竜と妖精の琥珀・3
早朝、夜明けとほぼ同時刻にノエルは目を覚ました。ノエルはソファから体を起こしてエルトの方を見ると、彼はまだ眠っていた。呼吸は浅く、苦しそうだった。音を立てないようにソファから降りると、なるべく静かに準備体操を始めた。少し体を動かしてから腕立てなどのトレーニングをしているうちに外は明るくなっていた。素振りを終えて水を飲み、ソファに横になる。エルトの苦しそうな寝息だけが聞こえてきて、ノエルはバンダナを首元まで下げてみた。精霊たちのさざめきの中に何か違和感がある。この家にはヒトと精霊以外の何かがいることに気が付いてノエルは意識を集中してみたが、それが何かは分からなかった。ノエルはバンダナを元の位置に戻すと、少しの間天井を眺めてから目を閉じた。
(エルトにはなるようになったって言ったけどさ、おれだって悔しいよ)
ノエルは瓦礫に押し潰された時の痛みを思い出した。炎を消すことに集中しすぎて身を守ることが疎かになった結果がこれだ。自分はまだいいが、エルトは自分とは違うのだ。
「はあ……」
ノエルは大きくため息をつくと、そのまま深く息を吸って深呼吸にした。
「エルトが怪我してんだ、おれが落ち込んでちゃダメだよな」
ノエルはソファから体を起こして立ち上がると、顔を洗いに部屋を出た。
朝食を済ませて日が高くなってきた頃、カイトの家に訪れる者がいた。村長夫婦とその息子である。火事の中で助けた少年は村長の息子だったのだ。彼らはノエルとエルトに何度も頭を下げて、借りていたノエルのローブと見舞いの品、そして謝礼金を置いて帰っていった。
「律儀だよなあ、村長さんたち」
ノエルは見舞いの品として籠に盛られた果物の中から、柑橘類を手に取って呟いた。
「無事に助けられて良かった」
熱でぼんやりとしながらエルトも囁いた。
「さて、見舞客も帰ったことだし、貼り薬交換するぞエルト君。覚悟はいいか?」
カイトは手拭いと包帯を持って入室してきた。後ろには湯を張った洗面桶を持ったプロトが続いている。
「駄目だと言ってもするんでしょう? よろしくお願いします」
「その覚悟や良し。まあ、ちょっと痛いかもだけど頑張れ」
エルトの言葉を聞いて、カイトはへらりと励ました。上衣を脱がせて包帯を解くと肋骨付近が青黒く変色していた。
「ちょっと体拭いてから新しい薬にするからさあ。響いたらごめんねえ」
「耐えます」
カイトは手拭いを湯に浸して固く絞ると、手際良くエルトの体を拭き清めていった。当のエルトは目を閉じて息を止めている。
「は、……うっ」
「こっち押すと痛いだろ? ヒビ入ってんだよ。だからこうして貼り薬して包帯でぎゅっと固定しとくわけ。痛いなー、頑張れー」
カイトの口調は軽いが手早く的確に手当てを行っていた。
「ちゃんと息して。なるべく深くな。浅い呼吸だけだと肺に悪いんだ」
包帯を巻き終わるとカイトはエルトに新しい上衣を着せた。ついでに下衣も脱がせて下半身も拭き、新しい下衣に取り替える。
「プロトこっち洗濯物な」
「はいなのです!」
洗濯物を受け取ったプロトはパタパタと小走りになりながら洗い場へと置きに行った。
「は……、うう……」
エルトは涙目になりながら胸の痛みを耐え切った。額には脂汗が浮かんでいる。
「昼飯食ったら痛み止めやるよ。それまでなんとか耐えといてくれ」
「……了解した」
エルトは息も絶え絶えに、カイトに返答した。
「まあ、果物でも食って待ってりゃすぐよ。フルーツナイフならここにあるから、ノエル君が皮を剥いてあげたらいい」
「……おれ?」
柑橘類を静かに食べていたノエルは、会話の矛先が自分に向いたため素っ頓狂な声をあげた。
