表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/46

第9話 新しい弟弟子

カイル様がヴィクトール様の弟子になった翌週。


約束通り、カイル様が修行にやって来た。


「おはようございます!」


元気よく馬車から降りてきたカイル様は、私たちを見つけると笑顔で手を振った。


「おはようございます、王太子殿下」


私が頭を下げると、カイル様も笑顔で応える。


「おはよう、カイルでいいよ。ラウラ先輩。」


「え?」


思わず聞き返す。


「僕より三年も先に弟子になったんだから、先輩でしょ?」


「そ、そうなりますね……。」


少し照れくさくなる。


その横で、アレクがぼそりと呟いた。


「王子。」


「おはよう、アレクセイ。」


「……。」


相変わらず愛想はない。


でも、前回より少しだけ空気が柔らかい気がした。


「さて。」


ヴィクトール様が手を叩く。


「修行を始めるぞ。」


「はい!」


カイル様は背筋を伸ばした。


「まずは走れ。」


「……え?」


予想通りの反応だった。


「魔法じゃないんですか?」


「体力がなければ魔法も扱えん。」


ヴィクトール様は当然のように答える。


私は思わず笑ってしまう。


「私も最初、同じことを言いました。」


「ラウラ先輩も?」


「はい。森を一周走らされました。」


「そうなんだ。」


カイル様は苦笑したあと、気合いを入れるように拳を握った。


「よし、頑張ります!」


◇ ◇ ◇


森の中を三人で走る。


最初に飛び出したのはアレクだった。


軽い足取りで、あっという間に先へ行ってしまう。


「速い……!」


カイル様が驚く。


「遅い。」


前を走るアレクが振り返りもせず言った。


「まだまだ。」


「負けない!」


カイル様も速度を上げる。


剣術を習っているだけあって、体力は十分あるようだった。


私は二人の後ろを一定のペースで走る。


(さすが王子様。思ったより速い。)


それでも。


アレクとの差はなかなか縮まらなかった。


◇ ◇ ◇


森を一周して戻ると、ヴィクトール様が薪の前で待っていた。


「次は薪割りじゃ。」


カイル様は渡された斧を見つめる。


そして、不思議そうに尋ねた。


「師匠。」


「なんじゃ。」


「これは身体強化魔法を使ってやるんですか?」


私は少し感心した。


確かに、魔法の修行ならそう考えるのも自然だ。


けれど。


「は?」


アレクが呆れたような顔をした。


「こんなの、身体強化するまでもないだろ。」


「え?」


カイル様が目を丸くする。


私は思わず苦笑した。


(アレクなら、そう言うよね……。)


