第31話 新しいクラス
アレクと並んで教室へ入ると、一斉に視線が集まった。
……正確には、私に、ではない。
みんなが見ているのは、その隣を歩くアレクだった。
「本当にアレクセイ・ノクスだ。」
「最年少で王宮魔法騎士団に入ったっていう……。」
「すごい魔力量なんだよね。」
教室のあちこちで、小さな囁き声が聞こえてくる。
けれど当の本人は、そんな視線など気にした様子もない。
空いてる席に、何事もなかったように腰を下ろした。
私も隣に座った。
ほどなくして担任の先生が教室へ入ってきた。
「席につけ。」
教室が静まり返る。
「まずは、新年度最初のホームルームだ。」
先生は教壇から教室を見回した。
「このクラスは、私が担任することになった。一年間よろしく。」
「クラス替えもあった。初めて同じクラスになる者も多いだろう。」
「その前に、一人紹介しておく。」
先生はアレクへ目を向ける。
「ノクス君、立ってもらえるかな?」
アレクは静かに立ち上がった。
「紹介しよう。アレクセイ・ノクス君だ。」
「今年度から編入する。最年少で王宮魔法騎士団へ入団したことで有名だから、知っている者も多いだろう。」
教室がざわめく。
先生は続けた。
「王太子殿下の護衛任務を兼ねて学園へ通うことになったが、学園では皆と同じ一生徒だ。」
「詳しい自己紹介は後で本人からしてもらう。」
アレクは軽く一礼すると、着席した。
「さて。」
先生は出席簿を開く。
「せっかくだ。クラス替えもあったことだし、一人ずつ自己紹介をしてもらおう。」
教室の空気が少し和らぐ。
「前の列から順番に頼む。」
一人、また一人と名前を名乗り、好きなことや所属する部活を話していく。
「魔法具作りが好きです。」
「剣術部に入ってます。」
「今年もよろしくお願いします。」
短い自己紹介が続く。
やがて私の番が回ってきた。
私は立ち上がり、教室を見渡した。
「ラウラ・アストレアです。」
「魔法研究部に所属しています。」
「一年間、よろしくお願いします。」
軽く頭を下げると、小さな拍手が聞こえた。
そして、隣のアレクの番になる。
アレクは静かに立ち上がった。
「アレクセイ・ノクスだ。」
「よろしく。」
それだけ言って席に座る。
教室が一瞬静まり返り、次の瞬間、小さな笑いが起こった。
「短い。」
「もう終わり?」
そんな声があちこちから聞こえてきた。
すると、少し前の席の女子生徒たちが、ひそひそと話し始める。
「顔はすごくかっこいいのにね……。」
「もう少し愛想があったら完璧なのに。」
「でも、ああいうところが逆にいいのかも。」
私は思わず、隣のアレクをちらりと見た。
整った横顔に、さらさらの黒髪。
黙って座っているだけなのに、やけに目立つ。
(……確かに、顔はいいんだよね。)
昔から見慣れているはずなのに、改めてそう思う。
すると、視線に気づいたのか、アレクがこちらを見た。
「……何。」
「ううん、何でもない。」
慌てて首を振ると、アレクは不思議そうに眉をひそめながら、再び前を向いた。
(中身は全然変わってないんだけどな。)
私は小さく笑いをこらえた。
必要なことしか話さない。
そんなところも、アレクらしかった。
学園でも、その性格は変わらないらしい。
先生も苦笑しながら言った。
「……まあ、ノクス君らしい自己紹介だったな。」
教室は和やかな空気に包まれ、新しい一年が静かに始まろうとしていた。