「だってオレ果物の皮剥けないもん。ノエル君は旅してるくらいだし、これくらいできるでしょ?」
「えーっと、その……おれも皮は剥けないんだ」
「じゃあ小さく切ってあげたらいい。ナイフが使えるなら簡単だろ? まあオレは下手すぎて使えないんだけどさあ」
カイトの瞳が真っ直ぐノエルを射抜いて、ノエルはぞわりと肌が粟立つのを感じた。
「ナイフを使えない理由なら、オレは家事全般が苦手だからだ。手術なら平気なんだけどさ、なんかこういうの苦手なんだよね。ノエル君はどうなんだ?」
カイトはフルーツナイフを手に取ると、自分の腕に押し当てて軽く引いた。刃先に触れた皮膚が切り裂かれて鮮血が滴る。ノエルとエルトは平然とそれを行うカイトを信じられないようなものを見る目で見た。
「オレにとっちゃ、こんなのどうってことないんだけどな」
切り裂かれた傷口は、あっという間に塞がり完全に治っていった。血が付着している以外は皮膚はすっかり元通りだ。
「ノエル君が刃物使えないのさあ、お前も『こう』だからじゃないのか?」
青を抱いた琥珀色の瞳がギラリと光る。その鋭さは嘘を良しとしない強さを持っていた。
「……カイトはすごいな」
ノエルはぽつりと呟いた。
「近いけど、そうじゃないんだ、カイト。怪我がすぐに治るのは、その通りだよ。おれは魔術師じゃなくて精霊使い。ちょっと訳があって、全ての精霊がおれのことを護るから、怪我してもすぐに治るんだ」
ノエルは言葉を選びながら続けた。
「刃物が使えない理由はちょっと違う。おれの血は、生き物にとって毒なんだ。だからエルトの水の精霊が〈水の天秤〉……おれから流れた血を薄めて無力化してくれることになってて、その誓約として刃物が持てないんだ」
「……ノエル、いいのか?」
エルトの言葉にノエルは頷いた。
「だってさ、カイト頭良いから放っといてもどうせここまで辿り着くだろ。だったら正直に話しといたほうが良さそう」
ノエルの言葉にも一理あった。下手に探られるより正直に話しておいた方が良い場合も時としてある。
「じゃあ、改めて自己紹介でもしようか。オレはカイト。本名はとっくの昔に捨てたから今はただのカイトだ。医者もどきの研究者、27歳」
「ノエラルド・ユラシル、〈超回復力〉持ちの精霊使い」
「エルティリュート・フィアス、〈水の天秤〉の役割を持つエルフだ」
「プロトはプロト・1なのです! 12歳になりました!」
「なんだプロト戻ってたのか?」
驚くような声をあげたカイトに、プロトは得意気に答えた。
「プロトは戻っていたのですよー。果物切るならプロトにお任せなのです」
「じゃあお前に任せるわ。ナイフ汚しちまったから洗ってくる」
カイトはそう言ってフルーツナイフを持って退室すると、プロトが大きな瞳で見上げてきた。
「エルトさんは、どの果物が食べたいですか?」
「プロトにお任せするよ」
「じゃあこれにするのですよ。甘くて美味しいのです」
プロトは小さな手で黄色い皮の果物を掴むと、戻ってきたカイトからフルーツナイフを受け取って器用に皮を剥き始めた。
「ノエル君はさあ、他人と違うって自覚したときどう思ったんだ? 怪我がすぐに治るって確かに便利なんだけど、それだけじゃないだろ?」
「そうだな……おれは昔からずっとこうだったから。でも、最近は『怖い』って思うよ。おれ以外が傷付くのが怖い」
ノエルはエルトをチラリと見て呟いた。
「恐れることを知らないのはただの無謀な愚か者だ。怖いって思えるのは良いことだとおにーさんは思うけどねえ。……まあ、オレもずっと、怖かったよ」
カイトは目を伏せてぽつりと言った。カイトは白衣のポケットから煙草を取り出すと一本咥えて、火をつけようとして止めた。