ヴィクトール様はニヤリと笑う。


「アレクの言う通りじゃ」


「まずは自分の身体を鍛えろ。」


「魔法に頼る癖がつけば、いざという時に足元をすくわれる。」


「身体一つでできることは、身体一つでやる。」


カイル様は真剣な表情で頷いた。


「……分かりました。」


その横で、アレクがぼそりと呟く。


「身体強化は、身体ができてから。」


「じゃないと魔力の無駄。」


「その通りじゃ。」


ヴィクトール様は満足そうに頷いた。


「ほれ、始めい。」


私は慣れた手つきで薪を割る。


コツを掴んでからは、それほど苦ではなくなっていた。


「カイル様は、肩の力を少し抜くと割りやすいですよ。」


「こう?」


「もう少しだけ。」


カイル様が言われた通りに斧を振る。


パカン、と気持ちよく薪が割れた。


「できた!」


思わず嬉しそうな声が上がる。


「ありがとうございます!」


「いえ。」


するとアレクが薪を一つ手に取った。


軽く斧を振り下ろす。


パカン。


一撃だった。


「うわ……。」


カイル様が思わず声を漏らす。


「すごいね。」


「普通。」


アレクは肩をすくめる。


「俺、天才だから。」


「またそれ。」


私は思わず笑ってしまう。


カイル様も吹き出した。


「本当にその台詞が好きなんだね。」


「事実だから。」


真顔で返すアレクに、私とカイル様は顔を見合わせて笑った。


◇ ◇ ◇


昼食を終えると、ヴィクトール様が木箱を持って庭へ出てきた。


「午後は三人一緒に修行じゃ。」


私たちは顔を見合わせる。


するとヴィクトール様は木箱を開き、黒い腕輪を取り出した。


「アレク。」


「これをつけろ。」


「……またか。」


珍しく嫌そうな顔をするアレク。


「それは?」


カイル様が不思議そうに尋ねる。


私も見たことがない。


「私も初めて見ます。」


ヴィクトール様は腕輪をアレクへ放り投げた。


「魔力制御の腕輪じゃ。」


「今日は魔力を一割まで制限する。」


「一割!?」


カイル様が目を丸くする。


「そんなので戦えるんですか?」


「戦えって言う方がおかしい。」


アレクはため息をつきながら腕輪をはめた。


カチリ、と音が鳴る。


「……重い。」


「それくらいでちょうどよい。」


ヴィクトール様は笑う。


「力がある者ほど、制御を覚えねばならん。」


◇ ◇ ◇


ヴィクトール様が杖を地面へ突く。


次の瞬間。


土が盛り上がり、人の三倍はある巨大なゴーレムが姿を現した。


「うわっ……!」


カイル様が一歩後ずさる。


「これを倒せ。」


「三人での。」


「えっ、それだけですか?」


「修行とはそういうものじゃ。」


ヴィクトール様は木陰へ移動し、お茶を飲み始めた。


「考えろ。」


「……。」


三人で顔を見合わせる。


「僕がやってみる!」


カイル様が炎魔法を放つ。


轟音とともに炎が包む。


しかし。


ゴーレムは何事もなかったように立っていた。


「そんな……!」


今度はアレクが魔法を放つ。


鋭い魔力弾が胸を貫く。


けれど穴はすぐに塞がってしまった。


「一割じゃ押し切れない。」


アレクが眉をひそめる。


私はゴーレムをじっと見つめた。


(……違う。)


(壊す相手はゴーレムじゃない。)


視線が右肩で止まる。


複雑な魔法陣が淡く輝いていた。


「あっ!」


「二人とも待って!」


私は叫んだ。


「あそこ!」


「右肩の魔法陣!」


「核になってる!」


アレクが目を細める。


「……なるほど。」


私はカイル様を見る。


「カイル様、正面から攻撃してください!」


「気を引いている間に私が術式を崩します!」


「分かった!」


炎魔法がゴーレムへ向かう。


私は魔法陣へ魔力を流し込んだ。


「今!」


「アレク!」


「当然。」


短い返事とともに、一割まで抑えられた魔力が一直線に放たれる。


寸分違わず核を撃ち抜いた。


次の瞬間。


ゴーレム全体に亀裂が走る。


そして、音もなく崩れ落ちた。


静寂が辺りを包む。


「やった……!」


カイル様が嬉しそうに声を上げる。


ヴィクトール様はゆっくり立ち上がると、小さく頷いた。


「まあ、こんなもんじゃろ。」


「ラウラ。」


「はい。」


「よく見ておったな。」


「ありがとうございます。」


「カイル。」


「はい!」


「臆せず動けたのは良かった。」


「考えるのはこれから覚えればよい。」


「はい!」


嬉しそうに背筋を伸ばすカイル様。


そして最後にアレクを見る。


「アレク。」


「……。」


「最初から力で押し切ろうとしたじゃろ。」


「少しは考えて戦え。」


「……考えた。」


「最初は考えとらん。」


「……。」


返す言葉がないのか、アレクは黙り込む。


その様子に、私は思わず笑ってしまった。


「でも、最後の一撃は完璧でした。」


「一割とは思えませんでした。」


アレクは少しだけ視線を逸らす。


「……腕輪がなければ、一発だった。」


「だから修行なんでしょ。」


私がそう言うと、アレクは少しだけ口元を歪めた。


「……まあ。」


その様子を見て、カイル様が笑う。


「ラウラ先輩がいなかったら、僕たち勝てませんでした。」


「そんなことありません。」


私は首を振る。


「私一人でも無理でした。」


「カイル様が時間を作ってくれて、アレクが最後に決めてくれたからです。」


「三人だったから勝てたんですよ。」


「……そうだね。」


カイル様は嬉しそうに頷いた。


ヴィクトール様も満足そうに目を細める。


「その通りじゃ。」


「一人でできることには限界がある。」


「仲間の力を活かすことも、強さの一つじゃ。」


庭に心地よい風が吹き抜ける。


アレクが腕輪を見つめ、小さく息をついた。


「……次は、一割でも一人で壊す。」


その呟きに、私は苦笑する。


「まずは師匠に褒められるようになろうね。」


「……。」


「無理」


その一言に、私とカイル様は吹き出した。


庭には、三人の笑い声がいつまでも響いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