第33話 四人の昼食
食堂は昼時ということもあり、多くの生徒で賑わっていた。
料理を受け取り、四人で空いている席へ向かう。
周囲からは、相変わらず視線を感じる。
「やっぱり見られてますね。」
オリヴィアが小さな声で呟いた。
「気にしなくていいよ。」
カイル様が穏やかに笑う。
「そのうち慣れるから。」
「はい。」
オリヴィアは少し照れたように頷いた。
向かい合って席に座る。
私の隣はオリヴィア。
向かいにアレク、斜め前にカイル様。
自然とそんな並びになった。
「そういえば。」
カイル様が楽しそうに口を開く。
「オリヴィアさんは、どこかの部活に入るのかな?」
「部活……ですか?」
オリヴィアは首を傾げた。
「まだ、どんなものがあるのかよく分からなくて。」
「そうだよね。入学したばかりだし。」
私は頷く。
「部活の見学期間は一週間後から始まるはずだよ。その時に気になるところを見に行けばいいんじゃないかな。」
「そうなんですね。」
オリヴィアは安心したように笑った。
「聖女のお仕事もあるので、両立できる部活がいいかなと思います。」
「聖女候補のお仕事って、いつあるの?」
オリヴィアはこくりと頷いた。
「週末にあります。今までは実家の近くの教会でお手伝いをしていました。」
少し嬉しそうに続ける。
「でも学園に入学したので、これからは学園近くの教会へ通う予定です。」
「そうなんだ」
私は小さく頷いた。
(やっぱり、ゲームと同じ。)
週末になるとオリヴィアは教会へ通い、そこで人々を癒やし、少しずつ周囲から慕われていく。
その積み重ねが、後の『光の聖女』へと繋がっていくのだ。
「大変そうだね」
カイル様が感心したように言う。
「学園の勉強もあるし」
「いえ。」
オリヴィアは首を横に振った。
「私にできることは少ないですけど、困っている人のお役に立てるなら嬉しいんです。」
「ステキだね。」
私が微笑むと、オリヴィアは少し照れたように笑った。
その様子を見ていたアレクが、小さく口を開く。
「無理はするなよ。」
たった一言。
それでも、オリヴィアは嬉しそうに笑って頷いた。
「はい。」
「僕も一度見に行ってみたいな。」
カイル様がそう言うと、オリヴィアは少し慌てたように首を振った。
「王太子殿下がお越しになると大騒ぎになります……。」
すると、カイル様は苦笑する。
「確かにそうか。」
そこへ、アレクがぽつりと呟いた。
「迷惑だな。」
「ちょっと、アレク。」
私がたしなめると、アレクは平然とした顔で言い返す。
「本当だろ。」
その言葉に、カイル様も肩をすくめた。
「確かに。僕一人ならともかく、アレクも必要になるしね。」
「そうですね。」
オリヴィアも少し困ったように笑う。
「でも、いつか落ち着いたら来ていただけると嬉しいです。」
「うん。その時はお願いするよ。」
カイル様が笑顔で答える。
そのやり取りを見ていると、不思議な気持ちになった。
ゲームでは、カイル様とオリヴィアが出会うのは学園入学後。
そして、少しずつ距離を縮めていく。
でも今は、こうして自然に会話をしている。
(少しずつ、変わっている。)
私はそう思いながら、食事を進めた。
「話は戻るけど、オリヴィア。」
「はい。」
「部活はもう決めたの?」
先ほどの話を思い出して尋ねる。
「まだ迷っています。」
オリヴィアは少し首を傾げた。
「聖女候補としての活動もありますし、無理なく続けられるものがいいかなって。」
「まだ見学も始まっていないもんね。」
私は頷く。
「まずはいろいろ見てまわるといいよ」
「はい。」
「部活の見学が始まったら、お姉様と一緒にまわってもいいですか?」
「お姉様?」
とカイル様が驚く。
遠慮がちに尋ねるオリヴィアに、私は微笑んだ。
「もちろん。気になる部活があったら、一緒に見に行こう!」
「ありがとうございます、お姉様!」
嬉しそうに笑うオリヴィアを見て、自然とこちらまで笑顔になる。
「もし魔法に興味があるなら、魔法研究部にも遊びに来てね」
「お姉様の部活ですよね?」
「うん」
私は頷く。
「魔法陣や魔法理論について研究する部活なんだよ」
「楽しそうです!」
オリヴィアの目が輝く。
「私、魔法は好きなんです。でもあまり得意ではなくて……。」
「大丈夫だよ。」
私はすぐに首を振った。
「魔法は才能だけじゃないし。知識や努力で伸ばせることもたくさんあるよ」
「ラウラ先輩らしいね。」
カイル様が笑う。
「昔からずっと勉強熱心だったもんね。」
「そうですか?」
「そうだよ。」
カイル様は懐かしそうに頷いた。
「ヴィクトール様のところでも、いつも魔法陣の本を読んでたし。」
「……。」
隣のアレクが小さく口を開く。
「本当に好きだよな。」
「うん、大好き。」
私が答えると、アレクは少しだけ目を細めた。
「知ってる。」
短い言葉。
でも、幼い頃から一緒にいたアレクだからこそ出る言葉だった。
するとカイル様が、
「そういえば、オリヴィアさん」
「さっきから気になってたんだけど……」
「ラウラ先輩のこと、お姉様って呼んでるんだ?」
と聞いてきた。
「はい!優しくて、頼りになって、美しいので!」
私が、
「美しくはないでしょ」
と返すと、
「何言ってるんですか!お姉様はスラッとしていて、榛色の綺麗な髪に、紫水晶のような瞳をおもちで、とても美しいではないですか!」
とオリヴィアが熱弁してきた。
「……オリヴィア、あ、ありがとね……。
でもあなたの方が、見た目はもちろん、中身もとっても可愛いよ?」
「お姉様……!ありがとうございます!」
「……。」
「……ふーん、僕もお姉様って呼んでもいいかな?」
「やめてください!悪目立ちします!」
「だよね。」
4人で笑い合った。
(本当なら、アレクとカイル様、それにオリヴィアがこうして笑い合うのは、もっと後だったはず。)
(私が変えてしまったんだろうな。)
(でもこの変化が、みんなを幸せな未来へ導いてくれればいいな)