「おっと、怪我人の前だったな。なんかさあ、境遇は違うけどオレたちちょっと似てるっていうか? 他人には言えない苦労を共有する点においてはノエル君と仲良くなれそう、ってかんじ?」
「……あまり似てるとは思わねーけど」
「まあまあ。気持ちの問題よ。困ったことがあったら力になりたいと思える程度に親近感湧いてるわけ。何かあったら頼ってちょうだいよー」
カイトはへらへらと笑いながら言うと、咥えてる煙草をポケットにしまった。
「ついでにさあ、血をちょっと分けてもらえたら嬉しいな、って」
「だから、それは断る」
「えー? どうせ傷がすぐ塞がるんでしょ?」
「すぐ治るといっても、痛いのは嫌だ」
「仕方ないなあ……オレなら有意義に研究できると思うんだけど。まあ、気が変わったら言ってよ。いつでも歓迎するからねえ」
カイトは白衣を翻すと煙草を吸うために部屋の外へと移動した。
「気が変わることはねーと思うけどな」
ノエルはカイトの背中を見送りながらぽつりと呟いた。
* * *
ノエルは洗い場を借りると、灰と煤まみれの衣服を洗濯することにした。大きなタライに水を溜め、衣服を沈めて石鹸で汚れを落としていく。ノエルの服はすぐ綺麗になったが、エルトの服には血液が付着しており落とすのに時間がかかった。充分に濯いで汚れと石鹸を落とせば、あとは水の精霊に命じて水分を取り除くだけである。
「水の精霊に命ずる。服の水分を取り除け」
水を吸って重たくなっていた衣服は、あっという間に乾いて元通りになった。洗濯という大仕事を大幅に短縮したノエルを見てプロトは歓声をあげた。
「ノエルさん、すごいのです!」
「皆には内緒だぞ」
ノエルは口元に人差し指を立てると、プロトも真似をして口元に人差し指を立てて頷いた。
「プロトはお洗濯、洗うのは好きですけど干すのが苦手なので羨ましいのです。プロトは小さいから……」
身長が低いため、物干し竿に干す際いつも苦労しているのであった。
「プロトはさ、小さいけど今でも充分家事が上手いだろ。だから、大きくなったら干すのが簡単になるぞ」
「……プロトは、ずっとこのままなのです」
「え……?」
プロトの言葉が一瞬理解できず、ノエルは聞き返した。
「プロトは12歳なのです。でも、成長は七年前から止まっているのです」
「それって、どういうことだ?」
「プロトはカイトに造られた人造亜人プロトタイプ1号なのです。ハチもカイトに造られたのです」
プロトの瞳はまっすぐで、嘘を言っているようには思えなかった。
「造られた、命……?」
ノエルは、ヒトの手で命が造れるなどと一度も考えたことがなかった。だが、目の前にいるプロトがそうだと言っている以上それは現実なのだ。
「プロト、悪い子だなあ勝手に秘密を漏らして」
いつの間にか話を聞いていたカイトが洗い場に入ってくる。
「でも、カイトはノエルの秘密を聞いてたのです」
プロトは怖気付く様子も見せずただ真っ直ぐにカイトの目を見て言った。
「それを言われちゃうとね、そうねー、としか言えないんだよなあ」
カイトは頭を掻きながらぼやいた。
「ノエル君のことが知りたかったのは個人的な好奇心の範疇だ。悪いことには使わないから安心してほしいなあ、なんて」
「カイトは信用ならないのです」
「生みの親にそれ言う? ショックなんだけど」
「でも信頼はしているのです」
「それは良かった〜」
カイトは泣く仕草をしながらプロトに抱きついた。
「……」
カイトとプロトのやり取りを眺めていたノエルは、この家にいるヒトでも精霊でもない違和感の正体に気が付いた。目の前のこの二人だ。バンダナを首元までずらして目を凝らすと、カイトの気配に何かが混ざっているのが判る。ノエルはバンダナを元の位置に戻すと、カイトに問いかけた。
