第28話 新しいルームメイト
「こっちが女子寮だよ」
私はオリヴィアを案内しながら、寮の入り口へ足を踏み入れた。
「ありがとうございます。」
オリヴィアはほっとしたように微笑む。
その笑顔は、ゲームで見た印象そのままだった。
優しくて、どこか放っておけない雰囲気。
受付へ向かうと、寮監の女性が私たちを見て微笑んだ。
「アストレアさん、こちらの方は新入生かしら?」
「はい。」
「オリヴィア・ベルンです。よろしくお願いします。」
「はい。それじゃあ、説明するわね。」
寮監は名簿を確認して頷いた。
「まず、アストレアさんは二年生になったので、一年生のお世話役をお願いすることになります。」
「これまで同室だった先輩は三年生のお部屋へ移動したから、今日から一年生と同室よ。そして、同室なのは、こちらのベルンさん。色々教えてあげてね。」
「承知しました。」
私は静かに頷いた。
(やっぱり。)
ゲームでも、ラウラとオリヴィアは同室だったため、ラウラはほぼ名前だけ登場していたのだ。
「よろしくお願いします!」
オリヴィアはぺこりと頭を下げた。
「改めまして、一年のオリヴィア・ベルンです」
「こちらこそ改めまして、二年のラウラ・アストレアです。一年間よろしくね。」
「はい!」
嬉しそうに返事をするオリヴィアを見て、思わず頬が緩んだ。
◇ ◇ ◇
二人で荷物を持って部屋へ向かう。
「そういえば……。」
オリヴィアがおずおずと口を開いた。
「アストレア先輩って、あのヴィクトール様のお弟子さんですよね?」
「そうだけど……。有名なの?」
「はい。」
オリヴィアはこくこくと頷く。
「魔法がすごいって聞きました。」
「そんなことないよ!まだまだ勉強中。」
そう答えると、オリヴィアは少し笑った。
部屋へ着き、荷物を置いたところで、オリヴィアが遠慮がちに言った。
「あの……。」
「もしよかったら、ベルンさんじゃなくて、オリヴィアって呼んでもらえませんか?」
「その方が嬉しいです。」
「うん、分かった。それなら私のことも、ラウラって呼んでね。」
「わかりました。ラウラ先輩!」
私は微笑む。
「オリヴィア。」
名前を呼ぶと、オリヴィアはぱっと表情を明るくした。
「はい!ありがとうございます!」
その笑顔を見ていると、自然とこちらまで笑顔になる。
◇ ◇ ◇
荷物を整理しながら、私はふと尋ねた。
「聖女候補のベルンさんって、オリヴィアのことだよね?」
オリヴィアは少し困ったように笑う。
「はい……。」
「聖女候補と言われていますけど、まだまだ未熟なんです。」
謙虚な返事だった。
聖女候補――。
それは、聖力を持つ者の中でも、特に優れた力を持つ者に与えられる呼び名だ。
聖力は、魔力とはまったく別の力。
魔法を使うために必要な魔力とは違い、治療魔法を使うには聖力が必要になる。
そして、聖力を最も多く持つ者が聖女となる。
現在、国内で最も高い聖力を持っているのがオリヴィアだった。
だから、オリヴィアは聖女候補として学院に通うことになった。
卒業後には正式に聖女となることが決まっており、すでに次期聖女として、教会や孤児院などでさまざまな活動も行っている。
まだ学生なのに、国中から期待されているのだ。
それでも、オリヴィア本人は決して驕ることがない。
(ゲームと同じ。)
人に期待されても驕ることなく、自分にできることを精一杯頑張ろうとする。
そんなところが、多くの人を惹きつけるのだろう。
私は小さく微笑んだ。
「きっと大丈夫だよ。オリヴィアなら。」
「……ありがとうございます。」
照れたように笑うオリヴィアは、本当に優しい子だった。
◇ ◇ ◇
荷物の整理が終わる頃には、部屋はすっかり二人分の生活の雰囲気になっていた。
窓からは、春の柔らかな陽射しが差し込んでいる。
(この子がオリヴィア。)
(ゲームの主人公。)
(そして――。)
私は静かに荷物の上へ視線を落とした。
(これから一年間、私のルームメイト。)
ゲームでは名前ぐらいしか語られなかったラウラ・アストレア。
けれど今は違う。
私は、この物語の中で生きている。
そして今頃、アレクとカイルも入寮している頃だろうか。
(明日になれば、きっと会える。)
春の風が、静かに窓を揺らした。




