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第8話 王太子

ヴィクトール様の弟子になって、三年が過ぎた。


七歳で弟子入りした私も、もう十歳になっていた。


魔法の勉強は順調だった。


魔法陣の研究。


魔力の制御。


新しい魔法の習得。


毎日が楽しい。


私はいつも通り、ヴィクトール様のもとで、修行していた。


魔法陣の本を読んでいると。


「……?」


いつもとは違う。


馬の蹄の音がする。


窓の外を見てみると、


森の小さな家には不釣り合いなほど豪華な馬車。


「……誰か来たのかな?」


隣にいたアレクも、馬車を見る。


「珍しい。」


ヴィクトール様は外へ出ると、少しだけ目を細めた。


「ほう。」


「これはまた、面倒な客が来たの。」


「師匠?」


私が尋ねるより先に。


馬車の扉が開いた。


最初に降りてきたのは、豪華な衣装を身にまとった男性だった。


その姿を見た瞬間。


私は息を呑む。


(国王陛下……。)


ゲームの中でも見たことがある。


『光の聖女と闇の魔王』の舞台となる、この国の王。


その隣には、もう一人。


金色の髪に、青い瞳の少年が立っていた。


私と同じくらいの年齢に見える。


(あ……。)


(カイル・レガリア。)


(『光の聖女と闇の魔王』の攻略対象者の一人だ。) 

(私より一つ年下だったはず)


(……あれ? 王太子って、ヴィクトール様の弟子だったっけ?)


ゲームでは学園からの話が中心だったから、幼い頃のことはほとんど描かれていない。


(まあ、ゲームで語られていないだけなのかな。)


「ヴィクトール。」


国王陛下が声をかける。


「久しいな。」


「おぬしがここへ来るとは珍しいの。」


ヴィクトール様はいつものように飄々としている。


「今日は頼みがあって来た。」


国王陛下は少年へ視線を向けた。


「この子は、カイル・レガリア。」


「私の息子だ。」


少年は一歩前へ出る。


「初めまして。カイルです。」


王族らしい丁寧な挨拶。


けれど、その表情には少し緊張が浮かんでいた。


「まあ立ち話もなんだから、中に入れ」


皆が家の中に入り、狭いリビングに座った。


ラウラは慣れた手つきでお茶を用意する。


「早速だがこの子を、ヴィクトール、お前の弟子にしてほしい。」


国王陛下の言葉に、ヴィクトール様は眉を上げた。


「……弟子、のう。」


ちらりとカイル様を見る。


「王族の坊やを、わしの弟子に?」


「そうだ。」


国王陛下は頷いた。


「この子には、王太子として必要な知識だけではなく、本物の力を身につけてほしい。」


「わしのところは、楽な場所ではないぞ。」


ヴィクトール様は淡々と言う。


「毎日走る。」


「魔力制御の訓練もする。」


「泣き言を言っても、手加減はせん。」


その言葉に、カイル様は少しだけ表情を引き締めた。


「大丈夫です。」


「覚悟はあります。」


迷いのない返事。


ヴィクトール様はしばらく黙っていた。


そして。


「……はぁ。」


小さく息を吐く。


「まあ、お前さんの頼みじゃ。」


「断れんな。」


国王陛下が少し笑う。


「すまない。」


「礼はいらん。」


ヴィクトール様は手を振った。


「弟子にするからには、王子だろうが何だろうが関係ないからの。」


「覚悟しておけ。」


「はい!」


カイル様は元気よく返事をした。


◇ ◇ ◇


「では、紹介しておこう。」


ヴィクトール様は私たちを見る。


「こちらはラウラ・アストレア。」


「わしの弟子じゃ。」


「そして。」


隣を見る。


「アレクセイ・ノクス。」


「同じく、わしの弟子じゃ。」


アレクは腕を組んだまま、カイル様を見る。


「……王子。」


「そうだけど。」


カイル様もアレクを見る。


「君がアレクセイ?」


「すごい魔力量を持つって聞いたよ。」


「俺、天才だから」


即答。


私は思わず笑った。


「アレク、それ本当に好きだよね。」


「事実だから。」


カイル様は少し目を丸くしたあと、笑った。


「面白いね。」


「別に。」


アレクはそう言ったけれど、嫌そうではなかった。


◇ ◇ ◇


「ラウラ嬢。」


呼ばれて振り返る。


「はい?」


カイル様が少し首を傾げた。


「君も、ヴィクトール様の弟子なんだよね?」


「はい。」


「いつから?」


「7歳の時からなので、3年前からです」


そう答えると、カイル様は少し目を丸くした。


「じゃあ、僕より先輩なんだ。」


「そうなりますね。」


カイルは少し考え込んだあと、ぱっと顔を上げた。


「じゃあ、色々教えてもらわないと。」


「え?」


「よろしくね、ラウラ先輩」


そう言って、にこりと笑う。


「は、はい!」


突然先輩と呼ばれて、私は慌てて頷いた。


こうして。


ヴィクトール様のもとに。


三人目の弟子が加わった。

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