「カイト……お前は一体何者なんだ? 純粋なヒトではない気配がする」
「……まあ、ノエル君なら気付いちゃうよねえ。オレはね、混ざりものなんだよ」
カイトはそう言いながら眼鏡を外すとノエルの瞳を正面から見詰めた。
「……っ!」
その瞬間、ノエルの体が痺れ全身の自由を奪われた。その場で膝から崩れ落ちたノエルをカイトが支え、そっと床に寝かせた。
「お前と同じ訳アリってことだ」
カイトは眼鏡をかけ直すとへらりと笑って言った。
「オレはさあ、ただの人間だったんだけど、ある日突然竜と妖精の血が混ざっちゃったって訳。自然界ならまず有り得ない組み合わせなのよ、竜と妖精って。竜と妖精と人間……三つの血が合わさった〈トリニティ・ブラッド〉って名付けられたんだけど、これがまた特異体質でさあ。傷はすぐ治るわ視線は他人を痺れさせるわで。〈超回復力〉と〈邪眼〉持ちになってしまった若き日のカイトさんはそれなりに苦労したのよ」
ノエルは痺れる体から無理矢理言葉を紡いだ。
「なんで……おれに言うんだ?」
「どうせノエル君は旅人だし、わざわざ村人にこんなこと言いに行かないでしょ? 世界にひとりぼっちのオレたちなら、良い理解者になれるかもって、そう思ったんだ。これはただのオレの直感だけどねー」
カイトはへらへら笑いながら自嘲気味に呟いた。体の感覚が戻ってきたノエルは、ゆっくりと体を起こす。
「あれ? もう痺れ取れた? さすが〈超回復力〉持ちは違うわな」
「カイトの事情は分かったよ。話してくれてありがとう。でもさ、それだけの力があるんだったらおれの血なんて簡単に採れるだろ? どうしてそれをしないんだ?」
ノエルの問いはもっともだった。
「それはそうなんだけどさあ。無理矢理そういうことするの好きじゃないんだよねえ」
カイトの返答は意外なものだった。
「オレが手にしたのは人外の能力だ。でも、それを私欲のために使うのはヒトの道に反するっつー矜持があんのよ。少なくともオレにはね」
「意外とまともなんだな」
「お褒めいただきありがとー」
ニコニコ笑顔のカイトはノエルの両手を取るとぶんぶんと振り回した。
「でもまあ例外はあるぞ。治療が必要なのに暴れる患者をおとなしくさせる時とかな」
「なるほど?」
「麻酔ナシで処置する必要があるときにめっちゃ活躍の〈邪眼〉。平和的利用だから許されると思わない?」
「おれにはよくわからないな……」
ノエルは明後日の方向を見ながら呟いた。
昼食後、薬を飲んで眠っているエルトをプロトに任せてノエルとカイトはリビングでお茶をしていた。カイトにとって、煙草はただの嗜好品ではなかった。ソファでくつろいでいるカイトは、ポケットから取り出した煙草を手の中で弄んでいた。
「吸わねえの? それ」
同じくソファに座ってお茶を飲んでいるノエルは、カイトに問いかけた。
「悩むところなんだよねえ。オレの頭の中には竜と妖精の意識が住んでんのよ。切り離せない同居人ってかんじ? で、そいつらが騒ぎ始めたときに煙草を吸うと頭の中が静かになるわけ」
「へえ……そんなことがあるんだ。おれも精霊たちの声が聴こえすぎるときあるよ」
「お前も煙草試すか?」
カイトは笑いながら煙草の箱をノエルに差し出した。
「いや、遠慮しとくよ」
ノエルは即答する。少し考えてから、ノエルは口を開いた。
「……本当に頭の中の声を遮断したいなら、特別な金属でドワーフに装身具を作ってもらうといいよ」
「ほう……ドワーフねえ」
「効果があるのはおれが身をもって知ってる。紹介はできないけど、探せばどこかにいると思う」
「覚えておくよ。まあ、コレを含めてオレだ、という気持ちが今のところ大きいな」
カイトは遠くを見るような眼差しで呟いた。
