第43話 それぞれの日常
次の週の放課後。
私はいつものように魔法研究部へ向かった。
部室へ向かう途中、生徒会室の前を通りかかる。
開いた扉の向こうから、聞き慣れた声が聞こえた。
「ありがとう、アレク!本当に助かったよ。」
「……資料を運んだだけだ。」
「いやいや、それが一番助かるんだ。あとこっちも、あるんだけど。」
「聞いてないぞ。」
「そうだっけ?」
思わず苦笑する。
(また捕まってる……。)
扉の隙間から見えたアレクは、腕を組んだまま少し呆れたような顔をしている。
けれど、カイル様はまったく気にした様子もなく笑っていた。
「君なら一瞬でできるでしょ?よろしくね。」
「……。」
その先は聞かず、私は部室へ向かった。
きっと結局、手伝うのだろう。
昔から、アレクはああいう押しには弱い。
◇ ◇ ◇
その日の夕食。
食堂で隣り合って座ると、オリヴィアが嬉しそうに口を開いた。
「お姉様。今日、薬草部へ入部届を出してきました。」
私は微笑む。
「これで正式に薬草部員だね。」
「はい!」
オリヴィアは本当に嬉しそうだった。
「先輩方も優しくて、育てている薬草もたくさんあって……。覚えることは多そうですけど、とても楽しみです。」
「オリヴィアなら大丈夫だよ。」
「ありがとうございます。」
その様子を見ていると、自然とこちらまで嬉しくなる。
オリヴィアも、自分の居場所を見つけられたようだ。
「アレクセイさんは?」
オリヴィアが首を傾げる。
「魔法戦闘部へ入るんですか?」
「入らない。」
アレクは食事の手を止めることなく答えた。
「たまに付き合うくらいで十分だ。身体が鈍るのは困るからな。」
「やっぱり、その理由なんですね。」
私は笑う。
「それ以外に何がある。」
本当に、この人らしい。
本人はただ、身体を動かす機会が増えたくらいにしか思っていない。
◇ ◇ ◇
それからの日々は、慌ただしく過ぎていった。
オリヴィアは薬草部の活動にもすっかり慣れ、放課後には薬草の手入れや調合の勉強に励んでいた。
「この薬草は、乾燥させる時の温度が大切なんです!」
嬉しそうに話す姿を見るたびに、本当に薬草部が好きなんだなと思う。
一方、アレクは相変わらず魔法戦闘部への入部を断り続けていたものの、なぜか週に一度は訓練場へ顔を出していた。
「入部したわけじゃない。」
そう言いながら、結局は部員たちの相手をしている。
カイル様はそんなアレクを、時々生徒会の仕事へ巻き込みながら楽しそうに笑っていた。
気がつけば、新しい生活にもすっかり慣れていた。
そして――。
それから一ヶ月後。
食事を終え、寮へ戻る途中のことだった。
オリヴィアがふと足を止めた。
「お姉様。」
「どうしたの?」
「……何でしょう。」
少し困ったように首を傾げる。
「なんか、気になることがあるんです。」
「気になること?」
「はい。」
オリヴィアは学院の奥――古い森が広がる方角へ視線を向けた。
「うまく言えないんですけど……。何かが、私を呼んでいるような気がするんです。」
その言葉に、私は静かに森の方を見つめた。
夕日に染まる木々は、いつもと何も変わらないように見えた。




