第34話 猫と出会い
放課後。
授業を終えたオリヴィアは、一人で寮へ戻る途中だった。
校舎の裏庭を歩いていると、
「にゃあ……。」
か細い鳴き声が聞こえてきた。
「え?」
声のする方を見ると、大きな木の枝に、小さな子猫がしがみついている。
「降りられなくなっちゃったの?」
見渡しても、近くには誰もいない。
「待っててね。」
オリヴィアは迷わず木へ登り始めた。
昔から実家の庭木で遊んでいたため、木登りには慣れている。
慎重に枝を渡り、子猫へ手を伸ばす。
「大丈夫。怖くないですよ。」
子猫をそっと抱き上げると、小さく「にゃあ」と鳴いた。
「よかった。」
安心して笑みを浮かべた、その時だった。
「……何をしている。」
突然聞こえた低い声に、オリヴィアは思わず肩を震わせた。
「きゃっ!」
驚いた拍子に足を滑らせた。
体が傾く。
(落ちる……!)
そう思った次の瞬間。
ふわりと体が浮く。
気づけば、力強い腕に抱き留められていた。
「……っ。」
恐る恐る目を開けると、目の前には同じクラスのセドリック・グランヴィルがいた。
「あ……。」
慌てて離れようとする。
「す、すみません!」
子猫だけはしっかり抱きしめたまま、地面へ降り立つ。
セドリックは静かに尋ねた。
「……大丈夫か。」
「は、はい。」
オリヴィアは何度も頷く。
セドリックの視線が、腕の中の子猫へ向く。
「何をしていた?」
「この子が木から降りられなくなっていて……助けていたんです。」
セドリックは小さく息をついた。
「……無茶をするな。」
「ご、ごめんなさい。」
しゅんと肩を落とすオリヴィア。
しばらく沈黙が流れる。
やがてセドリックは子猫を見つめ、小さく口を開いた。
「……だが。」
オリヴィアが顔を上げる。
「……この子も、助けてもらえてよかったな。」
そう言って、子猫の頭をそっと撫でた。
「にゃあ。」
気持ちよさそうに目を細める子猫を見て、オリヴィアも思わず笑顔になる。
「よかったです。」
セドリックはそんな笑顔を一瞬だけ見つめ、
「……気をつけろ。」
それだけ言うと、セドリックは背を向けて歩き出した。
「あ、はい!ありがとうございました!」
オリヴィアが頭を下げると、腕の中の子猫はぴょんと地面へ飛び降り、元気よく駆けていった。
その後ろ姿を見送ると、オリヴィアも寮への道を歩き出した。
セドリックとは、同じクラスになって初めて交わした言葉だった。
ほんの短いやり取り。
けれどオリヴィアの胸には、不思議と温かなものが残っていた。