「カイトに任せるよ」
ノエルはもうそれ以上何も言わなかった。エルトの様子を見に行ったノエルを見送り、カイトはソファに埋もれたまま目を閉じた。
「レックス、ピンキー、……少しは静かにしてくれ」
夜になってもエルトの熱は下がらなかった。スープと粥の夕食を済ませたエルトは、貼り薬と包帯を取り替えるために待ち構えているカイトとプロトを前にして諦めの境地に達していた。
「お薬を取り替えるのです」
「今回は体拭かないから痛みは少ないと思いまーす」
「……よろしくお願いします」
上衣の紐を解いてそっと脱ぐと、エルトは息を止めた。何をしても痛いし何もしていなくても痛いのだ。心を無にする訓練と思いながら耐えているうちに薬と包帯の交換が終わった。上衣を着せられて紐を結べば元通りだ。エルトはクッションにもたれかかると、細く息を吐いた。
「お疲れさまなのです」
プロトはタオルを手に取ると、エルトの額の脂汗を優しく拭った。
「ありがとう、プロト」
「さて、次はこっちだ。飯食って寝るのが一番だからな。薬飲んで寝とけ」
「はは……いただきます」
エルトはカップに入った煎じ薬を一気飲みすると、追加で水を飲んだ。痛み止めの類いはどうしてこうも不味いのだろう。
「ははは、不味そうな顔してんなあ。まあ、薬が美味かったら要らんときでも飲んじまうからな。良薬口苦しって言葉があるくらいだ、ちゃんと効くから大丈夫だ」
「ずっと痛くて、あまり効いてる実感が、ないですけどね。眠くはなりますけど……」
「そりゃ、薬がなかったらもっと痛いってことよ。痛くて呼吸できないくらい? そうなると治るもんも治らないから、痛みを緩和してる間に飯食って寝ろっていうのが治療方針なわけ。オレ特製の煎じ薬分けてやるから旅に戻ってもちゃんと飲めよ?」
カイトは飄々とした態度で言った。
「ありがとうございます。……どうして、ここまで親切に、してくれるんですか?」
「そりゃあ、村長に治療費貰ってるからな! 村長には何かと世話になってるし。損得勘定ありきでも、ヒト同士が助け合うことには変わりないだろ? 恩を売っておけば困ったときなんとかなるしさあ。まあ、結局は自分のためだな」
カイトは自嘲気味に笑って言った。エルトはそんなカイトの様子を見て、眉を下げて笑った。
「優しいんですね……」
「えー、そうか? 金貰ってなければ応急処置だけしてつまみ出してるぞ」
「仕事としては、正しいと思います」
エルトはプロトの懐き具合を見ても、カイトのことは悪い人だと思えなかった。
「お風呂サンキュー」
カイトの家には珍しく風呂が備え付けられていた。浴槽は無く、水道管に取り付けられた魔道具が適温の湯を出すタイプの簡単なものではあるが、体を拭くよりもさっぱりするためとてもありがたかった。湯を存分に浴びてきたノエルは借りた部屋着に着替えると、タオルで髪の毛を拭きながらエルトの部屋に戻ってきた。
「今寝たところだ。静かにな」
カイトは穏やかな声でノエルに告げると、足音を立てずに部屋を出ていった。ドアが閉まるのを待って、ノエルはベッドサイドに突っ伏した。
「ごめんな……」
眠るエルトの横顔を眺めながら、ノエルは小さく謝罪の言葉を呟いた。本人が聞いたら怒るであろう言葉だ。
(おれがもっと強かったら、しなくて済んだ怪我だ)
きっとエルトは気にするなだとか自分が未熟だからだとか言うのだろう。それでも、ノエルは責任を感じずにはいられなかった。窓を開けて星空を見る。名もなき下位精霊と星々が瞬くのが見えた。
(ちゃんと力を制御するんだ、両腕が届く範囲だけじゃなくて、もっと)
「強くなるんだ、もっと……」
ノエルが零した言葉は、夜空だけが聞いていた。
〈つづく〉




