第32話 初めてのお姉様
今日は授業はなく、自己紹介や、教科書の配布などで午前中でおわった。
「それじゃあ、今日はここまでだ。」
先生の声と同時に、生徒たちが席を立つ。
私は教科書を片付けながら、小さく息をついた。
(新学期初日、無事に終わった。)
隣ではアレクが、すでに荷物をまとめ終えている。
「寮にもどるか。」
「うん」
私は鞄を持ち上げた。
二人で教室を出ると、廊下ではあちこちから視線を感じた。
(やっぱり目立つな)
最年少で王宮魔法騎士団に入団したアレク。
みんなが気になるのも無理はない。
私はそんなことを考えながら歩いていた。
⸻
女子寮へ戻り、しばらくすると、部屋にオリヴィアが帰ってきた。
「おかえりなさい。」
「ただいま戻りました。」
オリヴィアは、ぱっと笑顔になった。
「お疲れさま。」
「お疲れさまです!」
部屋へ入り、荷物を置く。
「午前だけでも、なんだか疲れました。」
オリヴィアがほっと息をつく。
「最初の日は、みんなそうだよ。」
私が笑うと、オリヴィアも安心したように笑い返した。
「あの……。」
少し遠慮がちに口を開く。
「ラウラ先輩。」
「ん?」
「ラウラ先輩って、すごく優しくて頼りになるので……。その……お姉様って呼んでもいいですか?」
思わず目を丸くした。
「お、お姉様?」
「はい!」
オリヴィアは少し照れながら上目遣いで見てくる。
「ずっと、先輩みたいなお姉さんが欲しかったんです。」
「!」
やられた……。
「……好きに呼んでいいよ」
「ありがとうございます、お姉様!」
嬉しそうな笑顔があまりにも可愛くて、断る理由なんて見つからなかった。
「じゃあ、お昼を食べに行こう!」
「はい!」
⸻
男女共通の食堂へ向かう途中。
入口の近くで見覚えのある二人の姿を見つけた。
「ラウラ先輩、オリヴィアさん」
カイル様がこちらへ軽く手を振る。
その隣には、アレクが立っていた。
「ちょうどよかった。」
「一緒に食べない?」
「もちろんです。」
私は頷いた。
「オリヴィアもいい?」
「はい!」
オリヴィアは嬉しそうに返事をする。
こうして四人で食堂へ足を踏み入れた、その瞬間――
ざわっ、と周囲の空気が変わった。
「あれ、王太子殿下だ。」
「隣はアレクセイ・ノクス。」
「聖女候補のベルンさんまで。」
「……アストレア様も一緒。」
あちこちから小さな声が聞こえてくる。
(やっぱり。)
私は苦笑した。
(王太子様に、アレク。それに聖女候補のオリヴィア。)
(三人が一緒なんだから、目立つのも当然だよね。)
私はそう結論づけ、一人納得して頷いた。
そんな私の考えとは裏腹に、周囲の視線は王太子だけでも、アレクだけでも、聖女候補だけでもなく――四人全員へと向けられていた。




