっているだけ』って意見が多いな」


 グレイの言葉に更に睨みを強め、殺気にも似た気迫を放つ。

 ヒリスの強力な気迫を前にしても、グレイとナイルはどこ吹く風だ。

 さすがはギルマスとサブマスだ。俺達とこの2人の間にはかなりの実力差がある。


「やめろ、ヒリス。こればっかりは2人の意見が正しい」


「でも!」


「ヒリス」


 少し強めに名前を呼ぶとヒリスは殺気を抑え、俺の後ろに立ち外套を軽くつまんだ。

 こういう所は素直なんだけどな、如何せん俺の事になると短気すぎる。


「それで、この紙を渡してきたってことはチャンスはあるってことですよね」


「その通り。今から軽いテストを行う。それに合格すれば幹部共も文句を言うまい」


「それで、そのテストとは?」


 グレイはニヤリと笑う。

 嫌な予感しかしない。


「この俺とのタイマンだ」


 冗談だろ……。


「流石にあなたに勝てるとは思えないですけど」


「はっはっは!そりゃそうだろ!安心しろ、俺に一撃入れたら合格だ。シンプルでいいだろ?」


 このおっさん、俺のステータスではそれがどれだけ難しいことかわかって言ってやがるな。


「はぁ……やれるだけやってみます」


「よしきた!奥の部屋に来てくれ!」


 冒険者登録するだけだと思ってたのに、まさかギルマスと戦うことになるとは。


「エド、頑張って」


 正直、ヒリスに比べて俺はあまりに弱すぎる。

 でも、ヒリスが俺を信じてくれているんだ。あいつの信頼を裏切りたくない。

 俺のせいであいつの評価を下げるなんてことはあってはならない。だから、ここは本気でやらないとな。


 わしゃわしゃとヒリスの頭を撫でる。


「任せとけ。お前の幼馴染はタダじゃやられない」


 俺の言葉にヒリスは目を輝かせ大きく頷いた。


 気合いは十分だ。


 ◇


「この部屋は特殊な鉱石で出来ててな。そんじょそこらの攻撃じゃ傷1つ付かないぞ」


「そうですか」


 グレイは上着を1枚脱ぎワイシャツの袖を捲る。

 そして、その手には1本の剣が握られていた。

 見た感じ一般的な両刃の直剣だ。

 確か、前衛攻撃特化型の冒険者って言ってたな。


「さぁ、やろうか」


「よろしくお願いします」


【雷元素:エンチャント】


 俺は神刀を抜き取り、雷を纏わせる。


「いつ見ても変な感じだなぁ、一人の人間が複数のスキルを扱ってるなんて……おっと」


 〔ガンッ!!!!〕


「チッ……」


 瞬時にグレイに肉薄し、得物を振り下ろすが容易に受けられてしまう。


「ふむ、電流で無理やり筋肉を動かして瞬発力を爆発的に上げてるのか。面白い使い方だ。ステータスだけじゃ測れない身体能力ってことかな。スピードはまぁ、及第点だな。だが」


 押し込むようにグッと力を入れるがまるで押し切れない。岩山でも相手にしているようだ……。


「パワーが足りない」


「くっ……」


 簡単に弾き返されてた。

 力ではどう足掻いても敵わない……か。


「ふぅ……」


「ん?」


 俺は神刀を持ち大きくふりかぶり、全力で投げた。


「うおっ!!おいおい、自分から得物を手放し……おお!?」


 投げられた神刀に気を取られたうちに再度肉薄し拳を繰り出す。

 しかし、これもすんでのところで止められるた。


「ひぇー、今のは危なかったなぁ。だがいいのか?剣を無くして」


「剣士だと名乗った覚えはありませんよ」


「っ!!」


 グレイの顔面目掛けて上段蹴りを放つ。


「脚が切れちまうぞ!」


 〔ガンッ!!!〕


「切れ……ない!!鬼纏(きてん)か!!その歳でそのマナの扱い……!やるな!!」


 鬼纏(きてん)

 マナを体面に張り巡らせ、身体の強度を著しく向上させる。敵からの攻撃を軽減させる上に攻撃力も上がる技だ。これで剣相手に近接戦闘を挑んでも簡単に切り落とされることはないが……少しでも気を抜けば鬼纏は崩れてしまう至難の業だ。


 〔ガンッ!ガンッガンッ!!〕


「体術もできるとは大したもんだ!」


 攻めきれない……!!

 フェイントにも尽く対処されている。

 ステータスはもちろんだが、踏んだ場の数が違いすぎる……!!


