第7話 息を合わせて
水の蝶の練習をしてから、数日後。
その日も私はヴィクトール様の家で修行をしていた。
午前中の修行を終え、庭へ戻ると、ヴィクトール様が机の上へ小さな透明の魔石を置く。
陽の光を受けて、きらりと輝いた。
「今日は少し変わった修行をする。」
私は魔石を覗き込む。
「これ、何ですか?」
「魔力同調用の魔石じゃ。」
ヴィクトール様は私とアレクを見比べた。
「二人で同時に魔力を流し、この魔石を安定して光らせる。」
「一人では意味がない。」
「息を合わせることが大事な修行じゃ。」
私は思わずアレクを見る。
「二人で?」
「そうじゃ。」
ヴィクトール様は頷いた。
「将来、複数人で魔法を使うこともある。」
「今のうちから覚えておけ。」
私は少し緊張しながら魔石へ手を伸ばした。
向かいにはアレクが立つ。
「始め。」
私はそっと魔力を流す。
すると。
「わっ!」
バチッ!
小さな火花が散った。
私は思わず手を引っ込める。
「痛っ。」
「早すぎじゃ。」
ヴィクトール様が苦笑する。
「魔力は相手に合わせて流す。」
「一人でやる魔法ではないぞ。」
「はい……。」
私は少し恥ずかしくなる。
もう一度。
今度はアレクを見る。
アレクも私を見ていた。
「……せーの。」
小さく声を掛ける。
「うん。」
二人同時に魔力を流す。
魔石が淡く光った。
でも。
すぐに光が揺らぎ、消えてしまう。
「惜しい。」
ヴィクトール様が頷く。
「今の感覚を忘れるな。」
何度も挑戦する。
火花が散ったり。
光が消えたり。
魔力がぶつかって弾かれたり。
そのたびにヴィクトール様は短く助言をくれた。
「押しすぎじゃ。」
「今度は弱すぎる。」
「合わせろ。」
何度目だっただろう。
「……今。」
アレクが小さく呟く。
私は何も考えず、その声に合わせて魔力を流した。
ふわり。
魔石が優しい光に包まれる。
光は揺れることなく、静かに輝き続けた。
「できた!」
思わず声を上げる。
ヴィクトール様も満足そうに頷いた。
「うむ。」
「ようやくじゃな。」
私は嬉しくてアレクを見る。
「やったね!」
「うん。」
アレクも少しだけ笑った。
「ラウラ。」
「え?」
「さっきのは。」
「俺じゃなくて、光に合わせた。」
「光?」
「うん。」
「……?」
「分かんなくても、そのうち分かる。」
まだよく分からない。
でも。
「今のはできた。」
それだけで十分嬉しかった。
ヴィクトール様は腕を組みながら二人を見つめる。
「ほれ見ろ。」
「今のお前たちは、何も言わんでも合わせられる。」
「喧嘩でもせん限りはの。」
私は照れくさそうに笑った。
その隣で、アレクも少しだけ得意そうな顔をする。
「まあ。」
「俺、天才だし。」
「そこは変わらんの。」
ヴィクトール様が苦笑し、
私は思わず吹き出した。
庭には三人の笑い声が、穏やかに響いていた。




