第42話 噂
翌朝。
教室へ向かう途中から、周囲がどこか騒がしかった。
「昨日の魔法戦闘部、見た?」
「ああ。ノクス君、一人で全員の攻撃を避けたらしい。」
「しかも指導までしたって。」
そんな声があちこちから聞こえてくる。
私は思わず苦笑した。
(もう噂になってるんだ)
教室へ入ると、アレクはいつも通り窓際の席に座っていた。
「おはよう。」
「……おはよう。」
昨日と変わらない様子。
まるで本人だけが噂を知らないみたいだった。
「周り、すごいね?」
「そうか?」
「アレクの話ばっかり。」
「興味ない。」
(本当にこういうところは変わらない。)
私は肩をすくめた。
◇ ◇ ◇
放課後。部活見学も五日目。
今日はオリヴィアと史学部を見学した。
「すごい蔵書でしたね。」
寮へ戻る途中、オリヴィアが嬉しそうに話す。
「専門書もたくさんありましたし、古い魔法書まで置いてありました。」
「そうだね」
私は頷き、少し歩いてから尋ねた。
「これで見学は一通り終わったけど……。」
「入りたい部は決まった?」
オリヴィアは少し考えてから、小さく微笑んだ。
「はい。」
「私はやっぱり薬草部がいいかなと思いました。」
「薬草部?」
「回復魔法だけじゃなくて、お薬や薬草の勉強もしたいんです。聖力とも相性が良さそうですし。」
私は微笑んだ。
「オリヴィアらしいね。」
「ありがとうございます。」
オリヴィアは少し照れたように笑う。
「来週、入部届を出そうと思います。」
「うん、頑張ってね。」
「はい!そういえば、昨日の魔法戦闘部のこと、もう学院中で話題になっていますね。」
「そうみたいだね。」
「でも……。」
オリヴィアは少し笑う。
「私、一番驚いたのはそこじゃないんです。」
「え?」
「アレクセイさん。お姉様が話すと、ちゃんと応えてくれるんですね。」
「……。」
思わず瞬きをした。
「他の方にはあんなに素っ気ないのに。お姉様といる時だけ、少し雰囲気が柔らかい気がしました。」
「そうかな?」
「はい。」
オリヴィアはにこりと笑う。
「きっと、お姉様だからですね。」
(そんなこと……。)
私は否定しかけた。
でも。
昨日も。
「もう一回付き合ってあげたら?」
そう言ったら、文句を言いながらも付き合ってくれた。
昔からそうだった。
私が頼むと、なんだかんだ聞いてくれる。
でも、それは昔からだから。
家族みたいなものだし。
ゲームでは、アレクはオリヴィアを好きになる。
ただ、長い付き合いだから特別に見えるだけなんだ。
そう自分に言い聞かせると、不思議と胸のざわつきは少しだけ落ち着いた。




