精霊使いと風の国/番外編・1
サラとシオドアの短い話です。
幼い頃のシオドアは、祖父と二人で暮らしていた。祖父のスイランは代々王家に仕えるシノビで、シオドアは物心がつく前から祖父によってシノビとしての教育を受けていた。
ある日、幼いシオドアは生まれたばかりの姫を祝う催しに参加するため城に連れていかれた。
「シオドア、こちらへ」
国王に名を呼ばれ、王妃の腕に抱かれた赤子の姫と対面したとき彼は即座に臣下の礼をとり、姫に忠誠を誓った。
「頼もしいな」
国王はシオドアを姫の子守役兼遊び相手に任命し、以降彼は一日の多くを姫と共に過ごすこととなる。
シオドア・ミヅキ、四歳の頃の出来事である。
「ねえねえシオちゃん」
「どうなさいましたか、姫さま」
今にも泣き出しそうな幼いサラに、シオドア少年は屈んで目線を合わせた。
「こわいゆめをみたの」
シオドアの裾をぎゅっと握り込むと、サラは涙を浮かべて唇を噛んだ。泣くまいと我慢しているサラを落ち着かせたくてシオドアはサラの小さな手を包み込んだ。
「私がお守りいたします、どんな怖い夢からでも。この命に替えても」
「そんなこといわないで……!」
サラはとうとうその場に座り込んで大泣きをし始めた。泣き止む気配のない少女に対する適切な対応は、シノビの教えにもなかった気がする。シオドアは少し困った様子で、サラの背中をぽんぽんと叩いた。
「シオちゃんが、いなくなるゆめをみたの。おかあさまみたいに、とおくへいっちゃうの。サラは、そんなのいやだよ……」
シオドアはサラを宥めるようにして、その背中をさすった。
「いのちにかえてもなんていわないで……」
「わかりました」
ようやく泣き止んだサラは、目の周りを赤くしてはにかんだ。
「シオちゃん、おおきくなっても、いっしょにいようね!」
「努力いたします」
はい、と言い切れないことを知っているシオドア少年は、目の前のサラの笑顔を守るために言葉を選んで答えた。
その日から、シオドアの中で何かが変わった。何があっても生きなければならないという信念が芽生えたのである。任務のために命を惜しまないのは、仕える主君に失礼にあたる。
死なないこと、そして、強くあること。
「ずっと、一緒にいようね」
サラの望みは全て叶えると決めた彼にとってその言葉は何よりも重く、死地においては何よりも心強いお守りにもなった。
やがて実力と地位を努力で掴み取った彼は、様々な出来事の末、十年越しの約束を叶えた。
「……サラ、ずっと一緒という約束を叶えてきた。これから先は私が護る」
シオドア・ミヅキは努力と忍耐を体現した男なのである。
〈了〉