「ほらほらこんなもんかぁ!?」


「くっ……」


 グレイの剣が頬を掠る。

 1歩後退するが、逃すまいとグレイが迫る。


「があっ……」


 そして、隙を突かれ腹部に強烈な蹴りを入れられ後方の壁まで吹き飛ばされた。


「はっはー!神刀の恩恵無しで良くやるもんだ!だが、その程度じゃ合格はやれねぇな?」


「ゲホッ……ぐっ……」


 この程度じゃダメだ。もっとだ、相手を殺すくらいの勢いで……。


「……いい目だ」


 殺意を帯びた瞳でグレイを見る。


【神剣召喚】

【雷元素】


『ケラウノス』


 俺の周囲には数本の雷の槍が生成され、浮遊する。こいつはホーミング機能付きだ。絶対に逃さない。


「へぇ、いいね」


 そして俺は再度大き振りかぶり、思いっきり投げた。


「同じ手には引っかかんねぇぞ!!」


 神刀がグレイを通り過ぎる瞬間、神刀と俺の間に一筋の稲妻が迸る。そして、俺はそれをなぞるように一瞬で追いつき、神刀を握った。


「んな!」


「オラァ!!!」


 刹那の一閃。


 〔ガンッ!!!!〕


 ギリギリと鍔迫り合いを繰り広げるが、力比べは俺が圧倒的に不利だ。

 力では不利だからこその手数勝負。


 生成した『ケラウノス』はグレイの背後に回り死角から襲う。


「これはまずいな!」


 俺の神刀を弾き返そうとグッと力を入れている。簡単に押し返されるだろうが、タダではやられない。


『雷網』


 弾き返される寸前、俺はグレイの周囲に雷の網を張り巡らせた。

 完全に隙を突いた。

 大人しく一撃食らいやがれ。


 しかし、俺の思いとは裏腹にグレイはニヤリと笑みを浮かべる。


「オラァア!!!」


「嘘だろ……」


 グレイは張り巡らされた雷網ごと迫るケラウノスを片っ端から斬り落としていった。

 とんでもない反応速度だ。

 それに、あの状態から僅かな技の綻びを見つけ、状況を打破しやがった。


「万策尽きたか?この程度の危機じゃ俺は止めらんねぇぞ?」


 くそっ、一撃入れるビジョンが湧かない……。


「もう終わりか?限界を超えてみろよ」


「なっ……」


 数メートルは離れていたはずのグレイが眼前に現れる。

 視界の端で血飛沫が上がった。

 これは、俺の血だ。

 いつの間に……。目でもマナの動きでも追えなかった。ほぼノーモーションでの高速移動。

 強すぎる……!!


「そんなんじゃ、守りてぇもんも守れねぇぞ!!」


 グレイのその言葉が俺の背に重くのしかかり、トラウマにも似た光景が脳裏を過ぎる。

 破壊される街、今にもディルナーデに殺されそうなヒリスの姿、血を流し倒れるルーピン。


「グレイさん!やりすぎだ!」


「止めるなナイル!まだ、終わってない」


「何言って……っ!!わかりました」


 戦いの様子をヒリスは固唾を飲んで見守る。

 こんな情けない姿を見ても俺を信じてくれてんだ。

 まだやれるよな、エドラス。


「……」


【模倣の権能:限界突破(リミットブレイク)


 たかが冒険者の試験だ。

 不合格でF級スタートだって別にいい。

 だけど、ここで引いたらダメな気がする。代償を払ってでも限界を超え、あのおっさんにふと泡吹かせてやらないと気が済まない。


 逆巻くマナの風圧、迸る雷電は猛々しさが更に増し、グレイを威圧する。


 この状態なら神刀の力を15%ほどまで解放できる。

 今はこれで十分だ。


「こい!!」


 左脚を引き、斜の構えを取り相手を見やる。

 全くと言っていいほど隙がない。

 隙がないなら、作るまでだ。


 グッと全身に力を入れると吹き荒れる雷電が更に勢いをましていく。


「これはまずい!!ヒリス嬢!!」


「は、はい!!」


 ナイルの叫びと共に、俺の姿は消えた。

 僅かな静寂の後、部屋中に轟音が響き渡る。


『幽冥一閃』


「そこまでだ!!!!!!」


 〔ガガンッ!!!!〕


 神刀を振り切る寸前、目の前に2つの影が差し掛かった。

 全力で俺を止めるナイルとヒリスだった。


「もう十分でしょう!!」


「エド!!」


 あと少しで……一撃を入れられたのに……。


 もう限界だ……。

 身体中から力が抜けていく。


「はぁ……はぁ……」


「よく頑張ったわエド、流石ね」


「ぐっ……」


 身体中に激痛が走る。限界突破の代償だ。

 くそっ、意識が……力を引き出したとはいえ僅か数分だぞ。

 それなのにこれだけの代償……キツイな……。

 ヒリスに抱えられながら、俺は意識を失った。

 我ながら、ダサいなぁ……。


「お疲れ様」


 〔バキッ!!!〕


 部屋の中では痛々しい殴打の音が響く。


「何考えてんだあんた!!あの子のあの力は明らかに自分を犠牲にしてるもんだ!見りゃわかるだろ!!あのままだったらお互いタダじゃすまなかったんだぞ!!」


「……すまん、つい楽しくなって」


「ついじゃない!!あんたハンデとか言って訓練用の直剣使ってんの忘れてるだろ!!」


 その言葉を聞き、手に持つ直剣を見てグレイは顔を青くした。

 グレイが使っていたのは自分が本来使っていた直剣ではなく、訓練用。そして、その直剣が、先程の剣圧だけで真っ二つに折れていたのだ。


「と、止めてくれてありがとな……死にはしないが、タダでは済まなかったな……」


「まじで勘弁して欲しいっすよ……」


「ヒリス嬢も悪かったな。エドラス君は2階の医務室に運ぼう」


「は、はい」


 ナイルは限界突破の代償で気を失ったエドラスを抱え、医務室まで運ぶのだった。


「グレイさん」


「な、なんだよ」


「勘弁してくださいよ」


「悪かったって!!」


 こうして波乱のエドラス限定冒険者ギルド試験が終わったのだった。

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